それぞれの視点 佐藤健介ver. - 88日目 -
朝は早い。僕は電車で行く必要があるからさらにだ。そして最近は朝活、朝の勉強も始めた。早起きした分勉強できる時間が長くなる。あるテレビでこんなことがやっていた。朝勉強したほうが吸収がいいというものだった。確かに僕自身やっていてもそう思う。よし。
僕が家を出るころにはもう母はいない。母は僕を女手一つで育ててくれている。だから僕はその期待にこたえなければならない。将来少しでも楽をさせるために。
学校に着いてもやるのは勉強。最近周りのみんなと話すことがあまりなくなった気がするけどもう近々期末テストが行われる。僕はその期末テストで一位を取らなければならない。周りの期待にこたえなければならない。一位の重責というものはそういうものだ。
昼休みの時間を使ってやるのは職員室に行ってわからないことを聞くことだ。可能な限りわからないをなくす必要がある。そうしなければならない。わからないをわからないままにしておくとそれを起点として苦手分野は広がっていく。僕の敵、ライバルは更科さんと慎、あとは渡さんかな。この三人も昨日テストの話が出たから勉強を始めると思う。少しでも気を抜くと負けてしまう。だから気を抜けない。気を抜かない。
放課後、ずっと勉強をやっていたあと、気を抜けること、いや、気を抜けると言ったらテニスに失礼だから勉強を考えずにいられるにしよう。勉強をやっていると自分の知らない間にストレスが溜まってくる。それを発散する意味でテニスをやる。
今日は塾はない。だから部活終わりも少し時間に余裕がある。
「健ちゃん」
本田さんだ。一応テニスは男女で分かれてはいる。しかし部活の開始と終了は統一されている。だから来たのだろう。
「今日塾は?」
「いや、ないよ。また練習?」
「ああ、悪いな」
「全然、大会近いしね」
テニスの大会は来週金曜に控えている。だから最近は部活後も残って練習することが多い。そしてその練習相手には僕か東雲先輩が任命されることが多い。
本田さんの球は速い。だから僕が相手になって本当に練習になっているのか疑問に思うことがある。
「健ちゃん」
しばらく打ち合いをした後本田さんに名前を呼ばれた。その表情は薄暗いからかよく見えない。
「うん?」
僕が返事を返すと本田さんはこっちに向かって歩いてきた。ネットのすぐ向こうでキョロキョロしている。聞かれたくないことかな。だったら僕も近づこう。
「らしくないな。打ち方が単調だ」
本田さんに見抜かれていた。プレイ中は全く考えていなかったけど言われて初めて自覚した。
「かよ姉が言っていた。テニスをしているとき、他にも何か考え事をしているとプレイが単調になると。今の健ちゃんがそうだ。悩み事でもあるのか」
悩み事か。それは・・・
「いや、ないよ。しいて言うなら次のテストかな」
「そうか。・・・それは私も心配だ」
「まぁ勉強はコツさえつかめれば大丈夫だから。それを教えるよ」
「ありがとう。本当に助かる」
僕は嘘をついた。悩み事はそんなことじゃない。もっと大きく、根深いことがある。でもそれを言ったところでみんなにはどうにもできない。僕一人で何とかするしかない。だから、僕は隠し続ける。自身のために、母のために。
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