日常? ハプニング? - 72日目 -
昨日散々泣いたからもう泣かない。多分人生で5本の指に入るくらい泣いた。母親が帰ってくるまでには泣き止んだが、バレてそうだな。かえでも帰ってきたところで改めて奈々のことを言ったが部屋に戻った後かえでが泣いていたのも知っている。枕に顔押し付けて泣いていたのだろうが聞こえていた。まぁ最初こそ関係が悪かったが今はこうして泣いてくれている。それだけで本当によかった。
よし! 心機一転! 今日は気分が良い。雨だろうと関係ない。俺の心は快晴だ。
授業も気分が良かったので何一つ苦ではなかった。何を言われようと苦ではない。
そんなテンションで迎えた放課後。相変わらず雨は降っていたが関係ない。靴が濡れようが関係ない。こんなのは些細な問題だ。
でもおかしなことがあった。あれ? 俺を送ってくれる人は? 誰もいないの? 何かみんなして先に帰っちゃったし。その上ココからは「お迎えが来るまで待ってて!」と言われる始末。というわけで放課後の教室に一人取り残されている。
「・・・俺、忘れられてねぇよな?」
お迎えもちっとも来ない。もうどれくらいこの教室にいるんだ? そろそろ施錠されるぞ。
「はぁ? 何でいんの? 意味わかんないんだけど」
「そういうお前こそ何で来たんだよ」
「何でもいいでしょ。忘れ物取りに来ただけだし」
言ってんじゃねぇか。よりによって湯川か・・・。まーた言い合いが始まるよ。
「いつまでいるつもりなの? さっさと帰んなよ」
「帰れたらとっくに帰ってるよ。今俺はみんなに置いてかれて帰れずにいるんだよ」
「だっさ。人いないと帰れないとか。お子ちゃまじゃん」
「何とでも言えよ。それとも何か? お前が俺を送ってくれるのか?」
「はぁ? そんなわけないじゃん。誰があんたなんかと———」
「あっそ。じゃあな」
これ以上いると収拾つかなくなりそうなのでさっさと帰るよう手を振って促す。よし、教室出て行ったな。はぁ、おーい、いつになったら来てくれるんだよー。
お? 今度こそ来たか?
「送るわよ。勘違いしないでよね! 教室が施錠されるからだから!」
「別にいいって。それに、俺は———」
「うっさい!」
そう言われると湯川に無理矢理腕を引っ張られて外に出て行く。引っ張る力強い。痛い・・・。それと階段下りるときくらいゆっくりにして、また転ぶから。
そのまま昇降口まで行くと
「あ! 光ちゃん! 今ちょうど行くところだったんだよ」
「おせーよ。何時間待ってたと思ってんだよ」
「えー? そんな待ってないと思うけどー」
ココがいた。どんだけ待たせたと思ってんだよ。
「湯川さん、連れて来てくれてありがと!」
「別に、こいつに連れてけって言われたから連れてっただけだし」
「おい、捏造するな」
「あそうだ! 湯川さんってこの後暇? 実はねぇ・・・」
そう言うとココが湯川に何か耳打ちみたいなのをしている。何? 俺に秘密なことって俺このあと何されるの?
「・・・私暇じゃないから」
「待って! 湯川さん・・・」
行っちゃった。まぁいいか。それよりもだ。
「で、この後何があるんだよ」
「それは・・・行ってみてからのお楽しみだよ!」
うん、何かあるんだな。じゃあ何があるんだ? うーん、思い当たる節がない。
横でココの鼻歌を聞きながら家に着く。
「お誕生日おめでとー!!」
「は?」
思わず口を開けてポカーンとなる。クラッカーも鳴らされているがそれと別の驚きがある。なにこれ?
