日常? ハプニング? - 73日目 -

 今日も雨、ということで昨日もらった靴が早速役に立つ時が来た。早速履いていこう。でもその効果が発揮されるのは放課後だ。もう朝から歩くのはしばらくごめんだからな。


 これといったこともなく普通に昼を迎えた。アトリウムで昼を食べていると


「きゃああああ!」


 何だよ。たまには静かに昼くらい食わせろよ。


「あ、あ、あいつが・・・。むりむりむり! 誰か!」


「うるせぇぞ葵。ていうかあいつって誰だよ」


「ぎゃああああ! ゴキブリー!」


 今度はココだ。ゴキブリ? まぁいるだろうな。吹き抜けだし。


「ゴキ⁉ ちょっと待って私も無理!」


 佳那も一目散に逃げて行った。あれ? ほかにもいないやつがいるな。わたりんと佐藤はどこ行った? あの二人も逃げたな。声聞こえないし。


「俺逃げられねぇのによ」


「皆さんしてゴキブリくらいで騒ぎすぎですよ」


「ひなっちとふららんすごいな。あいつ相手にひるまないなんて」


「だって逃げてもどうにもならないし」


 この場にいるのは俺と慎、あとは雛と尾鷲。俺と慎がいるのはまぁいいとしてゴキブリ耐性が雛と尾鷲にもあるのは驚きだ。一目散に逃げて行ったやつを見てみろ。遠くで「早く捕まえて!」とか「みんなも逃げて!」とか「人類の敵!」とか口々に言っている。


「ひなっち。どうする? あそこにいるのはわかってるけどよ」


「そうですね・・・。殺虫スプレーなんて都合のいい物はありませんよね・・・。矢島さん、ノート貸してもらえますか?」


「おい、まさか俺のノートで潰す気じゃねぇだろうな? 冗談じゃねぇよ。だったら上履きで踏んづけた方がマシだ」


「どちらもそんなに変わらないと思いますけど」


 いや変わるぞ。ゴキブリ潰したノートとか絶対使いたくねぇよ。上履きは・・・仕方ないからまた履くけどな。


「じゃあ光ちゃんの上履きでズバンと?」


「光ちゃん上履き貸して」


「自分のやつでやれよ」


「俺は嫌だからな。てことでほら」


 慎に無理矢理右足側を脱がされた。もうこれ完全に身動き取れないじゃん。やつ来たら逃げられないよ。


「三方向から追い込みましょう。そして出てきたところを瀬戸さんがやってください」


「オッケー」


 頑張ってー。本当だったら俺も加勢したいけど目標見えないからなぁ。無差別攻撃していいんなら話は別だけど。


「取り逃したらタダじゃおかないからね!」


「お願いだから絶対やっつけてー!」


「そうよ! 光ちゃんもしっかりしてよね!」


 くそ、外野うるさいな。めちゃくちゃ遠くからいろいろ言いやがって。


「うるせぇよ! こっちは命がけでやつを退治してんだよ! 文句注文言うくらいならお前らでやれ!」


「やるわけないでしょ! あんなの姿も見たくない!」


「そうよ! ひなもやってるんだから光ちゃんもやりなさいよ!」


「光ちゃん! やればできる!」


 めちゃくちゃ腹立つな。もうこの場から離れて退治やめようかな。


「まずい! 光ちゃん! そっち行った!」


「あ?」


「ぎゃああああ!」


 遠くの叫び声は置いといてこっち来たって言ってもどうするんだよ。ジャンプすればいいのか? 避ければいいのか? ああわかんねぇ!


「ハイタッチ! 私の勝ちー!」


「は?」「あ」


 いろいろ考えていたら聞きなじみのある場違いな声がした。それと同時に肩を叩かれて、あと聞いちゃいけない音がした。


「ふふーん! だるまさんが転んだは私結構強いんだよー!」


「え?」


 全く状況が飲み込めない。ただわかるのは声の主がたんぽぽ先輩ということくらい。


「あれー? みんなどうしたのー? そんなに青ざめた顔してー?」


「・・・佐倉先輩。すみません、ちょっと上履き脱いでください」


「えー? どうしたのー?」


「聞かないでくれると嬉しいです。とにかく上履きを脱いでください。あと絶対下を向かないようにお願いします」


 慎とたんぽぽ先輩のやり取りで大体察した。・・・これどうしたらいいんだろう。本当の事言った方がいいんじゃないの?


