合唱コンクールに向けて
合唱コンクールに向けて - 79日目 -
昨日のことがあったから話しかけづらい。特にわたりん。どうしよ・・・完全に言いすぎたよな。絶対怒ってるよな。昨日は丸く収めてくれたけど一夜過ぎて心境の変化とか起きてるかもしれないしな。
「おはようございます!」
雨の中いつもの迎えがあった。その中には
「きのうありがと。わたしがんばる」
わたりんもいた。よかった。怒ってなさそう。いや待て、もしかしたら今はみんなの前だという手前、そう見せていないだけかもしれない。この後呼び出されて仕返しされるかも・・・
× × ×
朝の会で早川先生から合唱コンクールについての話が切り出された。
「本当は放課後に決めるつもりだったんだけどよ。まぁ一応現時点での希望を聞くってことではいじゃあ指揮者希望の人挙手ー」
まぁ進んでやろうって人はいないわな。ただの一人を除いては
「はい」
耳が聞こえない分タイムラグはあったが一人、わたりんだけが挙手した。
「はい他にやりたいやつは・・・いないな。はいじゃあ渡に決定」
と同時に拍手が起きた。俺も拍手しておこう。とはいえ、わたりんが指揮者に決まったのに誰も何も言ってこない。やはり全員参加って言われたからみんなもわかっているのだろう。最も最適な参加の仕方を。本当に全員わかっているのかは置いといて。でも問題はまだある。指揮者がわたりんに決まったのなら当然、わたりんの指揮に対応できる伴奏者が必要だ。これは難しいだろうな。そもそもピアノ誰が出来るの?
「次は伴奏者だな。まず大前提としてピアノ出来るやつにしてくれよな。てなわけで伴奏希望の人挙手ー」
誰の手が挙がるんだ? そもそもこの場で決まるのか? と思ったら
「はい」
手が挙がった。あれ? 嘘だろ? この声は聞き慣れている。
「はい他にやりたいやつは・・・いないな。はいじゃあ尾鷲に決定」
また拍手が起きた。いや、俺としては気になる点が多すぎるんだが。え? 尾鷲ってピアノ弾けるの? だとしたら何で吹部じゃないの?
指揮者伴奏者が決まって休み時間になった。
「ふららんってピアノ弾けたの⁉」
真っ先にココからその質問が飛び出した。俺も同じこと思ったよ。
「あー。まぁ。これでも中学まで吹奏楽部だったし」
「じゃあ何で高校で茶道に転職したんだよ」
「吹奏楽だからってピアノが弾けるわけじゃないってことに気づいたから」
「そうだね。大体は管楽器だからね」
なるほどね。確かにピアノ弾けるとはいえ、吹奏楽ではそれが活かせなかったからか。実際に今も入っている和田から言われると説得力がある。
「じゃあふららんは今もピアノやってんのか?」
「うん。家にピアノある。あと土日はピアノ教室に行ってる」
「ガチじゃねぇか。まぁでも今回はそれが功を奏したってわけか」
「ふららんすごーい!」
「そうよ! ふららんはすごいのよ!」
この分ならわたりんとの連携に関しては心配なさそうだ。何で佳那が威張ってんだよ。尾鷲は佳那の物じゃねぇぞ。
「ふららん。よろしく」
「ああ、こちらこそよろしく」
でも尾鷲が伴奏者だとしたら昨日の会話に戻ってみよう。完全に慰める方と叱咤する方で二分してたよな。それで尾鷲は俺サイドについていた。てことはもうこの時点で伴奏者になるってことを決めていたのか? そしてわたりんが指揮者として参加することも見越して。だとしたらなかなか出来るな。
「あと選曲についてだが私に候補がある。ただ・・・」
「ただ?」
「この曲は指揮するのが難しい。それでも大丈夫か?」
普通の人でも難しい指揮を耳が聞こえないわたりんがやる。何倍も難しそうだな。
「うん! がんばる!」
でもわたりんはやる気なようだ。だとしたら俺たちも頑張んねぇとな。
× × ×
放課後、今日は水曜日ということもありいつもより1時間早く終わる。でも今日からはどのクラスも合唱コンクールに向けた練習が始まる。もう2週間後か。早いような遅いような。
