サプライズ

サプライズ - 82日目 -

 迎えたサプライズ当日。・・・何で雨なんだよ。最近降ってなかったじゃねぇか。このまま梅雨明けでもよかったのに。

 じゃあ移動しますか。


「今日はさーちゃんの車に乗っていきなさい」


「何でだよ」


「うちと同じ車あったじゃない。それで十分でしょ? それに私は退院するまでいいわよぉ」


「あっそ。まぁいいや。じゃあかえで、他の人に言っといてくれ」


「なんで私が」


「もう言っといてあるわよぉ。今こっちに向かってきてるんじゃない?」


「は?」「え?」


 ほどなくしてインターホンが鳴った。


「こんにちはー。お迎えに来ました!」


 ココだ。本当に来たのかよ。ていうか乗れるのか? ・・・乗れた。咲夜さん運転して夏夜さん助手席、ココ、わたりん、咲彩、最後尾が慎、俺、かえでという並びだ。狭い。


「いってらっしゃーい。奈々ちゃんによろしく言っといてねー」


「はーい!」


 そして奈々の病院までレッツゴー! 何だろう。サプライズを企画したの俺なのに全然気乗りしない。いや、切り替えよう。病院で何が起きても知らん。奈々が喜べばそれでいい。何かあったら・・・企画した俺の責任じゃん。やっぱり気乗りしない。だって何もないわけないから。何かしりとり始まってるし。遠足じゃねぇんだから。


——————————————————————————————————————


 待ちに待った日がやってきた。皆さんに会えるのが楽しみであまり寝られなかったけど大丈夫! 外を見てみると雨が降っていた。でも気分はすごくいい。最近はベッドだけじゃなくて車いすで移動も出来るようになった。光ちゃん先輩が水曜日に言っていた。何かあるかもしれないからあまり驚きすぎないようにって。何かな? 確か皆さんが来るとは言っていたけど、それでも十分驚くけど、それ以上に何かあるのかな?

 着いたら連絡するって言ってたからもうちょっとで来るはず。わくわく! あ! 来た!


「お母さん! 来た!」


「先に私が挨拶して来るからちょっと待っててね」


「うん」


 ラインでメッセージが来た。そのメッセージはココ先輩から送られたものだった。『みんな今着いたから待ってて!』ちょっと緊張してきた。いけない、落ち着かないと。

 今何話してるんだろう。早く会いたいなぁ。先輩・・・


「よお、三日ぶりだな」


「奈々ちゃーん! 会いたかったよー!」


「あえてよかった」


 ココ先輩、わたりん先輩、そして光ちゃん先輩が来てくれた。


「私も会えてよかったです」


「泣くなよ。まだ泣くのは早い」


 そうだ。この後他の人にも会うんだ。でももう泣きそう。目を押さえてよう。あ、でもそうすると見えなくなっちゃう。あー! とにかく落ち着かないと。

 看護師の人も来てくれてココ先輩、わたりん先輩と一緒に私を車いすに移してくれた。


「じゃあ行くぞ」


「光ちゃん押してって」


「は? 俺が押すの? ぶつけても知らねぇぞ」


「大丈夫です! 手術と比べたらぶつかるくらい全然です!」


 何より光ちゃん先輩が押してくれることが嬉しかった。でも移動ってどこ行くのかな? みんなのところ?

 病室を出て右に曲がって少し行くと・・・あ、


「奈々ちゃん久しぶり」「大丈夫か?」


 瀬戸先輩、さーちゃん先輩・・・


「みんな連れてきたよ」「な、別に私は、泣かないから!」「泣いててその発言は説得力ないですよ。お久しぶりです」


 アオ先輩、佳那先輩、ひなっち先輩・・・


「よく頑張ったね。うん、すごいよ」「私は初だね! みんなに言われてきました橋倉愛華です。マナって呼んで! ・・・すごく撫でたい」「ダメだ、ひなっちを撫でておけ」


 佐藤先輩、橋倉先輩、ふららん先輩・・・


「げ、元気そうですね。その・・・おめでとうございます」「私みんなに言われちゃった、あはは」


 かえでさん、アオママさん・・・


「み・・・皆さんに会えて・・・嬉しいです」


 目を押さえていても涙があふれてくる。視界が歪んでみんなの顔を見ることが出来ない。でもただただ嬉しかった。みんなが私のもとへ駆けよってくる。抱きしめてくれる。声をかけてくれる。もうこれ以上は何もいらない。それほどに私は満たされていた。あ、もしかして・・・


「奈々、まさかこれで全部だとは思ってねぇよな?」


「・・・え? 違うんですか?」


 声が震えている。これで全部じゃない? みんなに会えることがサプライズじゃないの?


「先にちょっと落ち着け」


「また頭撫でてる」


「いいじゃねぇかよ。他に落ち着く方法あんのかよ」


「はい! 深呼吸!」


「負担かかるだろ。ダメだ」


 光ちゃん先輩に毎回頭撫でられているけど本当に嬉しい。それと撫でられると本当に落ち着く。あれ? 皆さんの視線が光ちゃん先輩に向いてる。


「わ、私は嬉しいですよ!」


 光ちゃん先輩が悪く見られないように必死に言い繕ったけど大丈夫だったかな?


「だー話がそれる。もういいや。お二人とも、出て来てください」


 光ちゃん先輩が言うと奥から二人歩いてくる。すごく身長が高い。そして女性。あれ? 見たことある。もしかして、え?


「SAKU-KAYO華麗にとうじょーう!」「大げさなんだよったく」


 見間違えるはずがない。本当にSAKU-KAYOの二人だった。嘘⁉ ほんと⁉ 


「ああああの! その・・・えっと・・・ああ握手! してもらえますか!」


 緊張と感動で全然口が回らなかった。恥ずかしい。でもSAKU-KAYOの二人は快く握手してくれた。あああ嬉しい! ちょっと待って! もうこの手洗いたくない!


「何で私たちがいるか気になってるでしょ。何を隠そう私たちはさーちゃんのお姉さんだからよ。あと、これ企画したのは光ちゃんだからね」


「何バラしてくれてんですか」


 え? これ光ちゃん先輩が企画してくれたの? うぅ・・・


「嬉しいえす・・・ありがとうごじゃいます・・・」


 全然言えてなかった。私の馬鹿! 顔も何もかもぐちゃぐちゃだ。でも今日のことは一生忘れない。こんなことがあったからこれから先何があっても頑張れる!


