それぞれの視点 日向雛ver. - 94日目 -

 合唱コンクールが終わって一日が経ちました。ですがまだ苦難はなくなっていないんですよね。期末テスト、今回は何人の泣き目を見ることになるか楽しみです。

 雛の家は以前言ったように林の中にあります。そういえばこれを言った日ってゴキブリ事件の日でしたね。まぁいいです。周りをぐるっと木が囲んでいてそのさらに周りは田んぼです。田舎ですね。何でこんなところに住んでいるんでしょう。

 雛の家は二世帯住宅で雛たちと祖父、祖母の7人暮らしです。弟と妹は距離があるにしても行けない距離ではないのでまだ寝ています。大体雛の起きる時間と親たちの起きる時間が同じですね。準備をして早々に出発です・・・何で今日雨なんですか。昨日よりはマシですけど。アオさんがいないじゃないですか。


 最寄りの駅と言ってもそこまでもかなりの距離があるのでそこまではお父さんの車に乗せられて行きます。お父さんの会社に行く途中にその最寄り駅があるのでついでという感じです。

 駅に着くと


「今日は勝ったわよ!」


「別に競争なんかしていませんよ。もしかして一人で勝負している気でいたんですか。かわいそうですね」


「何で勝ったのにあれこれ言われなきゃなんないのよ!」


「負け惜しみではないか?」


「違いますよ。ふららん、余計なこと言わないでください」


「負け惜しみなのそうなの。かわいそうなのはどっちよ」


 何ですか。いつもは静観しているか雛の側につくふららんがどうして今日は佳那の側についているんですか。よくわからないです。


× × ×


 朝の会では昨日取った賞状が教室に飾られることになりました。やはりいいですね。見映えが違います。それに、9組に勝ったという優越感を味わうことが出来ます。これは雛たちでなければ味わえないものです。


 合唱コンクールのムードは昨日までで完全になくなり、今日からは大きく二つの雰囲気に分かれます。まずは期末テストに向けたものですね。特に雛たちはあの勝負を持ち掛けたということもあり、皆さんモチベーションは高いです。勉強嫌いなココさんや矢島さんもちゃんとやっています。もともとモチベーションの高い人たちは言われるでもなくしっかりやっていますが。ただ雛の心配事と言えばマナさんですね。合唱コンクールが終わるまでは部活に打ち込んでいて一切勉強していないような感じでしたから。そんなことしていたらココさんに抜かれて大ショックを受けるでしょうに。そしてもう一つの雰囲気というものはその部活です。マナさんは完全に例外ですがさーちゃん、瀬戸さん、佐藤さんは大会が近いということもあってピリピリしている感じが見受けられます。それなのでなんとなく話しかけづらい感じはありますね。ですが他の皆さんは気にすることなく話しかけているのでいいんですかね。


 お昼になりました。皆さんのところに行きますか。アオさんは生徒会で呼ばれているようなので雛とさーちゃんで先に行きましょう。

 いつものところでお昼を食べようとしていると


「ねぇわたりん、ここわかる?」「うん」


 驚きました。ココさんが教科書片手にお昼を食べているものですから。


「どうしたんですかココさん。頭でも打ちました? それとも以前の矢島さんのようなドッキリでもしているんですか? バレバレですよ」


「頭打ってないしドッキリでもないよ! 私だって真面目にやってるんだからね!」


 ココさんから絶対に出てこないであろう言葉が次々と出てきました。これはどうやら本当に真面目にやってるようですね。ですが、雛と同じように驚く人は他にもいて


「嘘だろ。ココからそんな言葉が出るなんて。お前ココじゃねぇだろ」


「ココだよ! 声聞いて声!」


 やっぱり矢島さんが突っかかると思いました。ですが今回はどうやら本気のようですね。合唱コンクールが終わってすぐに勉強に気持ちを切り替えられるなんて。やればできるじゃないですか。それを日常的に発揮できればいいのですけど。そしてさらにもう一人


「えっ? ちょっ・・・マナ置いてかれてるじゃん! ヤバイヤバイこのままだとココに抜かれるー!」


 そう言い残して全速力で教室に戻って行ったマナさん。


「ようやく気付いたんですか。今置かれている状況に」


「マナは完全に手遅れだと思うわよ」


「そうですね。手でも合わせてご愁傷様とでも言っておきましょう。ついでにこちらにも」


「ついでって言って私の方を向くんじゃないわよ!」


 マナはこれから死に物狂いで勉強することになりますね。かなはちゃんとやっていることはわかります。隣で見ていますから。ですが雛には及ばないです。いくらやっても雛には勝てませんよ。そういえば


「さーちゃん、少しいいですか? 雛の思い違いかもしれませんがいつもより少し疲れてます?」


 教室では横線上に席があるのでさーちゃんの表情は見ようと思えば見ることが出来ます。そしてたまたま見てしまったのですがさーちゃんは頭をコクリコクリさせて目を瞑っていました。もしかしたら夜更かしでもしているのではないかと少し不安になったので聞いてみました。