「えーっと・・・まだ決まってねぇのは曲か。誰か候補のあるやつはいるか?」
「では私からいいですか?」
「おー、もうCDまで準備してんのか。じゃあラジカセにセットするからちょっと待ってな」
「あとわたりんにはこれを」
多分歌詞を渡したのだろう。準備すると言って少し、曲が流れ始めた。とりあえず最初から最後までちゃんと聞こう。
聞き終わったあと
「曲名は
「確かにな。ここ数年はなかったな。でもなんでこの曲に?」
「歌詞が私たちに合っているからです」
「なるほどねぇ・・・。異論のある人ー?」
「はい。異論っていうか質問なんですけど、この曲を指揮すること出来るんですか? あと歌えるんですか?」
この質問したのは湯川だな。具体的に誰とはあげていないが・・・でももうほぼ言ってるようなものじゃん。
「それは本人次第ってとこだな。俺に質問することじゃねぇと思うぞ」
「じゃあどうなの?」
「・・・がんばる」
「頑張って何とかなるもんなの?」
「なっとかする!」
「あんたは?」
やっぱり湯川当たり強いな。でもわたりんも屈していない。わたりんの覚悟がわかった。どうやらもう怖いとは思っていないようだ。いや、多分まだ怖いんだろうとは思うんだがそれを上書きするほどの熱意を感じる。
「矢島ー、指名されてるぞー」
「あ? 俺だったんですか?」
「あんた以外に誰がいんのよ! 鈍すぎじゃないの?」
よかった、席遠くて。近かったら絶対叩かれてたよな。ていうかみんないる前でもこの態度ですか。勘弁してくれよ。せめて家庭科の時だけにしてくれよ。
「頑張る。何とかする。これしか言うことねぇよ」
「だそうだ。だから喧嘩すんなよ」
早川先生が未然に防いでくれた。ん? あれ? 俺と湯川がいつも仲悪そうにしてるの言ったっけ? 何で知ってんの? おい誰だ、早川先生にチクったの。
「そんなわけでこの曲で異論ある人ー・・・いねぇようだな。じゃあ
また拍手が起きる。この曲をわたりんが指揮して尾鷲が伴奏する。まぁ何とかなるだろ。
「でなわけで今からちょっくら職員室行ってこの楽譜印刷してくるからそれまでにパートリーダーとか誰がどのパートやるか決めとけなー。ここからは佐藤よろしくー」
あ、まだそれが残ってた。パートリーダー、男声は男性だよな。女声はソプラノとアルト? それぞれ決めるの?
「女声パートについては尾鷲さんお願いできるかな」
「ああ、問題ない」
尾鷲なら多分大丈夫だろ。問題は男声パートだ。これは俺の勝手な偏見かもしれないが合唱コンクールは男子と女子でやる気に明確な差がある気がする。女子は率先してやる人が多いけど男子はやらされてる感がある。それがやる気の差を生んでいる。そこでその差を少しでも縮めようと奮闘するのがパートリーダーなわけだが。まず音楽の知識がなきゃダメだよな。でもこのクラスには吹部の男子もいなければ合唱部の男子もいないし軽音、バンド同好会もいない。音楽ド素人連中の集まりだ。しかもこのクラスの紹介をずいぶん前にしたからわかっているとは思うが、この癖強連中を束ねられるやつなんてそういねぇぞ。
「男声パートはどうしようか・・・音楽の知識ある人とかがついてくれるとありがたいんだけど」
「うち、あるよ」
和田か。まぁ吹部に入っている分あるとは思うが何だろう。断れない性格な分リーダーって役職に向いてない気がする。それに
「ちょっと待って。和田さんにはわたりんについてほしい。私は伴奏とパートリーダーを請け負っているから指揮まで手が回りそうにない」
「わかったー」
尾鷲の言う通りだ。わたりんに指揮を教えなきゃならない。これは音楽の知識がないと絶対に教えられない。ということで和田という線は消えた。
「はい! 私やる!」
「いや、お前だけは絶対にない。音楽知ってんのか?」
「ひどい! 音楽くらい知ってるよ! みんなも頷かないで!」
