それぞれの視点 渡奏ver. - 85日目 -
日曜日、かえかえからこんなラインがあった。
“すみません、ちょっといいですか?”
“どうしたの?”
“えっと、ちょっとご協力いただきたいことがありまして。昨日お兄ちゃんと慎さんと私の三人であの後話したのですが、そこでお兄ちゃんのひねくれた性格と口の悪さをどうにかしてみたらと慎さんから言われまして。で、お兄ちゃんはあまり乗り気ではなかったのですが私としては結構ありだと思っていて。いつもと違うお兄ちゃんもいいかなと思って。あとはお兄ちゃんにちゃんと礼儀というものを教えたいのでわたりんさんにちょっといろいろ教わりたいです。”
“私なんかでいいの? かえかえはいい子だからそんなに教えられることないよ。”
“いえいえ。とんでもないです。私からしてみればわたりんさんはすごくちゃんとした方です。あとはいつもいる皆さんの中で一番信用できるというか、とにかくそういう感じなので。私たちのドッキリに、わたりんさんも参加いただけないですか?”
ドッキリ・・・ちょっと楽しそう。だから私は二つ返事で
“いいよ。出来る範囲で協力するから。”
“ありがとうございます!”
こう返した。でも、まさかあそこまでちゃんとやってくるとは思わなかった。えっと、矢島君は本気で演じていた。単純にすごいと思った。昨日の今日でってのもあったけど様になっていた。それを見た私はいつもの矢島君もいいけどこっちの矢島君も新鮮でいいなと思ってしまった。あ、ダメダメ! 顔に出さないようにしないと。私も協力してるんだから。
私の朝はお母さんに起こされるところから始まる。あの、これは朝が弱いわけじゃないですから。目覚ましが聞こえないので起こしてもらっているだけです・・・。お父さんはもう出ている。私は自分の部屋で制服に着替えた後朝食を食べる。
〝奏最近楽しそうね〟
「うん、楽しい。すっごく!」
お母さんの言う通り最近の学校はとても楽しい。合唱コンクールの練習はちょっと大変だけど大変以上に楽しい。こんなこと今まで感じたことなかった。それもこれもみんなが私の背中を押してくれたおかげ。
「いってきます!」
〝いってらっしゃい〟
そう言って家を後にする。その後向かうのは
〝あ、ちょっと待っててね。心愛ー。奏ちゃん来てるよー〟
〝あー! ちょっと待って! えーっとこれとこれと・・・あ! 歯磨き忘れた!〟
ココはいつもこんな感じ。だから私はココの準備が終わるまでいつも家にあがって待っている。
〝ごめんなさいね。いつもこんなで。もうちょっと早く起きられたらいいんだけどねー〟
ココのお母さんとはもうすっかり仲良し。あの時の姿とは大きく変わっていて今はちゃんとしたお母さんという感じ。だとしたらココがお寝坊なのはお父さん譲りなのかな? 今もココのお父さん寝てるし。
〝よし! わたりんごめーん! 今終わったから。じゃあいってきます!〟
「いってきます」
〝うん〟〝うんうん。いっておいでー〟
ココが家を出るタイミングでお父さんが起きてくる。だから寝起きのお父さんを見るのももう慣れた。ココも最初は恥ずかしいからやめてって言ってたけどもう慣れてしまったのか最近はあまり言ってこない。よし、ココが来たから次は
〝あ! 奏ちゃんとココちゃん。今日は大丈夫だからね。私が起こしたから〟
庭掃除をしていたさく姉が私たちにこう言ってきた。よかった、じゃあ昨日みたいに遅刻することもないかな。
〝すまない、待たせてしまったな〟
「待って。忘れ物はない?」
〝うーん。大丈夫だと思う。教科書持ったし体操着持ったしウェア持ったし〟
〝咲彩。これ忘れてんぞ〟
〝あ〟
よかった、私が言っておいて。もし言っていなかったらさーちゃんまた忘れ物して学校行くことになっちゃう。かよ姉はいつもあんな肌を出す服着てるけどもうこの近所の人は大して言ってこない。そのかよ姉から忘れ物、ラケットを受け取ってこれで学校に行ける。
〝それじゃいってきまーす!〟「いってきます」〝いってくる〟
