それぞれの視点

それぞれの視点 矢島光輝ver. - 84日目 -

 土曜日のサプライズがあったのち迎えた月曜日。さあて、今週も頑張りますか。多分メインは合唱コンクールの練習だろう。うーん、モチベが・・・。いや、そんなこと考えちゃダメだ。頑張ろう。

 起きてすぐ思い出したことがある。土曜日慎とかえでの三人で帰宅していた時慎にふと提案されたことだ。一日くらい性格変えてみなよ。最初は「出来るか」とか「やんねぇよ」とか言っていたがあの後考えてみたら面白そうだなと思ってしまった。よーし、こうなったらやってやるか。反応が面白そうだし。昨日かえでにしごいてもらったし。ていうかかえでにしごかれたのは俺の意思じゃなくてかえでが俺にやらせたんだよなぁ。だから何もしないというわけにもいかない。


「おはようございまーす」


「・・・」


 学校に着いて試しに俺の方から挨拶してみたが・・・おい、誰か反応しろよ。


「どうしたんです?」


「・・・」


 なんか一方的な感じがしてやってるこっちが苦しいぞ。


「すみません。光ちゃん頭でも打ちました?」


「ぜーんぜん。今日も今日とて平常運転よぉ」


「そうですよ。さぁ教室に行きましょうか」


「・・・なんか変」「はい、気持ち悪いです」


 さんざん言ってくれますね皆さん。まぁいいよ。今日一日これでやり通すって決めたんだ。やり通しますよ。一方の慎は俺が何でこんなことになっているかを知っているからか、笑いを堪えるのに必死だった。だって隣の席だからそういうのバレバレだし。・・・なんか自分で勝手にやってるのに罰ゲーム食らってる感じがしてきた。


× × ×


 昼休み、朝はいなかった人たちも一堂に会する。朝いた人というのはココ、わたりん、葵、雛の4人だ。他の人は朝練、もう教室、遅刻、様々だ。ああ、遅刻したのは咲彩です。また時間ぎりぎりの登校だった。今回は忘れものとかはなかったようだが単なる寝坊。姉二人、何とかしてやれよ。


「ねぇみんな、今日光ちゃんがおかしいんだけど」


 知らない人が葵の説明によって俺がおかしいことをいろいろ言っている。俺は演じているだけなのだがみんなはそれを信じているようだ。よし、いい感じだ。


「どこがです? 普通でしょう」


「なっ⁉」


 驚きを通り越して絶句した人がいる。これ誰だ? 尾鷲か? 何で尾鷲が絶句してるんだ? もしかしてあの掛け合いがもう見れなくなるとでも思ったからか? 俺はただ丁寧語で話しているだけなのに。


「さぁさぁお昼でも食べましょう」


「・・・光ちゃん! 保健室行こ!」


 あまりの変わりようにマジで心配になったのかココが俺の腕を引っ張って保健室に連れて行こうとする。うーん、このまま行ってもいいけど本渡先生にいらぬ心配をかけることになるのはちょっと申し訳ないな。


「俺が連れてくよ。さすがに心配だからな。みんなは昼でも食べてたらいいよ」


「本当に大丈夫?」


「ほら行くぞ光ちゃん」


「はい」


 結局慎が連れて行くことになった。他に人はあれこれ後ろで言っているがついてくることはしないようだ。まぁ慎に任せるといったところか。それならそれでありがたい。俺も息抜きが出来る。