ココは絶対にない。これは言い切れる。なぜか、楽譜読めてなかったし。音楽の授業を共にしている人たちならよくわかっているだろう。何でココは音楽を選んだのだろうか? でも音痴ではない。感覚で歌ってるような感じだ。それなのに指導? 無理無理。ということでココという線も消えた。
「まな・・・やるよ」
「まな? 誰? いてっ!」
「橋倉さんだよ! 忘れちゃったの⁉」
ああ橋倉か。下の名前で呼ばれるとまだわからん。でも声聞いてわかった。特徴的な声してたしな。
「えーっと・・・橋倉さんは教えられるの?」
「うん。よく歌ってるし」
「歌ってる?」
「もしかして・・・ちょっと待って・・・あああった。このまーなチャンネルって」
「ぎゃあああ開かないで聞かないで見せないで!」
もう手遅れだよ。公開処刑されたな。尾鷲よくやった。ていうかよく知ってたなそのまーなチャンネルって。あ? ma-naちゃんねるだって? 細かいこと気にすんなよ。読み方変わんねぇんだし。
その動画は全員のいる前で流されて返ってきたのは
「えちょっと待って⁉ すごいよ! 歌手なれるよ!」
「ああ、登録者もかなり多いみたいだし」
「マナもう死にたい・・・」
ココと尾鷲を筆頭に絶賛する声と橋倉の泣き崩れる声だった。でも普通にうまかったぞ。オーディションとか出ればいいところまで行きそうな気がするんだが。
「もしよかったらだけどお願いできないかな?」
「ぐすっ・・・はい」
なんか橋倉がものすごくかわいそうなんだが。これあれだよな? 口外するなってやつだよな? ここにいる連中口軽いやつばっかだな。ああ、終わったな。でもこれだけは言っておくぞ。俺は悪くないからな。今回はマジで無関係だからな。
「よーし、楽譜回すからよく見とけよー。パートリーダーは決まったか?」
「はい、女声パートは尾鷲さん、男声パートは橋倉さんに決まりました」
「そうか。じゃあ今から2週間、短いとは思うがな、各々やれる全力を尽くせ。以上」
「はい!」
こうして合唱コンクールの練習が始まった。とはいえ今日はひたすら聞いて頭の中に叩き込めって感じだったが。
× × ×
放課後、いや、厳密には練習後。部活に行く連中がいる一方
「それじゃあ奈々ちゃんのところにレッツゴー!」
浮かれてる人が一人。言うまでもなくココだが。そんなココの後を俺とわたりんがついていく。途中葵とも合流して行くことになった。茶道部三人はまぁ部活あるしな。それと尾鷲はさっき指名されたパートリーダーの橋倉といろいろつめていた。急に忙しくなったな。今までずっとけだるそうにしてるか俺たちの発言聞いて噴いてるかしかしてなかったのに。あ、そうだ。ちょっと聞いとこう。
「なぁ、橋倉って何部だ?」
「えーっと確か・・・バンド同好会だったはず」
「趣味を部活にしてんのか。まぁいいが」
「橋倉・・・あー! あの声が特徴的な人か! え? でもなんで突然その話に?」
「合唱コンクールであいつが男声パートのパートリーダーになったんだよ」
「ちゃんとした理由あったのね」
「理由もなく聞くわけねぇだろ」
ん? バンドだとしたら何かしら楽器出来るのか? ギターとか出来たらすごいな。
「あそうそう! アオも聞いてみてよこれこれ!」
「なになに? ma-naちゃんねる?」
「これ橋倉さんがアップしてるんだよ!」
「なぁ、それ言っていいのかよ。教室で全員にバレて泣き崩れてたのに」
「これあれよね。裏の顔ってやつなんじゃない? まぁ聞くけど」
「聞くんかい。俺にも聞かせろ」
人のこと言えねぇじゃねぇかという文句は受け付けません。だって最初聞いた時も普通にうまいなって思ったし。これならあれだよ、アニメ声優とか2.5次元アイドルとか出来るよ。今思ったけど2.5次元って何? 例によってアニメ好きなやつらから聞いたんだが2次元と3次元の間って何があるの? さっぱりわからん。
ココの携帯から垂れ流し状態になって聞くことになった。あれ? 弾き語り?