「まさか、自分の誕生日忘れちゃってないわよねぇ?」
「何でいるんだよ」
「休みの取り方には半休ってものがあるのよぉ」
母親がいた理由はわかった。
「もっと喜んで! はい!」
そう言われながらココに写真を撮られている。さっきのクラッカーのリボンも頭の上にかかった状態で。
「ここは雛が説明します。矢島さんの誕生日が昨日ということは知っていました」
「俺言ってねぇぞ。誰だ言ったのは」
「ですが昨日の時点で七瀬さんの容態が明らかでない状態で行うのはどうかと思いまして。そう思ったときにココさんから七瀬さんについての連絡をもらったので一日遅れにはなりましたが今日行おうという運びになったということです」
「いや、理由はわかったがそもそもだ。何でこんな盛大にやってるんだよ。普通にメッセージだけでもいいじゃんよ」
「それはダメ! 誕生日はちゃんと祝ってこそだから!」
「おいココ。それは誰の受け売りだよ」
「うわーん! 光ちゃんが私の言うこと信じてくれないー!」
だって絶対に言わなそうだから。そうやって俺があれこれ言ってると
「せっかく祝われてるのに文句言わない」
母親にそう言われ頭小突かれた。おい誰だ今笑ったの。見えないから大丈夫だろうと思ってるだろうがバレてるからな、わたりん、葵、佳那、あと尾鷲。
「さてと、部活組はもうちょっとしたら来るだろうからねぇ。それまでは———」
そう言うと母親は誰かに電話している。しばらくするとスピーカーになって
“皆さん。こ、この度はお騒がせしました”
「奈々ちゃん!」
奈々の声が流れてきた。
“あの、先輩、すみません。せっかくのお誕生日なのに、何もお祝いもプレゼントもなくて”
ああ、その事か。
「別に気にしてねぇし。ていうかもう貰ったしな」
“それは・・・”
「俺の誕生日は正確には昨日だ。その昨日奈々は俺に連絡してくれた。それがプレゼントってことでいいだろ。相手がもらってうれしければ別に形があろうがなかろうが関係ねぇよ。特に俺なんか見えねぇしな」
「ねぇ光ちゃん。それって誰の受け売り?」
「誰でもねぇよ。本心だ」
“あ・・・ありがとうございます・・・。で、では! 改めて、お誕生日おめでとうございます!”
「おう」
「変にカッコつけちゃってぇ」
「うるせぇ黙ってろ」
いちいち揚げ足取ってくる葵と母親がなんか気に障るがまぁいい。それよりもだ。
「で、お前らはいつまでここにいるつもりだ? 明日も学校あるんだから前回ほど長くはいれねぇぞ」
「そうよねぇ。光ちゃんの誕生日が金曜とかだったらねぇ。今からずらせるぅ?」
「無理に決まってんだろ。出生届けを直すのもカレンダーの日付を無理やりずらすことも俺一人で出来るわけねぇだろ。政府でも無理だよ」
「7時くらいに帰るわよ。何でこんな中日なの」
「葵まで文句言うな。俺以外にもいるだろ。何で俺だけ文句言われなきゃならねぇんだよ」
最近葵も俺に容赦なくなった気がする。雛ほどではないが普通に俺いろいろ言ってくるようになった。
「はぁ、なんか暇」
佳那のやつ、とんでもねぇこと言いやがったな。自分の誕生日会で同じこと言われてみろ。泣くぞ。
「それじゃあ光ちゃんの恥ずかしー話でもしましょうかぁ」
「はい! 私聞きたい!」
「私も聞きたい!」
「やめろ」
何でココと佳那は興味津々なんだよ。他のやつも声こそ出してはいないが絶対聞きたがってるだろ。うずうずわくわく感が出てるぞ。
部活組が帰ってくるまでの時間つぶしとはいえこれでもかというくらい公開処刑された。俺自分の部屋行っていいかな? もしくは家出してもいいかな? 皆さんの反応はというと、それはもう大爆笑。こうなったらこうしよう。誕生日会やるたびに当人の昔話もしくは暴露ネタを話す。そうすれば俺だけ被害を被ることもない。ていうかそうしてくれないと俺の気が済まない。・・・ちゃっかりかえでのこともバラしてるし。
しばらくすると
「ただいまー」「お邪魔しまーす」
かえでと慎、咲彩、佐藤も来た。何でこの4人が一緒なんだ? さてはどっちか待ってたな。
「光ちゃん誕生日おめでとー!」
これ言われるの二度目。しかも言われる人数が多いだけにさすがに恥ずかしい。
「ということでぇ、プレゼントぞうてーい!」
「はい! まずは私たちから!」
そう来るだろうとは思ったけどいつ行ったんだ? 特にココとわたりんなんか土日以外は基本一緒に帰ってただろ。あ、でも月曜家にあがらずに帰ったな。
ココが最初に渡してきたのは・・・うーん、持っただけじゃわからん。
「たべていて」
これ食べられるやつだったのか。何か失礼なこと言った気がするがとりあえずわたりんに言われた通り食べてみよう。・・・うん
「うまいな。これは・・・あれ? 何て言うんだこれ」
このサクサク触感と持った感触からして、もう少しで出てきそうなんだけど出てこない。
「マカロンだよ。どう? 私とわたりんの自信作だよ。皆も食べていいよ!」
そう言われてみんな食べるが一様においしい、うまいと言っている。へぇ、これマカロンって言うのか。俺軽くて分厚いビスケットかと思ったわ。マカロン・・・マカロン・・・覚えた!