「失礼します」


「はーいって矢島君に瀬戸君。どうしたの?」


「すいません。ちょっとだけ息抜きさせてください。はぁー・・・」


「くふふっ! まさか本当にやるとはッ!」


「全く、何したの?」


「それがですね。聞いてくださいよ」


 慎が本渡先生にこれまでのことを説明すると


「はぁ・・・、どっきりってことはわかったけどみんなのことも考えたらどう?」


「これが考えた結果ですよ。だってあいつら俺の口が悪いからどうのこうのって何回も言ってますし。だから直してやったまでですよ。文句言われる筋合いはないですね」


「なんかさっきまでとすごいギャップを感じるな。俺もちょっと怖いわ」


「怖いじゃねぇよ。言い出しっぺはお前だからな」


「とにかく! あまり皆を困らせるようなことはしないこと! 何でこんなことを私が怒らないといけないのかしら」


「俺はこういう人間ですから。根っこなんてそう簡単に変わりませんよ。さてと、また演じに行きますかね」


「演じるね。明日バラしたときのしっぺ返しが怖そうだな」


「その時はその時だ。明日の俺が考える」


「計画性ゼロだな。まぁ光ちゃんらしいといえばらしいか」


「ごほんっ。それでは本渡先生、私はこれにて失礼いたします」


「まぁ見事に演じてるわね。私は知らないわよ」


 深々とお辞儀をしたのち保健室を後にした。そうなんですよ。これ演じてるんですよ。まぁちょっとは息抜き出来たからあとは俺のやる気と精神力で何とかするしかない。

 で、皆さんのところに戻って再び演じ始める。


「光ちゃんどうだった?」


「いやーそれがな」


「どこも異常はないと言われました。まぁ私としても特に頭打ったとかそういう記憶はありませんから」


「待って、だとしたらあれよ。頭打ったって部分の記憶が飛んでる可能性だってあるじゃん。頭打った衝撃でその前の記憶が飛んだとか・・・」


「あわわわっ!」「何だと⁉」


 葵の考察は冴えていると言いたいところだがそれは勝手な妄想だぞ。で、それに動揺しているココと尾鷲。俺からしてみればしてやったりなのだがここは抑えておこう。これ慎から見てもしてやったりなんだろうなぁ。


「いえいえそれはありません。記憶ならありますよ。例えば土曜日お見舞いに行ったこととかそのほか細かいことまで、印象に残っていることはしっかりと覚えていますよ」


「ああわかりました。これはあれですね。二重人格というやつです。今出ているのは矢島さんのもう一つの姿ということですよ」


「いや、そんなこと・・・」


「完全に否定はできませんよ。ただどうして今出てきたのかはよくわかりませんが」


 よしいいぞ。雛がさらに妄想してくれたおかげでどんどん面白くなってきた。あーでも明日のしっぺ返しが怖いな。もうそのことについては知らん。


「もうこうなったらあれよ! もう一回頭打てば戻るんじゃないかしら」


「なるほど、かなにしてはいい考えです。ちょっと教科書持ってくるので待っててもらっていいですか?」


「ちょっ! 待ってください。私別に記憶をなくしたわけじゃないんですからそれはちょっとやめてもらえますか? 前叩かれた時だって痛かったんですから」


「・・・今ので記憶があることはわかりましたけど・・・」


「変すぎるね」


 みんなして変に捉えているのなら俺のどっきりはそれだけでだいぶ成功している。ただ気になるのは現時点まで声を一切発していない人、わたりん、咲彩、橋倉の三人の反応だ。でもこちらから聞くのはちょっとあれだよな。


「・・・なぁ、これってそんなに驚くことか?」


「え? まさかさーちゃん驚かないの?」


「ああ、まぁ、よくあることだしな」


 よくあることと聞いて思い出した。そうだ、咲夜さんと夏夜さんも演じていた。しかも俺とかえでは目の前で見させられた。ということは・・・まずい! 咲彩にはバレているかもしれない。


「確かに、あの二人なら納得だな。何するかわかんないし。でも、光ちゃんはそんなことが出来るほど器用じゃないな。俺が保証するよ」


 よし、慎がうまく言ってくれた。これで継続できる。


「まぁまぁ皆さん、細かいことは気にせずにいきましょう。ほら、元気出して」


「・・・変を通り越してキモい」


「アオさん、言い方ひどいですけど雛も同感です」


 キモいとか言わないで。俺だってめちゃくちゃ苦しいんだから。なるほど、役者って毎度こんな思いしながら役を演じてるのか。よくわかったわ。もうこれっきりにしよ。


「わたりーん、マナー、生きてるかー」


「ほい! 生きてまっせ!」


「ちょっと! マナにうつったじゃないの!」


「マナさんは頭のねじが外れたんですかね?」


「ちょっ! ひどいよ! こうなったらひなっちの頭を撫でくり回してやるー!」


 その後聞こえてきたのは雛の悲鳴だった。悲鳴を上げるほど撫でられるってどんなだ? あれか、はげるくらいってことか。


「あ、あお、んとにだいじょぶ?」


 なんかいつもよりもすごい片言っぽく聞こえるな。わたりんもすごくテンパっているのがわかる。ドッキリはこうでなくちゃな。ただ・・・やっぱりしっぺ返しが怖いな。うーん・・・もう一人くらい味方増やしたいな。俺の味方はみんな当事者だからな。説得力に欠ける。しかもかえでは木曜くらいしか会えないし母親は信用できない。まぁどうにかなるか。