「はい! では手術頑張った奈々ちゃんにプレゼントしたいと思いまーす! みんな拍手ー」


 SAKUさんに促されてみんな拍手している。受付にいた看護師さんも拍手している。プレゼント? まだあるの? もう十分もらってるのに? そう思っていたけど渡されたのは・・・これって


「私たちの寄せ書きでーす! 私たちだけじゃなくてみんなのもあるよ!」


「寄せ書き渡すタイミング間違えてねぇか?」


「それ俺も思いました。それは気にしないでください」


 SAKUさんからもらった寄せ書きには一人一人のコメントが寄せられていた。みんなの励ましの言葉、応援の言葉、そしてSAKUさんKAYOさんのサインまで。


「感無量です・・・」


「ああちょっと、せっかく書いたのに涙で汚れちゃう」


「すびません」


 嬉しい。嬉しすぎる。まさかこんなこと考えてくれていたなんて・・・。泣き顔を見られちゃった恥ずかしさもあるけれどそれ以上に嬉しさが上回っていた。

 少ししてようやく落ち着くことが出来た。ふぅ・・・


「やっと落ち着いたか。さすがにもうねぇからな」


「あれ? 光ちゃん? 本当にそれでいいのか?」


「何だよ。今言うことかよ」


「今言わなくていつ言うんだよ。ただ・・・そうだな。奈々ちゃんが受け入れられるかってのがあるけど」


 何だろう? 瀬戸先輩と光ちゃん先輩が言っていることって? でも


「ぐすっ、もう大丈夫です。もういっぱい泣きましたから!」


 もう何言われても大丈夫! 良い事も、ちょっとくらい悪い事でも。


「じゃあ病室に戻るか。さすがにここではちょっと話づれぇな」


 そう言われたから病室に戻る。SAKUさんとKAYOさん、あとお母さんとアオママさんはここにいるみたい。だから病室に行くのは、その・・・現役生徒? とにかく10人くらいが病室に入ることになった。幸いにも大きい病室だったから全員入ることは出来た。でも何だろう?


「さてと」


「なになに? 何の話?」


「慎ちゃんは知ってるんだ」


「知ってるけど光ちゃんが言うべきだし、ここ逃したら絶対言わなそうだからな」


「それってもしかして!」


「何詮索してんだよ。俺に話させろ」


 皆さんがいる前で言いたいこと? 何だろう? 


「あの時、奈々が、その・・・告白した日を覚えてるか?」


「・・・はい」


「あの時俺はこう言った。まずは親友からってな。でも俺思ったんだ。こんな中途半端でいいのかってな。奈々は自分の気持ちを伝えたってのに、俺が逃げていいのかってな。言ってすぐに後悔した。そして考えた。随分と長くなっちまったが。今ここで俺に気持ちを伝える」


 光ちゃん先輩の気持ち、その言葉はすごく強かった。覚悟を持っているように見えた。だから私もしっかり聞く。光ちゃん先輩が大きく深呼吸して言った。


「・・・悪い奈々。お前の気持ちには答えられない」


 ・・・そんな。私・・・


「り、理由を聞かせてもらっても・・・」


 怖かった。今私はフラれた。当然ショックという気持ちはあった。でも知りたかった。


「ああ。まず最初に言いてぇのは俺は奈々が嫌いなわけじゃねぇってことだ。むしろ逆だ。・・・言いづれぇんだが奈々は真面目で、めっちゃいいやつで、俺のことを第一に考えてくれる。そんな奈々を嫌いになれるわけがない。でも、だからこそ、奈々の気持ちには答えられない。奈々は今自由を手に入れた。新しい、第二の人生を歩み始めたんだ。当然やりてぇこともあるだろ。例えば手術前に出来なかったこと。こいつらと一緒に遊ぶだとか、色んな所に行くだとか、めいっぱい体を動かすこととか。そんなにやりてぇことがいっぱいあるのに俺一人でそれを無駄にしてほしくねぇ。もちろん奈々がそんなことないって言うのはわかっている。でもな、俺は嫌なんだよ。そうやって他人の自由を制限することがな。だから奈々には自由ってのを味わってほしい。そんでその自由を全うした後で、それでも俺を選んでくれるのなら、その時は真剣に考える。いや、だからと言って今までが真剣じゃなかったってわけでもねぇけどな。とりあえず俺の気持ちはこんなところだ。・・・せっかくこうやって全員集まって良い日だってのに、こんな話しちまって悪いな」


 光ちゃん先輩の気持ちというのが話された。何だろう。何て言えば良いのかな? 腑に落ちた。納得した。とにかくそんな気持ちが浮かんだ。それと同時にこんなにも私のことを考えてくれている光ちゃん先輩はやっぱり優しいって思った。


「奈々ちゃん、泣かないで」


 え? 私泣いてた? 頬を触ってみると濡れていることが分かった。


「俺は奈々にひでぇこと言った。叩くなり殴るなり好きにすればいい」


 違う、私は光ちゃん先輩に手をあげたくない。だから私は私の気持ちを


「いえ・・・光ちゃん先輩はやっぱり優しいって思って・・・」


 声を出そうとすると震えてしまう。でも言わなきゃ! 私の気持ちを!


「光ちゃん先輩の言う通りです。私、先走ってしまいました。今こうして自由を手に入れて、新しい人生を歩み始めました。ですので私、やりたいこといっぱいやりたいと思います。まず最初はリハビリですね。そして学校に行けるようになったら、皆さんとまたお昼を食べたいです。その後すぐに夏休みになると思いますので、いろいろなところに行きたいですね。あ、その前に、全力で走ってみたいです。他にもいっぱいいっぱい・・・。光ちゃん先輩は私に機会を作ってくれました。なのに私が自分でそれを無駄にするわけにもいきません。なので私は自由に生活してみたいと思います。それと、私も気づいたことがあります。その・・・勢いで告白・・・しちゃいましたけどいろいろ考えてみました。私、視野が狭かったんだと思います。もちろん光ちゃん先輩に対する思いは今もこれからも変わりません。でも皆さんと一緒にいるうちに、この場が、こうして皆さんと一緒にいる時間が好きなんだって思うようになりました。ですので、私はそれを壊すようなことはしたくないです。皆さんとはこれからも一緒にお話ししたり、遊んだりしたいです」


 私の気持ちを、皆さんに届くように!


「ですので私・・・すぅー、はぁー。光ちゃん先輩の妹になります!」


「は?」「え?」


「えぇー⁉」


 あれ? 皆さんして驚いてる。


「私何か変なこと言いました?」


「何がどうなってそうなったんだよ⁉」


「うんうん!」


「えーっとですね。やはり皆さんより年下という点で妹というのがいいと思いましたし。なにより、妹になればそれは家族として認めてもらえるだけでなく、今の関係を崩さずにいられるかと思いまして」


「奈々さん! 私は認めません! 何で妹なんですか! お兄ちゃんの妹は私です!」


「はい、ですから私は義妹ということで!」


「いや、そういうことじゃないと思うけどな」


「でも光ちゃん先輩は私のことを妹みたいって言ってくれました。ですので私はこれから妹として———」


「待て待て! 言うんじゃねぇよ!」


 あ、そうだった! これ私と光ちゃん先輩の秘密だった。


「お兄ちゃん、ちょっと———」


「ちょっと待てかえで! 痛い痛い! 首絞まる!」


 言っちゃいけないこと言っちゃった。光ちゃん先輩がかえでさんに襟掴まれて行っちゃった。


「ねぇ奈々ちゃん。それ本当なの?」


 アオ先輩がこっちをすごく見てくる。でも言っちゃいけないことだし。


「もういいんじゃないか? バレちゃったんだし」


 瀬戸先輩も言ってくる。じゃあ・・・ダメダメ! 光ちゃん先輩との約束だから!