「嘘⁉ 橋倉さんってギター弾けるの⁉」
「ていうかギター持ってるの⁉ 歌もうまいし!」
「外野がうるさくて何も聞こえねぇ」
断片的にしか聞こえなかったがとりあえずギター弾けて歌うまいってことはわかった。これあれだな。多分文化祭とかで披露することになるだろうな。その時に改めて聞くか。
聞きながら待っているとアオママの車が来たので乗り込む。まぁ今日も人数少ないしな。わたりんが増えたくらいだ。あ、
「さっきから音楽の話ばっかしてるがわたりんは聞こえねぇんだぞ。いくらなんでも悪いだろ」
「あ、ごめん」
そうだよ。すぐ隣にわたりんがいるのに完全にこっち三人だけで話を進めていた。これはあれだ、みんなが写真とか画像見ているときに俺一人見れずに置いてかれるときに近い。
「だいじょぶ。きこえあくてもみれう」
「でもわたりんのこと考えるべきだった」
「俺には全く言わねぇくせに」
「光ちゃんは・・・なんかどうでもいい感じ」
「ひっでぇ。アオママさん。娘さんになんか言ってやってくださいよ」
「光ちゃん、あとで覚悟しといてよ」
「アハハッ! ちゃんと青春してるわね。羨ましい」
「ママ! どこが羨ましいの!」
「一年の時と比べてみればわかるわよ。変わったでしょ」
「うぅ・・・」
ナイスアオママ。絶対恥ずかしがって下向いてるな。矛先が俺からアオママに向いてよかった。「はい! 青春してます!」って遠慮なく言えるココはすごいな。結構恥ずかしい事なのに。ちゃっかり写真撮ってるし。葵は気づいてなさそうだ。
病院に着くと今度はアオママもついてくるようだ。さっき葵に言ってやったから仕返し的な意味でついてくることになった。これ仕返しなのか?
「わたりん、今日はお前から行け。奈々も会いたがってるだろうしな」
「いいの?」
「俺たちはもう一回会ってるから大丈夫だ。そこでの時間差は微々たるものだ。そんな気にすることねぇよ」
「え? どういうこと?」
「ちょっとココ黙ってろ」
せっかく良い事言ったのにココのせいで台無しにされた。見えてたら口塞いでやりたい。
そして病室に入って行く。
「わ、わたりんさん・・・」
「ななちゃん・・・」
少しの間二人にしてやるか。
「ちょっと待て」
「え? 何⁉ いきなり掴んできて⁉」
「大きな声出すな。少しの間二人だけにしてやれ」
「確かにそのほうがいいかも」
「う、うん。わかった」
わたりんが出てくるまで病室の外で待機。何か傍から見ると変な光景だな。まぁいいや。俺見えねぇし。
少しするとわたりんが来た。
「みんなはいらないの?」
「は、入る入る! ななちゃーん!」
「ココさん、アオさん、光ちゃん先輩・・・」
「また泣くのかよ。一昨日会ったばっかじゃねぇか」
「いえ、会えるだけでうれしいですから」
「今のは光ちゃんが悪い」
うん、俺も思った。不躾な物言いだった。悪かったって言っとこう。
「わたりんさん、お体は大丈夫ですか?」
「うん。ななちゃんは?」
「私はこの通り・・・元気そうに見えないですね。でも元気です!」
声聞いてるだけでもわかる。元気そうだ。
「そういえば今日少し遅かったように感じましたけど・・・」
「ああそれか。合唱コンクールの練習が始まったんだよ」
「合唱コンクール・・・え? あるんですか⁉」
「あるよ! なんかおっきいステージのところ行って歌うんだよ!」
「おっきいステージだけじゃわかんねぇよ」
「えーっと、ここだ。ここにみんな行って歌うの」
「立派なところですね。私も行きたかったです。あ、すみません。お二人がいる前で」
やっぱり合唱コンクールになると俺やわたりんに気を遣うんだな。でもその心配はいらない。
「ううん、わたしもえるから」
「俺も出るぞ」
「え? お二人とも出るんですか? その・・・失礼かもしれないですけど、どのようにして出るんですか?」