「はい!」


「すみません。ちょっとお借りします」


「あー待ってー!」


 そう言うとたんぽぽ先輩と雛が離れて行く。その隙に慎と尾鷲は片づけをしている。遠くの人たちはずっとだんまりだな。


「・・・タイミング最高だったなたんぽぽ先輩」


「ああ。俺ちょっと肝冷えたわ」


「私もあれはちょっと笑えなかった」


「言っちゃ悪いが聞こえたぞ。ゴキブリの断末魔。サクッて音」


「うわっ・・・聞きたくないなその音」


 俺も聞きたくなかった。でもしょうがない。で、今聞こえているのはたんぽぽ先輩の断末魔。向こうで悲鳴上げてるな。


「・・・ねぇ。聞きたくないんだけどどうなったの?」


 ずっとだんまりだった葵たちもこっちに来たのか。


「私たちのやってることをだるまさんが転んだと勘違いした佐倉先輩がちょうどよく来たあいつを踏みつけた」


「・・・」


 尾鷲の説明を聞いてまただんまりだ。そらそんな反応になるよ。ミラクルと言ったらいいのか。たんぽぽ先輩も下見てれば踏まなかっただろうに。犬の糞踏むのと同じくらい嫌だぞ。まぁでもとりあえず、俺の上履きは無事だったってことで。


「上履きびしょびしょだよー!」


 洗ったのか。でもこればかりはほんとどうしようもないと思う。ていうか雛のやつよく洗えたな。


「で、俺たちに何の用ですか? まさか用もなくただゴキブリを踏むためだけに来たってわけじゃないですよね?」


「光ちゃん、踏んだのはたまたまだからな」


 たまたまにしては出来すぎてる気がするのだが。隣に小林先生とかいたら大爆笑してそうだ。


「あー! アオちゃんと慎君にちょっとねー。今日は生徒会の集まりないですよーって言いたかったのー。それなのに・・・」


「災難でしたね。ですがわかりました」


 ほんとにそうだな。星座占いとか絶対たんぽぽ先輩最下位だったと思う。いや、最下位でもこんなこと起こらないか。よっぽどだな。


「うーん、こっちの靴下脱いで履こうー。じゃあね・・・」


 テンション低い。たんぽぽ先輩らしくない。ここはお辞儀でもしておくか。お疲れ様です。


× × ×


「・・・そんなことがあったのか」


 昼に起きたことを咲彩に話したところ、こんな反応が返ってきた。今日は生徒会の集まりがないということでまぁぎゅうぎゅうですよね。うちは。


「ねぇ聞きたいんだけど。なんであいつ見ても平気だったの? ちょっと考えられないんだけど」


「ずいぶん機嫌悪そうだな。そんなに嫌なのか?」


「嫌に決まってるでしょ。虫全部ダメだって言ったのによりによってあいつが出てくるなんて。まさかこのうちにもいないわよね?」


 昼の一件があってから葵はずっとこんな調子だ。機嫌が悪くなっておまけに警戒心もめちゃくちゃ強くなっている。ちょっとした物音一つでもでもあっちこっち振り向くような状態だ。


「いねぇよ。ゴキブリ―――」


「その名前で呼ばないで!」


「ああめんどくせぇ。あいつは母親やかえでもダメだから定期的にあの・・・なんだっけ? 部屋閉めてブシャーってやるやつ? それをやってるから」


「ほんと? ほんとに? ほんとなの?」


 ココもうるさい。いつもそうだがいつも以上にうるさい。どうやらゴキブリショックは予想以上に大きかったようだ。もう適当に頷いとこ。


「で、話を戻すけどな。俺と光ちゃんは小さいときからあっちこっち行っては虫取りを繰り返していたからな。そういうのには耐性があるんだよ」


「何であんなやつら取ろうとするの・・・。意味わかんない」


 おい当たり強いぞ。なんか今日の葵は話にならなそうだ。虫取りなんて小さいとき誰もが経験してると思うが。何でそこまで虫嫌ってるんだよ。そんなことならこれからがピークなのに生きていけないぞ。