「もし言ってくれるなら矢島さんを救えるかもしれませんよ」


 救える? あ、さっきの。そう、このままだと光ちゃん先輩が悪者になっちゃう。


「はい、私のことを妹みたいと。電話越しでしたが」


「ふーん、でもそれでどうなって妹になりたいと?」


「えーっと、光ちゃん先輩の望みをかなえるためです!」


「妹みたいって言われたからじゃあ妹になってやろうってことか。何て言うか・・・すごい飛躍の仕方だな」


「これは矢島さんが悪いです。今頃かえかえさんにボコボコにされてるんじゃないですか?」


「や、やっぱりですか⁉ 私悪いことを・・・」


「いや、奈々ちゃんは悪くないよ。それに、それくらいで光ちゃんはやられないからね」


「ほんと懲りないんだから」


「全くだ、うんうん」「そうですね」


 アオ先輩、瀬戸先輩、ひなっち先輩、佐藤先輩が揃って頷いている。えーっと、どうしよう。


「おーい、そっち四人、大丈夫かー?」


 ココ先輩、わたりん先輩、橋倉先輩、佳那先輩は固まっている。尾鷲先輩はなんかさっきからずっとプルプル震えている。


「は! な⁉ 奈々ちゃんが光ちゃんの妹に⁉」


「どどどどうしてそうなるのよ!」


「ちょっと待って! マナは最初っからわかってないんだけど!」


「なんかこっちとそっちで時間の流れが違うようだな」


「あ、いた。もう一人流れが違う人」


 アオ先輩が指さす方を向いてみると、え? 嘘・・・


「立ちながら寝てますね。どんだけ器用なんですか?」


「いやそこじゃないと思うよ突っ込むところ」


「よく大事な話の時に寝れるわ」


「やっぱ姉妹なんだな」


 さーちゃん先輩が立ちながら壁にもたれかかって寝ていた。腕を組みながら寝ているから様になっている。かっこいい・・・あ、そうじゃない!


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 俺この後どうなるんだろう。気持ちには答えられない。本当だったら奈々の方が気持ち的につらいはずなのに今は俺の命が危うい。さっきからかえでに襟掴まれて無理矢理連れていかれている。いや確かに妹っぽいとは言ったよ。でもそれをカミングアウトされ、さらには希望にこたえるべくなりますって? 飛躍しすぎだよ! なんか奈々の突っ走る性格が俺に対していつも裏目に出ている気がしてきた。


「あ、かえでちゃーん、光ちゃーん、話終わったのー?」


 もうこの際咲夜さんでもいい。夏夜さんでもいい。助けて。


「終わってないです! これからお兄ちゃんをしばこうと思ってます!」


「おいコラ、かえでに何してくれてんだ、あァ?」


「わぁー、すごく怒ってるのわかるわよ。本当に何したの?」


「聞いてくださいよ! うちのバカお兄ちゃんのしでかしたことを!」


 これは公開処刑ですね。ていうかここって看護師とかも普通にいるよな? 皆さんに言いふらされるんですか・・・。かえで、ちょっと頭冷やしたほうがいいと思うぞ。これ話して損するのは俺だけじゃないから。・・・聞こえてないし。

 さっきの病室での事をかえでが話した結果が


「すみませんうちの娘が!」


 奈々ママが全力で謝っていた。その横で咲夜さんは爆笑してるし。


「それはちょっとかえでちゃんも受け入れられないわよね」


「はい! それもこれもこのバカお兄ちゃんのせいです!」


 アオママさん、かえでの味方にならないでください。


「———! ・・・ふぅー、義妹ねぇ。私はいいと思うけど?」


「どこがいいんですか⁉ 私は嫌ですよ!」


 ようやく笑い収まった咲夜さん、え? いいの? 何でよ。そしてそれにかえでは全力で否定している。


「私たちにとってはかえでちゃんも立派な私たちの妹だけど?」


「ち、ちがっ! そういうことじゃないです!」


 これは何て言ったらいいのか。おおらか? 確かに言ってることはそんなことのような気がするが・・・なんか違う気もする。


「あ、もしかして、自分と同じ立場になっちゃうから嫉妬でもしてるの?」


「咲夜さん!」


 咲夜さんに見透かされてるな。かえでは今どんな表情をしているのだろうか? 怒りと恥ずかしさ、他にもいろいろ混ざってすごいことになってそう。


「でもね、かえでちゃんが妹ってことに変わりはないでしょ? その立場は今もこれからも変わらないじゃん? 正式な妹って言えば良いのかな?」


「そ、それはそうですけど・・・」


「もっと柔軟になってみたら? さすがに私たちくらい柔軟にはならなくてもいいけどね。二人に聞くけど奈々ちゃんが妹・・・義妹になることは嫌?」


「嫌です!」


「その理由は?」


「それは・・・」


「明確な理由がないのにそれを拒むのはちょっとダメなんじゃないかな? 私いろいろ知ってるんだよ。前・・・奈々ちゃんと初めて会った時も同じようなことあったでしょ?」


「何でそんなこと知ってるんすか。どこでそんなこと聞いたんすか」


「バカお兄ちゃんは黙ってて!」


「はい・・・」


 ついに発言権もかえでに奪われた。もうこうなったら端っこで縮こまってるしかない。


「あの時は親友からだったので私も受け入れました。でも今回は・・・」


「かえでちゃん、さっきから否定はしているけど心の底から否定してるってわけじゃないよね?」


 今度はアオママがかえでに言っている。


「否定・・・出来ないです。でも、よりによって妹なんて・・・」


「かえでちゃんにはかえでちゃんの揺るがないポジションがちゃんとあるんだから!」


 アオママのそれは何だ? 慰めか?


「じゃあかえでちゃんはどうすれば満足する? もちろん、奈々ちゃんも納得する形でね」


 二人とも満足する形? そんなのあるか? なかったことにする以外で。


「・・・わかりました。夏夜さん」


「あ?」


「このバカお兄ちゃんをしばいてください。大丈夫です。幸いここは病院なのでちょっとくらいケガしても診てもらえますから」


「おいかえで! シャレになってねぇぞ!」


「は? シャレじゃないけど」


「わかった。かえでの言うことなら仕方ねぇなァ!」


 かえで怖い。多分人生で一番怖い瞬間に立ち会った。今までの比にならないレベルで俺を突き放す言葉、そしてしばくのに夏夜さんを使う、そしてここは病院。俺の人生はどうやらここまでのようです。なのでこの物語もここで終わりを迎えます。皆さん、今までありがとうございました。———Fin.


「ぬおー・・・。何したんすか! 腕折れますよ!」


「あ? しっぺだ」


 しっぺ? こんなに痛かったっけ? 腕ごと持って行かれるかと思った。実際しっぺ食らったところも痛かったが威力が強すぎてそのはずみで机に思いっきり腕をぶつけたのでそっちもめっちゃ痛い。


「これで満足?」


「全然してないです。右手にもお願いします」


「よっしゃあ腕出せや!」


 咲夜さん、絶対楽しんでるだろ。夏夜さんも張り切らないで。というわけで右側も同じように食らった。おかしい、食らったのはしっぺのはずなのにそこを竹刀で叩かれたくらいの痛さがある。籠手を食らった感じだ。ちゃっかり竹刀持ってきてないよな?