「あー・・・その・・・疲れているというか何というか」


「さーちゃん! ちゃんと言わないとダメだよ! もう隠し事はダメだからね!」


「やっぱりお前ココじゃねぇだろ」


「私は私だよぉ! ココだよぉ!」「首ひねるから前後に揺するなー」


 ココさんと矢島さんのどうでもいいやり取りは放っておきましょう。わたりんさんが止めにいってますし。ココがいつもより真面目なのも気になりますが今はさーちゃんの方が優先です。


「テニスによる疲れではないぞ。ただ、私も勉強しないとまずいからやっているのと後は昨日さく姉とかよ姉の動画撮影に付き合わされた」


「あのお二人は実の妹さんもこき使うんですか。大会間際なのに」


 動画撮影、おそらく毎週金曜日の配信に合わせて行ったものでしょう。ですが気になることが


「え? 金曜日のあれってライブ配信じゃないの?」


「かな、雛の言おうとしてたことを先に言わないでください」「こういうものは先に言ったもの勝ちなのよ!」


「ああそうだ。それを行うにあたって機材チェックとか企画打ち合わせとかいろいろ付き合わされた」


「出もしねぇのに付き合わされるとか災難だな。俺だったら自分の部屋に鍵かけて意地でもやらねぇって言うぞ」


「そうか、その手があった」


「いや気づけよ」「普通気づくでしょう」


 やはりさーちゃんさんはどこか抜けていますね。スポーツがすごいのは認めますけどこれまで付き合ってきた感じですとうっかりさんという印象が強いです。雛が見て来ただけでもいくつかありますし。寝癖だらけの髪で学校に来たこともそうですし、体操着忘れたこともありましたね。最終的には全部忘れてきたことも。これはいくらなんでも抜けすぎだと思いますがさーちゃんはそういう人だと思っています。教室にいてもちょくちょくそういう場面は見受けますし。例えば移動教室で筆記用具を忘れることは週に1回は必ずあります。教科書を忘れて見せてもらうこともありましたね。あと1回これはと思ったのがお弁当箱を持ち帰り忘れたときですね。次の日ロッカーの中からそのお弁当箱が出てきたのでアオさんが「もうロッカーにお弁当入れないで」と怒っていたことを覚えています。そしてもう今更ですけど矢島さんと雛の反応を聞いてふららんは相変わらず喜んでいますね。顔隠してもわかってますよ。