「俺は歌うぞ。楽譜は聞いて暗記だ」
「しきしゃです!」
「本当ですか⁉ 見えないのに歌う。聞こえないのに指揮者。すごいです! 尊敬します!」
「ちなみに私は伴奏者よ」
「アオさんもですか⁉ 皆さんすごすぎです!」
まぁここ三人がすごい・・・俺がすごいのかは置いといてわたりんと葵はすごいと思う。特にわたりんは絶対出来ないって思われていることをやるんだ。固定概念を覆す。これほどすごいことはなかなかない。俺がテスト受けるとか球技大会に出ることと同じくらいに。これは自慢じゃないです。だってどっちも固定概念覆したって言えるだろ。でも大きな違いといえば強制か任意かの違いだ。俺は強制だったのに・・・。言ってやったとはいえ、わたりんがやる気になったことは素直にすごいと思う。俺なんか遠く及ばない。
「何か私だけ一人って感じが・・・」
あ、ココもいた。確かに完全に孤立したな。
「あ、えーっとココさんもすごいです! その・・・いろいろと!」
苦しい! いくらなんでも苦しすぎる。これはいくら何でも・・・
「そうでしょ! 私だってすごいんだから!」
ココは単純だった。とりあえず褒めておけばココの機嫌は直る。今度から何かあったらとりあえず褒めとこうか。
「私も出たかったです」
「大丈夫! 来年もあるから!」
「ただ歌いたいんなら文化祭があるしな」
「いやそういうことじゃないでしょ・・・」
「わかってるわ。それによ、合唱コンクールに限らず、これから色々楽しめるんだからいいじゃねぇか」
「はい! 全力で楽しみます! そのためにもリハビリ頑張ります!」
「もう始まってるの?」
「はい。まだ歩行は厳しいですが腕を使ったリハビリとかはやり始めてます。あとはこの傷次第です」
「まぁ無理せず頑張れ」
「はい! ありがとうございます!」
「ねぇ光ちゃん。日に一回奈々ちゃんを撫でるのは何で?」
あ、無意識にまたやってた。何だろう、奈々を前にするといつもこうしてしまう。って言い訳葵にはどうせ通じないだろうしなぁ。
「・・・癖だ」
「癖で頭撫でるって意味わかんないんだけど」
「わ、私は嬉しいです! その・・・もしよければもうちょっと」
ほら、奈々もいいって言ってるんだからいいじゃん。・・・なんか横から変な視線を感じる。絶対にココとわたりんだよな? 羨ましいのか? 撫でるくらいならいくらでもしてやるがそれしたときの周りの視線が冷たいからあまりやりたくない。
「はいもうその辺にしといて。でもそっか、合唱の練習が始まっちゃったからここに来るのが厳しくなっちゃうかもしれないか」
葵に手を外された。確かに毎日1時間やったとしたら7限まであるときなんか17時過ぎまで教室にいることになるんだよな。あれ? ここの面会時間って何時までだったか・・・。どう考えても過ぎることだけはわかる。
「あ、大丈夫です。その、皆さんの方を優先してもらえれば」
「まぁそうするしかねぇわな。あ、でも今来てねぇやつらはどっかの段階で絶対連れてくるからな」
「いつでも構いません。私が退院してからでも大丈夫です」
慎とかはそれでもいいって言いそうだな。まぁあいつらはあいつらで部活あるしな。強要できないってのが正直なところだ。俺ばっか強要されといて皆さんは自由ですか。まぁいいけど。
「じゃああれだ。土日は来れるのか?」
「日曜は無理ですけど土曜は・・・家族と許可をもらった人なら」
「じゃあ今度の土曜大所帯で来てやるよ。ていうかそこしかない」
「え? えー⁉」
何でココが驚いてるんだよ。別に暇だろ。
「えーじゃねぇ。決まりだ。てなわけで帰るか。じゃあ次会うのは土曜だな」
「え、あ、はい。では土曜日に」
「あ、土曜。もしかしたらなにかあるかもしれねぇから。驚きすぎねぇようにしとけよ」
「はい? わかりました」
はい撤収。葵やココ、わたりんもわけわかんないままだがとりあえず退席させる。理由はちゃんと説明するから。