〝いってらっしゃい〟〝うーっす〟
矢島君のことどうしよう。多分いろんな人からいろいろ言われるよね。瀬戸君もついてくれると思うけど、もしダメそうだったら私も一緒につかなくちゃ。悪気があってやったわけじゃないから、たぶん。
× × ×
私たちが学校に着くともう矢島君以外の人は来ていた。昨日かえかえから早く来るようラインがあったからだと思う。“心機一転とかなんとか言って早く来るみたいなのでお兄ちゃんより遅く来るのが嫌な人は20分くらい早く来てもらっていいですか”ってラインだったけど本当にみんなして早く来ていた。
みんなと挨拶をほどほどにすると矢島君の車が来た。本当に20分早く来た。
〝おっはよー。さてみんなちゅーもーく。光ちゃんから大事なお知らせがありますぅ〟
〝お知らせ?〟
何のことかわかってない人はみんなして首を傾げている。私も雰囲気に合わせて首を傾げる。そして矢島君はあるものを持って車を降りてきた。
〝ドッキリ大成功!!〟
紙に書いてあったものと同じことを言って降りてきた。私はそれが何だかよくわかってるけど他の人は状況が全くつかめずにその場に立ち尽くしている。えっと、私が何か言った方がいいのかな?
〝まぁ言うまでもねぇと思うが昨日のあの口調と性格は演技だ。ひっかかったな。いやー見事だったわ。頭打ったとか二重人格とかいろいろ議論し始めちゃうからな。俺からしてみればしてやったりだ。途中何度かやばそうなときはあったけどうまく乗り切ったわ。俺はお前らが常々言っていた口調と性格を直した俺を演じていたんだよ。自分の精神削りながらな。それなのにお褒めの言葉一つなしかよ。まぁいいや・・・て・・・あの・・・皆さん。ちょっとは反応してくれませんか? なんか自己満してる感じがして嫌なんだが・・・おーい〟
矢島君がドッキリだと言った後からみんなの表情は・・・ちょっと見たくない感じになっている。特にひなっちとアオとかなたんは。
〝みんな、こんなやつほっといて教室行きましょ〟
〝そうですね。ほっときましょう〟
〝そうね。こんなやつ〟
〝こんなやつって、おーい〟
〝やじママさん。あなたも放課後問い詰めますからね〟
〝えーちょっと待ってよぉ。私はやらされただけよぉ〟
〝おいこら。責任転嫁するな。誰ださっき車でみんなの反応が楽しみとかほざいてたやつ〟
そんな話を全く聞くことなくみんなは矢島君から離れて行く。本気で怒ってそうだった。それともからかっていた側が仕返しされたから気にくわないとかかな? どっちにしてもこのままだと矢島君教室に行けないから。戻ろうとしてもココに手を引かれているので振り解くことも出来ない。どんどん矢島君から離れて行く。どうしよう。
そのまま矢島君を置いて教室まで来てしまった。
〝何あれドッキリって。心配した私たちが馬鹿みたいじゃん〟
〝そうですね。何かしてやられたみたいで腹が立ちます。よりによってあんなやつに〟
いつもは教室に入るときにさーちゃん、アオ、ひなっちとは別れているけど今日はちょっと早いということもあって廊下で集まって話している。
〝なんかあれね。いつも雛に言われてるけど今日は違った意味で腹立つわ〟
〝雛のはドッキリでも何でもないですから。事実ですから〟
〝雛、私のストレスを増やさないでくれる?〟
ああ、なんかひなっちとかなたんまで喧嘩しそう。まさかここまでのことになるとは思わなかった。
〝え? なんでみんな怒ってるの? ドッキリってこうゆうものだっけ? いつもスマホで見てるドッキリとリアクションが違う〟
ココは見た感じ怒ってなさそう。私もこんな感じになると思ってたのに。えっと、どうしよう。
〝まぁあの三人はそっとしておこう。私も怒ってないから。もうこんなことされ慣れてるし〟
さーちゃんも怒ってなさそう。そうだった、さく姉とかよ姉は私と遊んでた時もいっぱいドッキリしてきてた。
〝よかった。もうあの掛け合いが見れなくなると思った〟
ふららんは安堵している。えっと、よかったのかな?