「雛はうちが田舎だからですかね。周りが林なので閉め切っていてもよく虫入って来るんですよ」


「嘘でしょ。そんなうち私だったら引っ越すか家出する」


「アオさん。今までで一番辛辣ですね。まさかアオさんからそんな言葉が飛び出すとは」


 雛に対しても容赦ない。でもそうか、田舎か。面白半分で聞いてみるか。


「田舎ってことはあれか? 鶏でも飼ってんのか?」


「おや、ここにも虫がいるようですね。誰か殺虫剤を持ってきてください。可能な限り強い物をお願いします」


「すみません俺が悪かったです。だからみんなして探さないで」


「はぁ、光ちゃんの憎まれ口は何とかならないものかな?」


「無理だね。小さいときから周りの人からかってばかりいたからな」


「言うんじゃねぇよ」


 何ともならないから佐藤にも言ってやろうか? なんで男なのにゴキブリなんかで逃げてんだよ。雛や尾鷲を見習えって。


「それで、ふららんはどうしてですか?」


「私か。実は昨日一昨日って二日連続で家に出て」


「嘘・・・、私そんな家で寝たくない」


「今すげー失礼なこと言ったな」


「矢島さんも人の事言えませんよ」


「俺はいいんだよ。それを売りにしてんだから。でも二日連続で出たってなったらあと100匹はいそうだな」


「ふららん! 私のうちに来たら! 泊めてあげるから」


「え? じゃあ私も泊まりたい!」


「ココ、多分話ズレてるぞ」


「え? そうなの?」


 そうだろ。お泊り会やるって話じゃないぞ。あいつからの逃げ場として提供するってだけの話だぞ。


「ねぇ、いつまであいつの話してるの? もうやめない?」


「まさかかなからまっとうな言葉が出てくるとは思いませんでした」


「私を何だと思ってるのよ!」


 確かに。もうやめよう。ゴキブリの話なんてしたところで誰得だよ。とはいえ話すことと言えばなぁ・・・


「はい! 奈々ちゃんのお見舞いの話をしよ!」


「まさかココからまっとうな言葉が出てくるとは思わなかった」


「かなたんと同じこと言われた!」


「よく雛の言ったこと覚えてましたね」


「ちょっとココ! 何でショック受けてるのよ!」


 だって本当のことだもんな。たまーに出てくるココからのまっとうな意見。多分月一くらい。


「ここ全員で行くのはさすがに多いよな。それに、俺らは部活だし」


「ああ、行けるとしたら来週の木曜くらいだな」


「じゃあそこは部活組で確定だな」


 ということで木曜日は慎、佐藤、咲彩で決定。


「光ちゃんも行くんだぞ」


「そうですよ。矢島さんは毎日です」


「わかったよ。で、他の日はどうすんだ? 奈々が言うには月曜から面会できるって聞いたが」


「はい! 私月曜行きたい!」


「わたしも!」


 ということで月曜はココとわたりんで決定。


「では茶道部の雛たちは火曜日にしましょう」


「うん、わかった」


「ねぇ、部活そんなに休んで大丈夫なの?」


「ではかなだけ金曜日で」


「わかったわよ! ちょっとくらい大丈夫よ!」


 ということで火曜は雛、佳那、尾鷲で決定。


「じゃあ私は水曜かな。あれ? 私だけ?」


「はい! 私も水曜日行く!」


「わたいも!」


 ということで水曜は葵、ココ、わたりんで決定。なんか後者二人は毎日行きそうだな。まぁいいや。どうせ俺も毎日行くんだし。あとはかえでだが・・・多分木曜だろうな。あ、ちょっと今考えたくないことを考えてしまった。うちの母親も行くんじゃねぇか?

 まぁそんなこんなで久しぶりの休みは和やかに過ぎていった。ただなぁ前半のゴキブリの話だけ何とかなんねぇかなぁ。そこさえなければなぁ。

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