病室から出てちょっとした休憩スペース? コミュニティスペース? 何でもいいや。そこに行くとアオママと奈々ママが話していた。
「あ、もういいの?」
「ええ」
「ねぇ説明してよ。何で無理矢理部屋から出てきたわけ?」
若干怒り気味の葵から手が出てこないように説明しよう。
「少し前にある人にある約束を取り付けた。いや、られたんだな」
今ので葵はわかるはずだ。その場にいたしな。一方でわかっていない他の人たちに説明しよう。でも土曜のことはあげないようにしつつ。
「奈々がSAKU-KAYOファンってのは本当ですか?」
「うん。私に雑誌買ってって言ってますから」
「なんか恥ずかしいこと聞かされた気がしますがいいです。俺の提案は本人に会わせるってものです」
「え? 本人って・・・会えるんですか?」
「ええ、会えますよ。知り合いにあの二人の妹さんがいますから。それに俺を含めた三人は一度会っていますから」
ここで三人と言ったのは葵が会ってないってことになっているからだ。これ隠し通すのなかなか大変だな。
「それに俺たちの情報では金曜土曜は暇しているみたいなので言えば来ると思います。ついでに・・・やっぱり言いたくない」
「光ちゃんはSAKU-KAYOのお二人の電話番号を持っています。ですのでいつでも連絡取れます。よってサプライズも可能だということです」
言いたくなかったのに葵に言われた。まぁそういうことよ。あの二人の連絡先知ってるってあまり口外したくなかったんだけどな。
「ただ覚悟してもらいたいのは・・・あの二人は普通じゃないです。色んな意味で。インパクト大きすぎてってことにならないかが心配なんですけど」
「そんなにすごいんですか?」
声をあげて頷く。ココとわたりんも声をあげて頷いている。葵も多分同じこと考えているだろう。
「てなわけで、そのサプライズを土曜に決行したいと思いますのでその件、医者でも看護師でもいいので伝えていただけるとありがたいです。あ、それと今ここにいない連中を後何人だ? 五六人? 連れてくると思うのでそっちもお願いします」
「わかりました。私も会ってみたいですね」
「多分概念覆りますよ」
「そういえば私も会ったことなかったわ。今の聞いてると私も会いたくなってきた」
あの二人は舐めない方がいい。もう4回会っている俺が保証する。もう4回も会ってたのか。いつの間にそんなずぶずぶに・・・
「じゃあよろしくお願いします。俺たちはもう帰ります。くれぐれもサプライズなので」
「はい、わかりました。楽しみにしています」
そう言って病院を後にする。ほとんど話に入ってこなかったがココとわたりんも納得しているだろう。
アオママの車中
「ねぇ光ちゃん。さっきの話、いつから考えてたの?」
当然聞かれますよね。ただ聞かれたのは葵から。いつから考えてたかというと
「奈々がファンって公言した辺りで何とかなんねぇかは考えてたな。それであの二人にも約束取り付けられたし土曜行けるってなったらそこしかねぇだろ」
「光ちゃんすごーい! そんなこと考えられるなんて!」
「おい、今馬鹿にしなかったか?」
「してないよ!」
完全に馬鹿にされてたよな? 言い方が悪いんだよ。まぁココの語彙力ならしょうがないってのもある。
「やっぱり光ちゃんって見えてないだけで実は頭いいでしょ」
「今のは絶対馬鹿にしたな。まぁいいや」
馬鹿にされるのはもう慣れてるから特に言い返そうという気は起きない。それよりも、あの二人がいるのがすごく懸念材料ではあるが言うとしたらそこしかないよな。まぁ全員の前でバラされたわけだし。今後どうするかについても言う必要あるよな。もしなんかあったら慎に助け舟頼もう。
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