〝でも皆さん。マナが思うにこれを仕掛けたのは光ちゃんだけじゃないと思うんですよはい。やじママさんはさっきの光ちゃんの言ったことで確定だし。あとは昨日光ちゃんを庇ってるかのようにしてた慎ちゃんも怪しい。それともう一人。このラインを送ってきたかえかえ。もうこれは何か知ってるようにしか思えないでしょ。どおどお? マナ的名推理〟
マナ的名推理は大体当たっていた。ただその中に私がいないのは良い事なのかな?
〝多分そうでしょ。今思えば昨日保健室行ったのも慎ちゃんだったし。何かむしゃくしゃするー!〟
〝そうですね。なので雛たちも対抗して今日一日はこれでやり通しましょう。仕返しです〟
それにみんな頷いてしまった。えっと、私も共犯なんだけどすごく言いずらい。どうしよう。
× × ×
朝、置いていっちゃった矢島君は瀬戸君が連れて来てくれた。でもその二人に騙された人はこのクラスのほぼ全員だからその人たちの反応も様々だった。でも一様に言っていたのはやっぱり今の矢島君がいいということだった。湯川さんはすごく怒ってたけどいつものことだからあまり気にならないかな。
一方今日の朝から無視することになった私たちはそれを忠実にこなしている。びっくりしたのはココやふららん、マナもやっているということ。そのせいで矢島君と瀬戸君は二人寂しくしゃべっていた。何をしゃべっているのかはよくわからなったけど。
昼休みも矢島君と瀬戸君を抜いてお昼を食べることになった。佐藤君も今日は教室で食べるみたいでここにいるのはいつもの人たちの中の女子たち。
〝で、今日一日無視を決め込んでるけどクラス内ではどうなの?〟
〝いい話があるわ。湯川っちにぼろくそ言われてたわよ〟
〝いい気味ですね。もっと言われればいいんですけど〟
〝いいじゃない。このあと私たちがいろいろ言うんだから。この際全部ぶつけよ〟
〝そうですね。サンドバッグにしましょう〟
〝ストーップ! 光ちゃんを泣かすのは別にいいけどかえかえを泣かすのはマナが許さないからね〟
〝悪いことをしたらきちんと成敗されるべきです。それにこの機会逃したらもう二度と泣き顔なんて見れないと思いますよ〟
〝ぐっ・・・そう言われると・・・マナの中の欲望と良心が戦っている!〟
アオとひなっち、かなたんの三人は共闘するだけじゃなくてなんか楽しそう。昨日の矢島君もこんな感じだったのかな。
〝まぁ光ちゃんもやりすぎたのかもしれないがアオたちもあまりやりすぎるなよ〟
〝大丈夫よ。通報されなければ〟
〝アオがどんどん悪い方向に行ってる〟
さーちゃんはその場にいられないけどもし何かあったら私が何とかしないと。でもいつ話そう。いつまでも隠してるのもちょっと。
× × ×
合唱コンクールの練習、私は指揮者として頑張っている。みんなが背中を押してくれたからもう怖くない。でもやっぱり本番は違うってことは心の中で思っている。もし、もし本番で私が・・・ううん。悪い事ばっかり考えちゃダメだよね。
何度か指揮を振って合わせ始めているけどみんなの顔を見る、リズムを数える、ペースを考える。これを同時にやらなくちゃならない。最初の入りはこう、その後のペースはこんな感じで4拍子を何回、そのあと両手で指揮を振る。簡単なことのように思えるけど音が聞こえないだけでこんなに難しいのって思う。私の気持ちとしてはみんなの後ろにメトロノームみたいなものが置かれれば楽になるんだけどそんなのは私が許さない。だってみんなもちゃんとやってるから。私だけ手を抜くわけにはいかない。
〝わたりんいいよ! グッジョブ! なんか日ごとに上手くなってる感じする!〟
「家でも練習してるから」
マナがグーサインで私に言ってきた。そうかな。だとしたら家での練習も生かされたってことなのかな。みんなには言えないけど私は家に帰るとずっと手を振っている。最初の方はお父さんお母さん何事かってびっくりしてたけど私が理由を話したら私の練習に付き合ってくれるようになった。だからかな。