「嫉妬しちゃうのもしょうがないわよね。でも言ってることと思ってることが一致してないのはかえでちゃんもわかってるはずよ。もっと素直になってみたら」


「素直だなんて・・・」


「じゃあこう考えたらどう? かえでちゃんは光ちゃんのことをよーく知ってるでしょ? それに一緒にいる時間も長い。優越感? マウント? どっちでもいいけど奈々ちゃんよりは上ってのは確かでしょ?」


「・・・はい、そうです」


「あと光ちゃん」


「はい?」


 ずっと咲夜さんとかえでが話していたが急に俺に話が振られた。ちくしょう、今めっちゃ痛いの堪えてるのに。


「光ちゃんとしての気持ちはどうなの? さっきの答え、まだ聞いてないけど」


 俺の気持ち? ああ、奈々が義妹になることが良いか悪いかか。・・・うーん、どうだろうか。彼氏彼女の関係じゃなくなる。まぁこれは今までもずっとそうだったが。俺がそれを断ったからな。罪悪感はある。あと個人的に奈々が妹っぽいのは前々から思っていた。だからと言ってロリコンじゃないからな。でもそれは他でもない奈々によってバラされたわけだが。あとはかえでの方だ。今まで家族として一緒にいた、そこに奈々が入ってくるわけだ。しかもこれはごっこ遊びというわけでもないだろうしな。嫉妬するって気持ちはわかる。あと奈々が初めて告白したときにも同じようなことが起こったがそこでかえでの俺に対する気持ちというものを客観的な視点からではあるが聞いた。


「義妹って響きにはすごく抵抗がありますけど、まぁ本人がそうしたいって言うんなら俺は止めたくないですね。それにかえで、別に俺はかえでのこと全くわかってねぇわけじゃねぇからな。伊達に15年も一緒にいねぇよ。だからこれだけは言える。俺はこれからもかえでにおんぶにだっこなのは変わんねぇぞ」


「ほんとだし。だから・・・」


「さてと、私たちはちょっと席を外しましょ。確か下にコンビニありましたよね?」


「あ、はい」


 咲夜さん、自分で話題振っておきながら席外すのかよ。しかも全員連れ出して。どうすんだよ。俺とかえでだけって今この状態じゃすごく気まずいぞ。


「ねぇ」


「はい」


 かえでの「ねぇ」がものすごく怖い感じのトーンだったので思わず委縮してしまった。


「私は義妹なんて認めないから。でも・・・その・・・奈々さんの言ってることもわかる。何が正解なの?」


「正解なんてねぇよ。あえて言うんなら、みんなが納得する形ってのが正解なんだろうな」


 奈々が義妹になるって言い出したのは何か理解したらしい。じゃあかえでが今嫌がっている、拒んでいるのは義妹として認められることなのか。対して俺もみんなが納得する形が正解だなんて似合わないことを言ってしまったが今回はそれにあたるものがない。まず告白を受け入れるってなったら俺が納得しない。拒否して妹宣言した奈々を断るなら奈々が納得しない。それを受け入れたらかえでが受け入れない。誰かしら不利益を被ることになる。あとは、・・・そうだな・・・


「あとこれは俺の推測なんだが多分奈々は特別でいたいんだと思うぞ。今回奈々は手術やったおかげで一般人になったってわけだ。まぁ俺たちからしてみれば喜ばしい事なんだが奈々からしてみると普通になったから振り向いてもらえなくなるって、これは何て言ったらいいんだ? 恐怖? ある種そんなものがあるんじゃねぇか? だから特別でいようと必死になってる。俺にはそう見えるな。まぁ俺としては第一印象が鮮烈だったから十分特別なんだけどな。でも奈々の性格上そう考えたら一人で突っ走るからなぁ」


「・・・何でそんな知ってるんだし」


「いや、知ってはいねぇぞ。最初に言ったようにこれは推測だ。間違ってることもあるな」


「偉そうな口利かないで」


「あ、はい、すみません」


 もう何言ってもかえでの地雷に触れる気しかしない。もうどうしたらいいんだ。よし、こうなったらかえでに対する本心を言おう。変に取り繕うよりマシ・・・だと思うから。


「でも特別で言えばかえでもそうだな。俺の妹ってのもあるしまずそれ以上に一番頼れるって個人的には思ってる。こればっかりは他の誰もかなわねぇよ。さっき言ったように俺はこれからもかえでを頼りまくる予定だしな。だから、かえでの立場はこれからも変わんねぇよ。その・・・はぁー・・・かえでは俺の一番頼れる妹だ」


「・・・ため息が余計だし」


「ため息じゃねぇよ。深呼吸だよ」


 そう言ってかえでの頭を撫でる。ん? ちょっと待って。さっき俺なんて言った? なんか勢いでとんでもねぇこと言った気がする。思い出そうとすると腕引っ張られてまた移動していく。方角的に病室の方だな。病室のドアを開けると一気に静かになった。


「奈々さんは『二番目の』妹ってことにしてあげます。いいですか? 『二番目』ですからね」


「本当ですか? いいんですか?」


「はい。どうぞ喜んでください。私の気が変わらないうちに」


「あ、ありがとうございます!」


 驚いた。あれだけ頑なに嫌がっていた奈々が妹になるという話をかえでが受け入れた。え? どういうこと? これまでの会話で心境が変化する要素あったか? いや、余計なことは考えないようにしよう。変に考えて変なこと言うとまたこうなりかねない。だったらそうだな、もうちょっと発言を自重するか。


「おい光ちゃん。かえでちゃんをどう説得したんだ?」


 耳元で慎が聞いてきた。


「説得? してねぇよ。俺はただかえでに———」


 言ってる最中にかえでだろう。すねを蹴られた。めっちゃ痛い。思わずその場にしゃがみ込む。それを奈々は心配しているがかえでは気にしないでくださいと言って俺のことを完全に無視。他の人はというと祝福する人、驚いてる人、俺を気遣う人、俺を見て噴いている人。もう誰が誰か言わなくてもわかるよな。あーめっちゃいてぇ。あざ出来てねぇかこれ。


 奈々が妹、いや、誤解するといけないから義妹にしておこう。そうなって少し、なんかあっという間だったな。面会終了の時間になった。というわけでまた最初の広間に戻った。そこには途中で買い物に行ったSAKU-KAYOの二人とアオママ、奈々ママもいた。


「あの、なんかあっという間でしたけど、すごく楽しかったです。私、これからも頑張ります! 頑張って、また皆さんと一緒に肩を並べて歩けるように」


「うん」


 別に俺から言うことはたいしてなかったのになんか横からつつかれた。誰だよ。俺がなんか言えってか。もう言いつくしたぞ。


「ほら、何か言ってあげなよ」


 慎かよ。わかったよ。


「奈々、頑張んのはいいけどあまり頑張りすぎんなよ。そのせいで退院が先延ばしになるのは嫌だかんな。かえでと同じてつを踏むなよ」


「はい! あの、かえでさんも?」


「轍を踏む?」


 よかった、奈々には通じた。一方他の一部の人には全く通じていなかった。具体的にはココ、佳那、かえで。でも俺はこれを狙っていた。またここでかえでに蹴飛ばされるのは嫌だからあえて難しい言い方にした。