× × ×


 合唱コンクールの練習があったのち、帰宅することになったがまだ続けなければならない。もうここまでくれば使命感みたいなものがモチベの大半を占めている。他は・・・もうとっくに崩れてます。何なら今すぐにでもやめたい。

 今日はいつもだったら家までついてくるココとわたりん以外にアオと橋倉もいる。まぁアオはいいとして何で橋倉もいるの? バンドは?


「・・・やっぱりまだ帰ってきてないか。やじママさんに聞こうと思ってたのに」


「あの・・・明日もありますし早めにお帰りになったほうが」


 そうだ、早く帰ってくれ。もう精神がもたん。何かの拍子にプツっといきそう。


「かえかえもまだか・・・あの頭を撫でたい衝動が・・・おおおお!」


 なんだ、橋倉はただかえでの頭撫でたかっただけか。ていうか今更だけど橋倉もだいぶ変な性格してるよな。俺のこと言えないよ。


「光ちゃんごめん! えい!」


 ココがごめんと言った瞬間何か頭に衝撃が走った。首! 首! 不意をつくのやめて。もししゃべってる最中とかだったら舌噛んで悲鳴上げてたよ。クッションだからオッケーとかそういうことじゃないからな。


「ちょっ! 何するんですか⁉ 痛いじゃないですか!」


「あ、ごめん。その、ひなっちの言ってたことやれば元に戻るかなーって思って」


 どうせそんなことだろうと思ったよ。理由もなくやってくることも自分で何か理由をつけてやってくるなんてことココには絶対に出来ない。


「はぁ、とりあえずみんな帰りましょう。ちょっと今日は疲れたわ」


「ということなので私とアオは失礼!」


「あちょっと待って! 私も帰る!」


 そう言ってアオ、橋倉、そしてココと三人が出て行く。あれ? この三人だけだったっけ?


「やじまくん」


「はい」


「・・・わたししってる。どっきいってこと」


「え、ちょ、どういうことですか⁉」


 マジ⁉ 何で知ってるの? いや、もしかしたらこれはわたりんの罠かもしれない。はまらないようにしないと


「かえかえにいろいろおしえたから」


 そうか、かえで自身普段絶対使わないような言葉があるなと思ってたらそういうことか。わたりんがかえでに仕込んでさらにそれを俺に仕込んだってことか。じゃあ納得だわ。


「すぅー、はぁー・・・。ようやく楽できるわ。もう限界だった。ていうか何で・・・いや、それはかえでに聞くか。早く行った方がいいんじゃねぇのか」


「うん、ばいばい」


「ああ」


 何でかえではわたりんに仕込んでもらったのか、何でこんなどうでもいいことをわたりんに話したのかが気になったがあまり長い事話してるとすでに外に行ってる三人に怪しまれるからな。あ、あー! そうだ! わたりんもこのこと知ってるんだったら明日ばらすときに俺の味方になってくれって頼めばよかった・・・。


× × ×


「で、どうだったのぉ? 学校での反応はぁ」


「成功っちゃ成功だけどよ。明日どんなことになるか考えただけで怖いわ」


「そんなの自業自得じゃん」


「一番ノリノリだったお前にだけは言われたくねぇよ。何でもわたりんにも協力を仰いだそうじゃねぇか」


「それは、だって、私そういうの苦手だし」


「とにかくだ。明日俺は確定で怒られるから逃げんなよ」


「私部活だしー」


「私仕事だしぃー」


「逃げんなよ。多分あいつらも帰らねぇからな」


 部活とか仕事とかそういう言い訳は一切聞かん。一緒に怒られろ。

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