〝私もわたりんの指揮は・・・何て言ったらいいんだろう〟
何だろう。言いづらい事かな。でも何言われてもいい。むしろちゃんと言ってくれた方が嬉しい。だから私はふららんの手を握る。そうするとふららんは頭を掻きながら
〝最初より合わせやすくなった。でもまだ納得してない。だから〟
「頑張る!」
手に力がこもった。うん、頑張ろう。大丈夫。最近色んなことを大丈夫って思えるようになってきた。
× × ×
放課後、えっと、どうしよう。
〝よし! いよいよ問い詰める時間が来た!〟
〝そうですね。言ってやりましょう〟
〝ねぇ。光ちゃん置いてっちゃっていいの?〟
〝いいのよ。どうせ慎ちゃんが送るでしょ〟
〝今日のアオ容赦ないわね。これからアオのことは怒らせないようにしよ〟
〝アオさんだけじゃないです。雛のことも怒らせないでください〟
〝は? それはあんたが私を怒らせるようなこと言ってくるからじゃん〟
みんな矢島君置いてっちゃった。ココは心配してそうだけど他の人は仕返しなんだと思うけど気にする素振りを見せない。でも私は・・・うん、決めた。
「あ、教室に忘れ物しちゃった。ごめん、先行ってて」
そう嘘をついて学校に戻る。すぐ後ろを向いたからそう言った後のみんなの反応は見れなかったけど多分アオはわかってそう。バレてると思うし。だから学校に戻る私を止める人はいなかった。アオが帰らないように働きかけてくれたんだと思う。
私が教室に向かってる最中にアオからラインが来た。
“わたりん。忘れ物って本当はないんでしょ。だから、絶対光ちゃんを連れて来てね。みんなで怒らないとね”
やっぱりわかっていた。でも全部じゃない。忘れ物はある。
教室に忘れ物を取りに帰るとやっぱり
〝はぁ、俺はこのまま学校で一晩明かすことになるのか。いくらなんでも怒りすぎじゃねぇかあいつら。ていうかドッキリ仕掛けられて怒るとかバラエティ失格だぞ。放送事故だぞ。たく、やんなけりゃよかった。俺の一人負けじゃねぇか〟
愚痴を言いながら壁にもたれかかっていた。その壁一枚隔てて私は背を向ける。
〝まぁでも、こんなことしたのいつぶりだろうな。見えなくなってからしてねぇもんな。俺も慎もかえでも。そういえば何でかえではあんな乗り気だったんだ? それで言うとわたりんもだ。なんであいつら手を貸したんだ。バレたら今の俺みたいになるってのに。・・・かえではなんとなくわかるけどわたりんは・・・いやまさかな。俺そんな自信過剰じゃねぇし。・・・誰か来てくれねぇかなぁ〟
スマホの画面を見ながら矢島君の独り言を聞いていたけど途中私の話が出てきて声が出そうになった。それを何とか堪えて
〝来てくれねぇよなぁ。連絡手段・・・スマホ開けねぇし、職員室・・・たどり着ける自信がねぇ。見回りの先生が来るまで待つ・・・いつまで待てばいいんだよ。誰かが教室に来る・・・今の今まで音沙汰なし。はぁ・・・思えば一人でいるのっていつ以来だ? 学年あがってから一人でいたことねぇな。たまにはいいかこんな時もあって。・・・あいつらの顔見れたらなぁ〟
せっかく一人でいるところ水を差しちゃうけど今の話を聞いていてすごく悪い感じがしたから
「矢島君」〝うわびっくりした!〟
ビクッてした矢島君がすごく新鮮だった。ちょっと笑いそうになっちゃったけど
「忘れ者取りに来た」
〝わたりんか。誰かと思ったわ〟
忘れ者、そう、忘れ者。
「帰ろ」
〝はぁ、マジ助かったわ。ていうかわたりんも見事に演じてたな今日〟
「うん」
〝まぁわたりんは悪くねぇからな、あいつらに怒られるいわれはねぇし〟
「ううん、私も一緒に怒られる」
〝怒られんのは矢島家プラス慎で十分だよ。それに今日のあの感じだと何飛んでくるかわかんねぇしな〟
「大丈夫。怖くない」
そう言って忘れ者、矢島君の手を取る。うん、これで大丈夫。
思えば矢島君と二人きりで帰るのは今日が初めてだった。しっかり矢島君の道案内をしないと。そう意気込んで手を握っているけど、手汗とか出てたらどうしよう。
〝みんながいれば怖くねぇとは言うが・・・相手が悪いんだよなぁ〟