「そうだ。その辺のことはまた次来た時にでも話してやるよ。じゃあな」


「は、はい!」


 みんな口々にお別れの挨拶を言っていく。まぁその話を聞きたいってのをモチベーションにほどほどに頑張ってくれ。ほどほどにな。ちなみに病院を出たところで轍を踏むの意味を説明されたかえでは俺の足を思いっきり踏みつけてきた。何で今更恥ずかしがるんだよ。ここにいるほぼ全員知ってるだろ。だから別に言っても問題ないだろ。・・・ダメだ。口利いてもらえない。わかってない人に轍を踏むの意味を説明すると同じ失敗をするとか先人をまねるとかの意味があるんですね。ん? 意味を改めて振り返ってみると俺も人のこと言えないような気がするな。頻度で言うと二日に一回かえでにボコられてるし。自分で自分の轍を踏んでる感じがした。ちょっと反省しようかな。


× × ×


 大所帯での奈々のお見舞いが終わってこれにて帰宅・・・


「確か慎君とかえでちゃんは私たちの家行ったことなかったよね? ということでしゅっぱーつ!」


「おー!」


 出来ないとは思ってた。私たちの家って多分あれだろ。木曜日に行ったあの家かどうか怪しいところ。咲夜さんと夏夜さんの持ち家。同じ車に乗っているココとわたりんは行く気満々、まぁこの二人は実質家に帰るのと変わんないからな。咲彩は自分の家に帰るから大して反応してこない。まさかとは思ったが今も寝ているらしい。しかも慎曰くさっきも病室で寝てたとか。もういいや、知らん。で、その慎は入ったことはなくても、その二人の家のことを少し知っているから多少なりともわくわくしているのだろう。一方のかえでは何も知らない。本田家が二軒あることも、咲夜さんと夏夜さんが家を持っていることも、家の内外のすごさも。かえでもつかなぁ。他の人は呆気に取られたり意識飛んでたりしてたけど。かくいう俺も一瞬呼吸止まってたけど。


 かえでが知らなかったからか、かえでが家のことを詳しく聞こうとしても流されたり、ココがしゃべろうとしたのをわたりんが止めたりしていた。そんなこんなで到着。


「これがお三方のおうちですか」


「いや、そっちもそうだがこっちもだ」


「え?」


 そらそんな反応になるよ。俺らも最初そんな感じだったから。


「私たちは家を二軒持っている」


 おーい、かえでー、息してるかー? 完全にフリーズしたな。早いぞ。そんなんだったら全部紹介するまでもたないぞ。


「咲彩ちょっと待ってー。そっち紹介する前に車入れちゃうから車庫開けてー」


「ん、ああ」


「え? 車庫? そっちにあるのは・・・」


 車庫じゃないだろ。とはいえガレージとも言えないな。何て言うんだ? 咲彩が歩いて行った方向についていく慎とかえで。ちなみにココとわたりんは一度自分の家に帰っている。夏夜さんは・・・何してんだ?


「隣の修理工場だったところを借りてガレージ代わりにしてんだと。これはさすがにびっくりしたわ」


 その光景を見て慎もフリーズ、かえでは生きてるか? さっきから全然声聞かないけど。咲彩と咲夜さんが慌ててないから死んではいないだろう。

 駐車が終わって降りてきた咲夜さん、その後車庫に置かれている車の説明が行われたがその間もずーっと静かだった二人。本当に大丈夫か?


「おい、そんなんで驚いてたら身がもたねぇぞ」


「いや、あれはさすがに驚くだろ。初見にはきつすぎるって」


「さぁさぁ、それじゃあうちに行きましょうか。はいかえでちゃんもしっかり」


 フリーズしたかえでは咲夜さんが連れて行くことになって咲彩が先導する形になった。咲夜さん夏夜さんの家に入る前にさっき家に一度帰ったココとわたりんも合流。そして家に突撃ー! こんなテンションでいられるのはココとわたりんくらいしかいない。


「それじゃあ二人にまずは家を案内しましょうか。ゴーゴー!」


 咲夜さんもなんか乗り気だな。そのまま慎とかえでを連れてリビングを離れて行った。その間俺たちはくつろいでおこ。あ、そうだ


「夏夜さんはどこ行ったんだよ」


「さあな」


「いや自分の姉の事だろ。ちょっとは気にかけろよ」


「かよ姉は気にするだけ無駄だ」


 おっしゃるとおりで。じゃあいいや、夏夜さんは突然いなくなったってことで。どうせそのうち出てくるだろ。


「早く奈々ちゃんにもここ来てほしいね。そしたらお泊り会とか出来るから!」


「やる前提かよ。俺は行かねぇからな」


「えー?」


「えーじゃねぇよ。そもそもここ泊まれるの4人が限界だって言ってただろ。お前とわたりんと奈々とかえで、ついでに咲彩も入れるともう無理じゃねぇか」


 いや、本当は他にも理由があるのだがあえて触れない方向で。だってよ、男女が一つ屋根の下でお泊りってやばいだろ。というわけで俺は却下。何言われても却下だ。おいココ、ブーブー文句言っても俺は曲げねぇからな。


「これでも食べるといい。何かさく姉が用意しておいたものだ」


「わぁ! いっただっきまーす!」


「いただきあす!」


 一言余計だろ。まぁいいや。で、咲夜さんが用意した物とはいったい、変なものじゃなければいいのだが。何かわたりんから渡されたのでそれを食べてみると・・・あ、うん。これ、せんべいだ。チョイスが渋いな。

 そうだ、お泊り会っていえば思いだしたことがある。奈々は俺や慎と同じ中学出身だった。ということは俺の家から距離的にそんな遠くないところに奈々の家があるということか。だからか、最初に会った次の日に歩いてきたってのは。歩いて来れるくらいの近さってことか? え? 嘘、世間ってそんな狭いの?

 しばらく雑談していると家を見て回っていた慎とかえでが帰ってきた。


「では感想をどうぞ!」


 咲夜さんに振られた慎はどう答えるか。


「光ちゃんの言っていたテーマパークの意味がよくわかりました。ていうより何でこの格好のまま来なきゃならないんですか?」


 この格好? あ、そうか、さては着付けされたな。ということはかえでもか。


「ということで説明しまーす! 慎君は高身長だからパパの服が似合うと思ってね。というわけで、以前パパが使っていた自衛隊の服を着せてみました! 何でここにあるかというとね、この柄の服って結構受けいいんだよね。だからとっておいたの。テーマは、主張しすぎないけどさわやかな自衛官! どう?」


 そういえばここにいる人全員咲夜さんに着付けされたな。ココは「かっこいい!」って言ってわたりんは拍手。一方さすがに普段着ないものを着させられてみんなの前に立っている慎は恥ずかしそうにしてるな。くそ、見たかったな。ていうか自衛隊の服ってファッションとして成り立つの?