「それかあれよ。わたりんとココの家が超近いんだからそっち行って勉強するとか」


「いや、それは二人の家に迷惑がかかる。私なんか部活で普段帰るのが遅いんだ。それなのにお邪魔するのはさすがにな」


「そうですよ。もっと視野を広くして物事を見たほうがいいですよ、かな」


「うっさいわね。雛には言われたくないわよ!」


 毎度のことこっちに向かって来るかなを適当にあしらっていると


「みんなごめん。遅くなっちゃった」「悪いな。集まりで呼ばれちゃってよ」


 アオさんと瀬戸さんが来ました。この二人が関係する集まりと言えば生徒会ですね。そういえば今日は木曜日です。ということで聞いておきましょう。


「アオさん、瀬戸さん。今日は放課後生徒会の集まりあるんですか?」


「うん、だからごめんね。勉強付き合えなくて」


「いいえ大丈夫です。こちらにはわたりんさんとふららんさんという優秀な方々がいますから」


「ちょっ! 私を省くんじゃないわよ」


「雛より下なのに省くも何もないじゃないですか」


「おい雛、それ俺やココにも刺さってるからな」「え? 今私呼んだ?」


「省かれたくなかったら今度のテストで雛より上に行くことですね」


「佳那、今雛に喧嘩売られたよな?」「ええそうね。光ちゃん、共闘してこの生意気な雛を蹴落としてやりましょう」


「いいですよ。雛も本気出しますから」


 共闘してきたところで雛には勝てないでしょう。光ちゃんならともかくかなは絶対に。勉強している最中で音を上げるようじゃダメですよ。


「話がヒートアップしてるとこ悪いんだけど、光ちゃんとさーちゃんは今日も招集かかってるからな」


「は? また?」「ああ、わかった」


 またこの4人が招集ですか。これはもしかしなくてもわかります。絶対に何かありますね。そうです。先週聞きそびれましたから今ここで聞きましょう。


「4人揃っていったい何の集まりですか? まさか好からぬことでもしているんですか?」


「いや、そんなんじゃないよ。俺とアオと光ちゃんは生徒会活動の延長でさーちゃんは別件だ。俺も詳しくは知らないけどな」


 瀬戸さんは言葉選びが上手いのでもしかしたら何か隠している可能性もあります。全員確認しましょう。整合性を取るためです。


「アオさん。本当ですか?」


「本当よ。書記って思ったより大変で。特に佐倉会長の書記ってなるとね」


「今の完全にたんぽぽ先輩に対する文句じゃねぇか。言いつけてやろうか」


「慎ちゃん。口封じしといて」「了解」


 矢島さんは瀬戸さんに懲らしめられているので聞けませんね。それよりも瀬戸さんはアオさんの犬ですか。いつ飼いならされたんでしょうか。


「ではさーちゃんは一体何の用で呼ばれているんですか?」


「私か、さく姉とかよ姉の事だ」


 今の一言でアオさんと瀬戸さんが少し反応しましたね。


「あのお二人の事・・・もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」


 もう少し詳しく聞くことが出来ればアオさんと瀬戸さんが何を隠しているかわかるかもしれません。


「個人的な相談だからあまり言えないが。佐倉先輩はさく姉とかよ姉に進路相談を頼みたいそうだ。何でも佐倉先輩は今二人が行っている大学に興味があるらしくてな」


 進路相談、確かに別件と言えば別件ですね。それに佐倉会長と直接話せる時となるとやはり部活の無い木曜日というのも頷けます。でもまだ疑問が一つ


「では先ほどアオさんと瀬戸さんが少し表情を変えたのはなぜですか?」


「それか、実は俺たちも同じく進路についてちょっと聞こうと思ってたんだけどな。バレちゃったな」


「ほんとそうよ。さーちゃん、どうしてくれるの?」「す、すまない」


 確かに、せっかくならという感じで聞くことも可能ですね。それにアオさんと瀬戸さんは学年でもトップクラスの成績なので早いうちから進路を考えるのも頷けます。やはりこれだけなのでしょうか。そうです。まだ聞いていない人がいました。


「では矢島さんが呼ばれているのはなぜですか?」


「あ? 俺? 知らねぇよ。あの会長、俺が文実で生徒会補佐とかよくわかんねぇ係になったのを利用して俺に雑務をあれこれ押し付けやがって」


「愚痴はいいです。その雑務とは何ですか?」


「よくわかんねぇ荷物をあっちこっち運ばされてんだよ。あそうだ、元はと言えば俺が筋トレしてることをばらした慎のせいだ。こいつ」


「いいだろ、そんな体して何もしないなんて俺が許さない。適材適所ってやつだ」


「体のいいこと言いやがって。俺が毎週どんだけ重い荷物運ばされてんのかわかってんのか?」


「光ちゃんには良い筋トレだろ?」


「こいつ・・・」


 矢島さんは瀬戸さんに論破されましたね。今の会話聞いた感じ、違和感は特になかったのでおそらくそうなのでしょう。


「わかりました。では今後木曜日は4人はそういうことでいいんですか?」


「ああ」「うんうん」「そういうことだ」「よくねぇよ。帰らせろ」


 ということは今日の勉強場所に困りましたね。どうしましょう。放課後にでも考えるとしましょう。


× × ×


 放課後を迎えました。お昼に言われたようにアオさん、瀬戸さん、矢島さん、さーちゃんは生徒会に呼ばれているのでいません。


「うーん、勉強する場所・・・」


 ココさんも考えていますが現状できそうなところはなさそうです。いつも使用している矢島家も、さーちゃんのお姉さんのお宅も使えなさそうですし。先週はココさんの家に行きましたがさすがに勉強できるほどのスペースはないと思いますし、それ以前にココさんの家だと確実にココさんがサボります。雛の見立てではまた雛たちにお菓子振る舞って気づいたらもう夜だということで解散することになるでしょう。そういうことですので


「いっそ教室でもいいんじゃないですか? 今ここにいる人はほぼ9組ですし。雛の勉強場所は矢島さんか瀬戸さんの机を借りればいいでしょう」


「まぁいいんじゃない。雛がうるさくしなければだけど」


「うるさいのはかなとココじゃないですか。雛はいつも静かですよ」


「はぁ? うるさくさせてるのは雛でしょ!」「何か私も入ってる!」


 実際そうです。他の皆さん、ふららんとわたりんさんはお二人と違って静かですから。


「みなしゃん! たしゅけてくだしゃい!」


「もう一人いました。どさくさに紛れて雛に抱きつかないでください」


 そう言って泣きついてきたのは今一番うるさいマナさん。マジ泣きじゃないですか。自業自得ですよ。後他にも人がいるのにどうして雛に抱きついてくるんですか。これでもかと嫌な顔をしてやりましょう。


「わたしおしえるよ」


「ありがとーわたりーん!」


「え? じゃあ私教えるの誰⁉」


「誰じゃないですよ。自分で少しやってみたらどうですか」


「無理です! 私には難しいです!」


「何で今の言葉で威張れるんですか・・・」


 威張って胸を張っているココさんはよくわからないです。勉強できないことは恥ずべきことですよ。学生失格ですよ。


「私が教えよう。わたりんほどじゃないけどそれなりにわかっているから」


「ありがとーふららーん!」


 さっきのマナさんと同じモーションですね。まさかココさんみたいな方がこのクラスにもう一人いるとは思いませんでした。もういませんよね?


 しばらく勉強して下校時間を迎えました。結局あの4人は教室に帰って来ませんでしたね。荷物もなかったですからおそらく生徒会室に持って行ったのでしょう。それにしてもマナさんは終始頭抱えていましたね。ココさんよりもペンが進んでいませんでした。これは波乱があるかもしれません。1週間後の期末テストが楽しみです。

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