「話せばわかってくれるよ。それにみんな本気では怒ってないから」
〝あれで本気じゃねぇのか。丸一日無視しといて〟
「でも矢島君もちゃんと反省しなきゃダメ」
〝はいはい。・・・ところでわたりん。教室に来たのはびっくりしたが、いつからいたんだ?〟
えっと、どうしよう。正直に言ったほうがいいのかな。・・・うん
「学校で一晩明かすあたりから」
〝だぁー! くそ、一人だからちょっとくらい言ってもいいかって思ったのがうかつだった。わたりん、他のやつには絶対言うなよ〟
頭をぐしゃぐしゃかいた後私に詰め寄ってきた。急に顔が近くなったからちょっとびっくりしちゃったけど
「うん。秘密にする」
私は空いた左手を使って静かにするときのポーズを取った。矢島君には見えてないけど、私と矢島君、二人だけの秘密を共有できたのが嬉しかった。
光ちゃんの家に着いてインターホンを鳴らしたあと出てきたのは
〝あ、わたりんと光ちゃん。どうぞどうぞー〟
〝何で俺が招かれなきゃなんねぇんだよ。ここ俺ん家だぞ〟
ココが迎えに来た。ココと一緒に矢島君をリビングに連れて行くと
〝光ちゃん、そこに正座して〟
〝は? 何で———〟〝いいから〟〝はい〟
アオの一言で光ちゃんが正座した。その隣ではやじママさん、さらにその隣ではかえかえも正座していた。・・・えっと、いろいろ聞きたいことがあるんだけど。そんな中アオとひなっちとかなたんはダイニングにあった木の椅子を移動させて腰かけていた。腕組んで、脚組んで。なんかすごい迫力がある。
〝さて、昨日のことを一からご説明していただけますか〟
〝私は光ちゃんにやらされただけって言ったじゃないのぉ〟
〝だから責任転嫁するな。誰だよ乗り気だったやつは〟
〝だってまさかお兄ちゃんがやるとは思わなかったから〟
〝やると思わねぇのに俺はしごかれたのか? 意味わかんねぇよ〟
〝シャラップ!〟〝はい!〟
アオ怖い。ココも意味は分かってなさそうだけど今の一言でビクッてしてた。
〝ひなっちは一から説明してと言いました。責任を擦り付けろとは言ってません。このまま好き放題言わせるとさっきみたいなことになるので私が指名しましょう。まずはかえかえから〟
〝はい!〟
丁寧語を使っているのは昨日の矢島君だったりひなっちと変わらないけど雰囲気からすごく怖いことがわかる。かえかえもそれに圧倒されてびくびく震えている。
〝えっと、土曜日、し、慎さんからく、口調と性格を変えてみたらと提案がありまして。その時はお兄ちゃんもあまりに乗り気ではありませんでした。はいこれは本当です。別に私が全責任を負うというそんな身勝手なことは考えてはいません。でも、その、たまにはそういうお兄ちゃんもいいかなとおお思っちゃいまして。すみません本当にすみません!〟
かえかえは頭を地面につけて謝っている。ここで私も言わないと。あの・・・
〝そうですか。次はやじママさん〟
〝私はただ黙認しただけよぉ。別に加担したわけじゃないしねぇ。それに、これも立派な青春じゃない〟
〝やじママさんは高校時代どんな生活をしてきたんですか〟
ひなっちの言葉もすごく辛辣になっている。やじママさん相手でも容赦ない。今度こそ・・・
〝で、光ちゃんは何、今の三人にのせられてやったの〟
〝ああそうだよ。これでわかっただろ。俺はただやらされただけだって。あとあのドッキリプレート作ったのはここにいる母親だからな〟
〝ねぇ、何で開き直ってるの? 実行犯のくせして〟
見下ろすかのような目ですごく睨みつけているアオ。それに見えない矢島君も委縮している。
〝ねぇ。この三人、慎ちゃんも入れれば四人ね。どうしてやろうかしら。雛、あおっち〟
〝そうですね。もちろん償いはしてもらいますよ。でもそれだけで足りますかね。アオさん〟
〝足らないわよ。それほどまでの大罪を犯したんだから。フフッ、覚悟してくださいね〟
アオとひなっちとかなたんのやってることは尋問というより裁判に近い。もう無理、私だけ逃げるなんて!