「主張しないけどさわやかな自衛官か・・・想像つかねぇな」


「光ちゃんのそれは嫌味か」


「俺だって着させられたんだからこれで被害者同士ってわけだ」


「被害者って・・・」


 被害者は盛りすぎかもしれないが半ば強引に着させられたからな。どうせ二人もそうだろ。そういえばここに来てからというものかえでの声を全くと言っていいほど聞かない。口数が少ないわたりんよりしゃべってないぞ。


「かえでちゃんも隠れてないで出てきなって」


「いいいやいや無理です! こんな格好見せられません!」


「だったらみんなから見に行きましょうか」


「咲夜さん性格悪いですね。さすが俺が認めただけのことはある」


「わわわかりました! 見せます! 見せますから! ちょっと待ってください!」


 かえでのことだ。そうなることは目に見えていた。人見知りがおめかししてみんなの前に出るなんてどれだけ勇気のいることか。見えないが深呼吸の深さから大体わかる。・・・何回してるんだよ。もう覚悟決めろよ。

 結局深呼吸7回ののちかえでが出てきた。


「それではかえでちゃんの服の説明! かえでちゃんはポテンシャルが高いから何着せても似合うと思ったんだけどやっぱりこれよね。というわけで夏祭りで大活躍の着物をあつらえてみました。全体としてカラフルな着物で柄は花火、私的にはあのうなじのライン、すごくいい! もうモデルとして採用したいくらいよ。テーマは夏祭りで大注目の一輪の花。これはナンパもいっぱい来そうね。どう?」


「何着せてるんすか。ほぼ願望じゃないですか」


 咲夜さんにいいように着せ替えられて。モデルに採用したいとかナンパ来そうとかほぼ狙ってるでしょ。ココは「かわいい!」って言って連写。わたりんと咲彩もちゃっかり写真撮って。俺も一目でいいから見たかったな。いや、別に変な意味はないからな。自分の妹の晴れ着くらい見てみたいってのは兄として普通だろ。ん? あれ? 俺なんか変なこと言ったような気がする。一方のかえでは「撮らないでください!」って言って顔を隠してしかもすぐ引っ込んでしまった。何でわかるか、ココが後追っかけていったから。今思った。この場に橋倉と葵がいなくてよかった。多分この二人が居合わせていたら地の果てまで追いかけられていただろう。それか二階の撮影部屋に強制連行されて縛られてたか。そこで自分が納得のいくまで写真を撮られ続けていたに違いない。うん、これは断言できる。


「うーっす・・・誰だ?」


 あ、夏夜さんが帰ってきた。これはタイミングが良いのか? 廊下でかえでとココがあれこれやっていた時に帰ってきた。そら最初はそんな反応になるよな。


「あ、夏夜さん見てください! かえかえすっごくかわいいですよ!」


「えちょっ! いいわないでください! 恥ずかしいんですから!」


「かえで、こっち向け」


「はい!」


 裏返った声で夏夜さんの方を向くと同時に夏夜さんはシャッターを切った。


「おし、待ち受けにすっか」


「やややめてください! ダメです! 消してください今すぐ!」


 夏夜さんやることがエグイ。かえでが必死に抵抗しているのがわかるが今着ているものは着物、そして夏夜さんの方がフィジカル的に優位だ。どうやっても勝てるわけない。そして二人は気づいていない。その様子は咲夜さんに動画で撮られていたことに。俺も聞かなかったことにしておこう。

 そんな感じでひと悶着あったあとリビングで再びくつろぐ。ちなみに慎とかえでは着替えました。慎はともかくかえでは今すぐ着替えたいと言っていたので。


「夏夜、何してたの今まで」


「あ? あやかに飯食わせてたんだよ」


「あやか?」


「ああ、そういえば言ってなかったな。うちで飼ってる犬の名前だ」


「え⁉ 見たい!」


 あやかって聞いて一瞬誰かと思ったが犬か。紛らわしい名前だな。いや、ケチつけちゃダメか。ココとわたりんはわくわくしているが一人、正反対の反応をしたやつが一人。


「すみません。ちょっと用事があるので帰ります」


「おい慎、逃げんなよ。克服のチャンスだぞ」


「光ちゃん。そのタイミングは今じゃないって俺の勘が言ってるんだよ」


「お前の勘はいつでもそう言ってるだろ。逃げんなよ。咲彩、ココ、わたりん。ありとあらゆる出口塞いどけ」


 俺と慎が帰る帰らないで問答しているとき夏夜さんが家を後にした。よし! こうなったら後は玄関さえ塞げば問題ない。


「え? 慎君って犬嫌いなの?」


「ええそうですよ。昔ちょっとしたことがあってそれ以来トラウマなんです痛い痛い首絞まる!」


 慎のやつマジで首を絞めてきた。やめてー。俺死んじゃうよ。前は克服するとかなんとか言ったのに。

 俺が息絶えるのが先か、それとも犬が来るのが先か。さあどうなる。


「わぁ! おっきい!」


 来たのがわかったとたん慎は部屋の隅に向かって一直線。はぁ、ようやく解放された。


「それじゃあ改めて自己紹介を。うちの愛犬の彩夏あやかでーす。名前は咲彩の彩と夏夜の夏から取りましたー」


 なるほど納得。どうやら本田家は自分の子供に名前を付けるときは前の人の漢字を生かす傾向があるらしい。現にこの三姉妹もそうだ。ということは両親も今まで出てきた漢字と関係があるかもしれない。最近数学で習い始めた組み合わせで答えが出るか。あれマジでわからんから。順列と組み合わせの違いすら全然わかんないのに。目が見えない俺に計算させるなって話よ。

 話が脱線したな。その彩夏という名のシベリアンハスキー、なんかすっごい違和感がある。その犬が来たとたん反応が真っ二つに分かれた。ココとわたりんは近づくなりすぐ触ったり撫でたりしている。へぇ、意外とおとなしいんだな。しつけの結果か? しつけ・・・夏夜さんが鞭打ってしつけたわけじゃないよな? この人マジでやりかねないから。一方慎はめっちゃ離れて無言を貫いている。気づかれないようにするためか。で、かえではというとさすがに大きいからかちょっと怖がっている。さりげなく俺の後ろに隠れるなよ。俺はどうなってもいいのかよ。