「みえないからたえもののほうがいいともって」
はい、その通りです。物よりも食べ物のほうが嬉しい。だってちゃんとわかるから。変にこだわったもの渡されたって見えないからわからないし。例えばブランド物のバッグとかもらうよりも肩叩き券の方が俺にはうれしい。あ? どうせ勉強しないんだから肩なんか凝らないだと? そんなのは嘘だ。変な風に寝た後とか絶対肩痛くなるからな。あれ? そういえば
「てことは他のやつもみんな食べ物なのか?」
・・・・・・いや誰か否定しろよ。それはさすがにちょっと悲しいぞ。貢がれてる感じがするから。
「では雛とふららんからはこちらを」
「ねぇ! 私もいるんだけど!」
そう言うとなんか準備し始めた。カチャカチャ音いってるな。そしてみんながなんか感心してるな。しばらくすると
「茶道部ということでお茶をたてました。どうぞ」
「そういえばそうだったな」
「みんなも遠慮しなくていい。茶道部のお茶はそう飲めるものではないから」
確かに、身近に茶道部の知り合いとかいなければ京都とかの旅行にでも行かない限り飲めないわな。じゃあお言葉に甘えて・・・
「にがっ! なにこれちょー苦いんですけど!」
もうちょっと余韻に浸らせてくれよ。ココのせいで台無しにされた。ていうかそんなに苦いか? 俺は全然平気だが。あ、そういえばココ苦いのダメって言ってたな。これもダメなのか。相当だな。何か苦いの中和させようと自分で作ったマカロン食べてるし。
「お茶とはこういうものです。そうです、思えばお茶というものはこういうものでなくてはなりません。よく見る甘い抹茶なんてものはまがい物です」
「何か突然抹茶批判し始めた・・・」
うん、とりあえず雛はお茶にただならぬ拘りがあるということが分かった。それと佳那だよ。ちゃんとお茶たてられるなら調理実習も出来るだろ。どこが違うんだ?
三人分のお茶を飲んだところで
「では、皆さんに聞きたいと思います。一番おいしかったのは誰のお茶ですか?」
絶対そう来るだろうと思った。二杯目って来た辺りから怪しかった。ちなみに最初が雛、二番目が尾鷲、三番目が佳那だとか。うーん、悩ましいな。多分違いで言うと一番苦かったのは雛、飲みやすかったのは尾鷲だったな。
「では皆さん目を瞑ってください。一番おいしかった人に挙手をお願いします」
そう言われて三人の名前が呼ばれて挙手をする。・・・結果は?
「・・・なんてことですか。ふららんが一番だなんて」
「まさか第三の刺客が現れるなんて・・・。雛とも同じだし・・・」
「誰が誰に票をあげたんだ? 俺は雛だったな」
「私はかなたん!」「私はふららん」「尾鷲だったな」「僕もだね」「私もだ」「うん」「わ、私もです」
「俺とココ以外みんな尾鷲かよ」
「おかしいです。お茶というのは苦いからこそですのに」
「違うわよ。苦かったら飲めないじゃないの! 甘めの方がいいのよ!」
「うんうん!」
俺たちが少数派・・・。俺も雛の言うことはよくわかる。やっぱり感性似てるのかなぁ?
「皆さん、おいしそうです」
あ、奈々は飲めず食えずだった。
「何か悪いことしたな。目の前で食べたり飲んだりしちまって」
「いいえ、皆さんが楽しめているだけで十分私も楽しいです。その・・・では、退院したら、私にもくれますか?」
「もっちろん!」
「当たり前だ」
むしろ退院祝いとしては少ないくらいだ。これくらいいくらでもしてやる。
「それじゃあ次は部活組からだな。とは言っても俺たちがやったってものじゃないけどな」
「これは?」
「球技大会での活躍をアルバムにしたものだ。写真部から写真をもらってな」
「おー!!」
皆さん食い入るようにしてみてるけど俺見えないよ。なにこれ? 誕生日プレゼントじゃないの? 貰う側の人が見れないってそれプレゼントって言わなくない? まぁいいか、俺はさておき奈々がうれしそうにしてるから。
「それともう一つ。これは光ちゃん向けのやつだね」
そう言われると渡されたのは・・・靴?