「あの、いい?」
〝どうしたのわたりん〟
雰囲気が抜けていないからアオがさっきとほぼ同じ目線を私に向けてきた。かえかえの気持ちもよくわかる。でも言うんだ!
「わ、私も加担してました! ごめんなさい!」
そして誠心誠意謝る。下を向いた時のスマホには“えー⁉”という言葉が書いてあった。
〝どういうこと?〟
誰が言ったかわからないけどスマホにこう更新されたので誠心誠意答える。
「かえかえに、頼まれて、いろいろ教えた、ました」
日本語がおかしくなったけど説明した。でもすぐ後悔した。これじゃかえかえのせいになっちゃう。
〝へぇ、そうなんですか。かえかえさん〟
話し方からして多分ひなっちがかえかえに言ったんだと思う。それに対してかえかえは土下座したまま首を動かして頷いている。すごく近くでマナがかえかえの写真を撮ってるけど気づいてないのかな。ううん、それどころじゃない。
「だから私も悪い。ごめんなさい」
私もみんなと同じように土下座しないとと思ったらストップとアオに止められた。
〝まさかわたりんまで加担してたとは・・・皆さんに判決を下します。まずはかえかえ〟
かえかえは泣きそうな顔でアオの方を向いている。色んな所に力がこもっている感じも伝わってくる。
〝今週ある修学旅行で私たちにお土産を買ってくること〟
〝はい! 皆さんのご希望のものがあれば何でも買ってきます!〟
かえかえは修学旅行のお土産で何とかなった。ふぅ・・・
〝次、やじママさん。引き続きこの家の使用許可をお願いします〟
〝いいわよぉ。それくらいならお安い御用よぉ〟
やじママさんもこれで決着。よかった。
〝次、光ちゃん。ここにいる全員に光ちゃんへの命令権を一回追加〟
〝は? 俺だけひどくね? 裁判長、控訴します〟
〝控訴を棄却します。これで確定です〟
〝横暴だ〟
えっと、これは良かったのかな? ココが胸を撫で下ろしていること、あとふららんがいつもの反応をしているからよかったんだと思う。
〝次、わたりん。合唱コンクール終わるまで絶対手を抜かないこと〟
「うん」
うん、これなら守れる。挫けないし頑張れるし。
〝最後は慎ちゃんか・・・うん、佐倉先輩に言って仕事増やしてもらお〟
・・・瀬戸君、どんまいなのかな。とにかく、これで解決してよかった。
〝さて、これにて閉廷します。もう無視もやめです。いつも通りに戻りましょう〟
〝いつも通り? まさかお前らが無視してたのは俺に対抗してか。そっちも演じてたのか?〟
〝さぁどうでしょう。でも判決は守ってもらうからね〟
うん、守るよ、私は。そしてほかの人も絶対。
〝はぁ・・・ところで何でかえでがいるんだよ。部活はどうしたんだよ〟
〝修学旅行前だから私たちだけないんだし〟
あ、そっか。だからかえかえもういたんだ。・・・今日のことがかえかえの修学旅行に影響しなければいいけど。
昨日のことはとりあえずこれで解決? でいいのかな。うん、私は矢島君が全部悪いってことにならなかっただけでよかったからそれで満足。・・・今までずっと思ってたけど私の呼び方、わたりんって呼び方、悪くはないんだけど、みんなが決めてくれたあだ名だし私も満足してるからそれでいいけど。私のわがままだけど、矢島君には・・・ちゃんと下の名前で呼んでほしいな。でも私の口から言わないと絶対呼んでくれないだろうし。今日一緒に帰ってる時に言えばよかった。
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