「はい光ちゃんも触ってみて」


 そう言われ咲夜さんに促されるまま触る。ああ、気持ちいい。程よい硬さの毛。そして温かい。これはいつまでも触っていられそう。


「かえでちゃんもほら」


 びくびくしているかえでの腕も咲夜さんが引っ張って触らせる。


「お、おぉー! おー」


 何だよその反応。もうちょっとなんかあるだろ。


「おとなしいですね」


「あ、それ! 私も同じこと考えた!」


「私たちのしつけのたまものよ。怒ったところとか見たことないから」


「ああ、そうだな。他の犬に出くわしても吠えないし」


「散歩中に暴走することもねぇからな」


「暴走するのは夏夜でしょ」


「あ? アタシはランニングついでに散歩してるだけだっつーの」


「いつも彩夏の方が疲れてるじゃない」


 マジっすか。犬の方が先にバテるとかどんだけ底なしの体力なんだよ夏夜さん。


「で、疲れた後の彩夏の写真がこれ」


「なにこれかわいー! その写真もらっていいですか?」


 ココとわたりん、ついでにかえでがもらった写真はというと彩夏の腹を枕にして寝ている咲彩の写真らしい。一応注意書きしておくか。彩夏は犬です。シベリアンハスキーです。


「いつ撮ったんだその写真」


「いつでも撮れたわよ。しょっちゅう寝てるから」


 しょっちゅう? 何してんだよ。犬の気持ちにもなれ。いや、もう日常だから慣れたのか。


「あ、あの、この、彩夏さん、おいくつなんですか」


「おいかえで。人見知りなのは知ってるが犬に対しても発揮するなよ。犬見知りかよ」


 絶対なんかされそうな気はしていたが案の定かえでにどつかれた。犬見知りなのもそうだが彩夏さんって、犬にさんづけですか・・・。


「えーっと、つい最近5歳になったところね。それと名前からわかる通り女の子よ」


「何で俺の方向いて言うんですか」


 咲夜さんは何考えているのか。まぁいい。ずっとここで話してるのもあれだ。溢れてるやつ、いや、自ら溢れにいったやつを呼ぶか。


「あと慎、いつまで隅っこにいるんだよ。情けねぇな」


「別に情けなくていいし。嫌いなもんは嫌いなんだよ」


「そんなんでいいのか。俺たちは各々嫌いなものを克服していってるってのに」


「光ちゃん、ここでそれを出すのかよ」


「他に何出せってんだよ。今日は触るまで帰らせねぇからな」


「なんか新鮮だな。慎ちゃんがここまで言われるのとあんなに怖がってるのが」


「だろうな。こいつの欠点っていうとこれしかねぇからな。ギャップすげぇだろ」


「なぁ、みんなして俺の反応楽しんでないか」


「じゃなかったら何だってんだよ」


 新鮮に見えるのは咲彩だけではないだろう。ココやわたりん、ましてや咲夜さん夏夜さんにも見せたことがない。知ってるのは俺とかえでくらいだな。あ、でもずいぶん昔のことだからかえでは覚えてるか微妙だな。


「慎さん治ってなかったんですね。犬嫌い」


 覚えていたようだ。印象が強かったからか。まぁ俺もはっきりと覚えてるからな。


「へぇ、良い事聞いたぜ。おしっ! 慎、今から散歩行くぞ」


「い、いや、俺じゃなくても」


「アタシのスピードについて来れんのお前しかいねぇだろ。ほらリード持て。もし離したりしたらわかってるよなぁ?」


 手をゴキゴキ鳴らして、夏夜さんが一番楽しんでるな。慎を見てみろ。絶対委縮してるぞ。元ヤンの考えることは何でこうも過激なのかねぇ。慎のやつ、ご愁傷様です。

 慎の抵抗むなしく無理矢理リードを持たされて散歩・・・いや、ランニングに連れていかれた。頑張れー。適当に見送っとこ。


「さて、あの二人が帰ってくるまでの間何しましょうか?」


「あ、あの・・・いいですか」


 もういいだろ、緊張しなくても。そんなに着た着物がやばかったのか? もう着てないのに。


「外のゴール。ちょっと使わせてもらってもいいですか?」


「あ、うん、いいよ。じゃあみんなで外行きましょうか」


「ゴーゴー!」


 そうだ、庭にバスケのゴールがあったんだった。今までずっと使いたくてうずうずしてたのか。一方のココはなんかすごい乗り気だが出来ることねぇだろ。

 外、俺とわたりん、あと咲夜さんは廊下のところで座っている。そういえばもう雨あがったのか。ていうか暑い。日差しが当たる。あと2か月早くここにいたら俺絶対ここで寝てたな。

 ゴールがあるということはボールもあるということで咲夜さんのボールを渡されたかえでは完全にバスケを楽しんでいた。さっきまでの緊張はどこかに吹き飛んでいったようだ。そしてそれに加わるのが咲彩とココ。咲彩は持ち前の運動神経でかえでとシュート対決をしている。現役エースのかえでと戦えるってすごいな。そしてココはというと、ちょこちょこシュートしてはいるがシュートになっていない。「届かないよー」って泣き言言ってるから。それを見かねたかえでがココにシュートの基本を教えている。


「ここからスリーポイント勝負です」


「ああ、でもなかなか遠いな」


「え? その距離から入れられるの?」


 ココの疑問をよそにかえで、咲彩は次々とゴールを決めていく。横でわたりんと咲夜さんは拍手、そしてココは「スゴっ!」とかなんとか言っている。うん、俺もすごいと思う。かえでと渡り合える咲彩が。

 そうこうしているうちに10本目というところで咲彩が外した。


「負けた・・・」


「いや、すごいです。現役選手でも10本入れるのって大変なんですから」


「咲彩。もうお前バスケ部入れよ。シュート力といいその身長といい絶対エースになれるぞ」


「そうか? でも私よりかよ姉の方が出来るぞ」


「もうあの人は神だから。俺たちが手を伸ばすなんておこがましい」


 うん、そんな気はしていた。あ、そうだ、それなら


「ねぇねぇかえでちゃん。今度時間があるときにでも夏夜と対戦してみない?」


「対戦・・・1対1ということですか?」


「そうそう。どう?」


 俺が言おうとしていたことを咲夜さんに取られた。でもそれ結構いいアイデアだと思うぞ。だって


「いいですねそのアイデア。かえで、お前今スランプ気味だって言ってたよな? だったら夏夜さんにしごかれてみればいいんじゃねぇの?」


「それ言わなくていいし。でも場所は・・・」


「私たちの大学の体育館とかどう? 許可さえもらえばタダで使わせてもらえるから」


「え、その、い、行っていいんですか?」


「大丈夫よ。夏夜も普通に使ってるし」


「それじゃあついでにもう一人追加でお願いできないですか。同じクラスのバスケ部の人にもお願いしてるんですけど」


「もう何人でもオッケー。クラス全員連れてきてもいいよ」


「さすがにそこまではしません。えっと暇なのは金曜土曜でしたっけ?」


「そうそう。よく知ってるわね」


「自分で言ったんじゃないですか」


 ここで言ったもう一人っていうのは菊池のことだ。俺が知ってるバスケ部の一人で昨日このことをお願いした人でもある。でも菊池にSAKU-KAYOと会うことになるって言ったらどんな反応されるだろうか。とりあえず月曜日ちゃんと言おう。どっちかって言うと厄介なのは多分一緒にいる湯川の方だ。最悪ついてきそうだし。


「あの・・・今度の金曜と土曜はちょっと」


 と思ったらかえでの方から断られた。え? 金曜土曜ダメ? なんか予定あったか? 俺は何もねぇぞ。


「し、修学旅行なんです」


「え?」


 おい、初めて聞いたぞ。何で言わねぇんだよ。


「どこどこ⁉ どこ行くの⁉」


 ココの事だから絶対食いつくと思った。でも俺も気になる。

 ここで俺の修学旅行について言っておくか。行ってない、これが答えだ。理由は今何月かを考えればわかる。6月、そう、あの事件が起こった月だ。そんな事件があった中、当時の俺は行く気になんかなれるはずがなかった。クラスメイトと一緒にいたくない。行ったところで景色も何も楽しめない。だから行かなかった。別に行かなくたって卒業は出来るしな。ゆえに修学旅行でどこ行くかなんてのは知らなかった。

 だからだろう。本当だったらどこに行くはずだったのか。それがすごく気になる。


「えっと、京都奈良です」


「いいなぁ。私も行きたい!」


「じゃあ自費で行ってこい」


「光ちゃんひどい!」


 京都奈良か。俺の7年前の知識をもとに推察すると修学旅行の定番だったな。それに修学旅行で行く場所なんてそう毎年変わるわけもないだろうから俺もそこに行ってたのかもしれないのか。


「私たちも行くだろ、今年」


「え?」


 はいストップ。咲彩、今絶対言っちゃいけないこと言ったぞ。何してくれてんだよ。俺の修学旅行の楽しみが今ので二三割減ったわ。


「あのな咲彩、今のは言っちゃダメだろ。俺らの楽しみをどうしてくれるんだよ」


「あ、ああそうか。すまない」


「すまないですまねぇよ。俺たちの楽しみを返せ」


「修学旅行か。色々行ったわね。一日目は———」


「咲夜さん。俺の言ったこと聞いてました?」


 はぁ、何だろ。今年を乗り切るためのモチベーションがだいぶ減ったわ。もうこうなったらあれだ。他の行事で補うしかない。


「あ、あの! 皆さんにもお土産買ってきますので」


「うん! 楽しみにしてるよ!」


「あのな、楽しむのはかえでであって俺たちじゃねぇだろ。俺たちのことは頭の片隅にでも置いとけ」


「わかった。お兄ちゃんのことだけ忘れて楽しむ」


 ひどっ! そして皆さんして笑わないで。俺結構傷ついたよ。まぁでもわからなくもない。俺毎日迷惑かけてるからなぁ。修学旅行中だけでも忘れて楽しんでもらえればいい。うん、そうしておこう。あ、でもそうしたらかえでがいない間俺と母親二人きりになるのか。うわ、めっちゃ嫌だ。こうなったらあれだ。その間慎の家に行こうかなぁ。そういえば慎のやつ今頃どうなってるだろうか。

 そのあとしばらくはバスケのシュートを楽しんでいた一行だった。でもその中に突然割って入ってきたのは


「お? いいもんやってんじゃねぇか。アタシも混ぜろよ」


 夏夜さんが来た。散歩帰りでしょ? 疲れてないの?


「光ちゃん・・・。俺には無理だ・・・」


 慎も来た。なんか死にそうな声だな。


「お前のその声はどこから来てんだよ。犬が怖いからか? それとも散歩が疲れたからか?」


「どっちもだ・・・。いつ飛び込んでくるかわからないからそれに神経尖らせながらランニングとか疲れるからな・・・。あとペースが速い・・・」


 かすれた声で本当に死にそうだな。大丈夫か? それにしても久しぶりだな、慎がこんなに疲れてるの。体力とかクラスでもトップクラスなのに。あ、これシャトルランやった結果からな。あ、でも夏夜さんの場合はシャトルラン時間内に終わらなかったって言ってたな。うん、やっぱり夏夜さんがおかしいんだな。今も目の前でかえでや咲彩とバスケのシュートしてるし。


「彩夏もお疲れー」


 そう言って咲夜さんは彩夏を撫でる。何か彩夏も若干過呼吸気味じゃねぇか? まぁ散歩帰りということもあってだろう。行く前よりも呼吸数が明らかに増えている。それなのに夏夜さんは・・・。以前言っていた勝負で負けなしって言うのはあながち間違いではないのかもしれない。もうむちゃくちゃだよ。

 その後まぁわかるでしょう。スリーポイント勝負になったわけだがなぜか夏夜さんが勝った。そう、なぜか。意味が分からない。何で現役バリバリのかえでに勝つんだよ。しかも夏夜さんバスケ部じゃなかっただろ。勝った夏夜さんはめっちゃ喜んでいたがかえでの方はというと多分初めて個人で負けたのでなんか自信なくしてる。いや、ここはかえでを擁護するけどかえでも十分すごいからな。夏夜さんがおかしいだけ。


× × ×


 で、諸々のことがあったのち、俺らは帰宅することとなった。いや、今日土曜だよな? なんか平日と変わらない気がするんだが。かえで曰くもう辺りはかなり暗くなっているようだ。まぁ奈々の病院行ったのが午後だったからな。で、その後本田家のセカンドハウス。病院の後が長かった。そんなにいらなかったよ。病院行ったときの余韻に浸らせてくれよ。


「そういえばかえでちゃん、何で奈々ちゃんが妹になるの受け入れたの?」


「そ、それは・・・言いません!」


 慎が聞こうとしてもこんな感じではぐらかされる。そして俺もわかっていない。どういう心境の変化があったんだ?


「まぁ詳しく聞くつもりはなかったけどな。俺は奈々ちゃんがどうなったとしてもあまり気にしなかったな。だってよ、かえでちゃんは光ちゃんと違って真面目で優しいからな」


「お前、今自分が何言ったかわかってるか?」


「わかってるって。それに事実じゃんよ。光ちゃんのひねくれ具合とかよ」


「まぁ否定はしねぇけどよ」


「自覚してんならちょっとは直そうとしないのか?」


「直す? 何を? どうやって? そんなことしたら俺が俺じゃなくなるぞ」


「まぁそれが光ちゃんの特徴でもあるからなぁ。じゃああれだ。一日くらい性格変えてみろよ」


「は? 何でそんなことしなきゃなんねぇんだよ」


「面白そうだからに決まってんだろ。それに、もしそうしたときのみんなの反応が楽しみだからってのもあるな」


「そんなことしたらまた保健室に連れていかれるぞ。そして今度こそあの先生に怒られる」


「かえでちゃんはどう思う?」


「え、あ、はい。お兄ちゃんの性格を変える・・・。・・・う、今想像しましたけどちょっと気持ち悪いのでやめてほしいです」


「だと。俺は自分から気持ち悪くなるようなことはしたくねぇよ」


「でも面白そうではありますので明日ちょっとしつけてみます」


「やめろ。ていうかしつけるって言うな。俺は犬じゃねぇよ」


「あははっ。ともう家か。じゃあな、月曜楽しみにしてるからよ」


「するな。帰れ帰れ」「はい、また」


 まったく、唐突に変なこと提案してくるからな・・・。でもあれだな、さっきは嫌だって言ったけど反応が楽しなのは俺も同じだ。でもこれを検証するには俺が自分のプライドを犠牲にする必要がある。確実に変な目で見られるからそれを気にしない勇気も。あれ? でも俺目見えないからそれ気にしなくていいな。視線を感じなければいいか。


「ねぇお兄ちゃん」


「あ?」


「その・・・奈々さんと、つ、付き合わないことにしたけど、それでいいの?」


「今更だな。双方合意のもとだからいいんだよ。それに、俺が付き合わねぇことにした理由はあの時言ったはずだ。あとついでに言うと、恋人としての付き合いはないが親友として、義妹? としての付き合いならあるだろ」


「・・・やっぱり義妹って気に入らない」


「あくまでそういうキャラ付けってだけだからな。文書とかそういう正式な取り決めするわけじゃないからな。だからあまり深く考えんなよ」


「あっそ」


 でもそれらも今は、そしてしばらくはだ。しばらくの先に何があるかは俺もわからない。それこそ本当に付き合うことになるのか。それともずっとこのままなのか。まぁどっちにしても俺は奈々がしたいようにすればいい。俺はそれを受け入れる。とりあえず、今しばらくは奈々に自由を体験させる方向で。時間はある。今すぐ決めることじゃない。さてと、サプライズが終わった。はぁ、現実に向き合うか。合唱コンクール、嫌だなぁ。かえでの修学旅行、その間だけ時間の進み3倍速くらいになってくれないかなぁ。

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