「最近雨が多くていつも濡れていると聞いてな、それで私たち三人で選んだ」
「何か急にまともになったな。まぁありがとな」
一応お試しで履いてみた。これ運動靴だな。まぁ多少濡れても問題ないしな。ていうかここ最近の俺の悩みにドンピシャだった。ほんと靴が毎日濡れるのが悩みだった。それもこれも・・・
「何で私を睨むのよぉ。おー怖い怖い」
自覚してるんなら帰りも迎えに来い。仕事終わりとか来れるだろ。
「じゃあ次は私たちからね」
「お兄ちゃん。はいこれ」
「え? どういう組み合わせ?」
葵とかえでが一緒に渡しに来た。いつの間にそんな仲良くなったんだ? 今まであんまり見ない組み合わせだったから少し驚いた。それを持ってみると・・・ん? 何だこれ?
「なにそれかわいい!」
ココが騒いでいるが何なのかさっぱりわからない。
「お、お守り」
「お守り? 言われてみればそんな形のような」
「少し前にかえかえの運動会があったでしょ。その時のハチマキをお守りにしてみたんだけど・・・」
「ああ。でもなんでお守り?」
「光ちゃんが危なっかしいからに決まってるでしょ。一昨日だって階段からお———」
「わかったわかった! おとなしく受け取るわ」
「え? 光ちゃん先輩階段から落ちたんですか⁉ 大丈夫ですか⁉ お怪我はないですか⁉」
せっかく隠してたのに。奈々に余計な心配をさせてしまった。何もない心配するなと言ってやるが何か泣きそうな声で俺のこと心配してくる。どうしてくれるんだよ。
しばらくしてようやく奈々が落ち着いて事なきを得た。葵のやつ・・・そんなに俺を心配させたいのか?
「全員渡せたようねぇ。それじゃあ最後に私からぁ。はい!」
そう言われて机の上に勢いよく置かれたのは・・・。冗談だよな? 触ってわかった。
「誕生日プレゼントで現金渡す親がどこにいるんだよ」
「なんかすごく生々しいです」
雛の言う通りだよ。それと多分かえでだろう。絶対引っ込んだな。このどうしようもない母親を見て。あとわたりんと佳那、尾鷲、笑ってんじゃねぇよ。
「冗談よぉ。私からはぁ・・・これぇ!」
文句は言いはしたが別に現金でもよかったのに。ただ雰囲気をぶち壊すってだけだし。皆さんも実際もらって一番うれしいのは現金だと思うけどなぁ。ただ雰囲気をぶち壊すけどな。大事なことだから二回言った。
「これはもしかして・・・」
佐藤を筆頭に一部の人がなんか反応してるな。慎にその物のところに手を伸ばしてもらうと・・・なにこれ? 箱? のわりに曲線だな。
「私がお手本を見せてあげましょう。アレクサ、テレビつけてぇ」
母親がそう言うとテレビがついた。嘘⁉ なにこれ⁉
「おー! すごーい! なにこれ⁉ どうなってるの⁉」
声に出しはしないがココと同じ。声に出したらテレビついた。どういう仕組み?
「ちょっとわかりにくいけどねぇ。音声を認識してリンクした家電のあれこれを操作できる画期的な機械って言ってわかるぅ?」
「ぜんっぜんわからん」
「えーっとね、声で操作できるリモコンみたいなものだよ」
「そうそう! 健ちゃんさすがー!」
今の家電ってそんなに進んでるの? 全然知らなかった。そういえば最近テレビ変えたって言ってた気がする。そのためだったのか。
「今はテレビのオンオフと音楽聞くくらいしか出来ないけど随時更新していくつもりだからぁ」
あれ? じゃあ何? 最近働き始めたのってもしかして・・・いや、言うと何か地雷踏みそうだからやめとこ。でも素直にうれしい。要は俺でも家電の操作が出来るようになったってことだ。最高じゃん! 「何それうちにもほしー!」って佳那とかココが言ってるけどあげねぇぞ。
「まぁみんなもうちに来ればいくらでも操作できるからぁ」
「ねぇお母さん。うち、テーマパークじゃないんだけど」
「確かに、住宅展示場でもねぇぞ」
「今に始まったことじゃないじゃないのぉ」
「誰のせいでこうなったと思ってんの?」
「おいかえで、俺を睨むなよ」
なんかまた一段と溝が深まった気がする。多分母親と子供の溝は一生埋まらない気がするな。まぁ嫌な溝じゃないからいいか。絶交だとか破門だとか、そういうものじゃないから。
本当だったらここでパーっとやってドンチャン騒ぎしたいところだが明日も学校がある。というわけで全員渡し終わったところで解散となった。これ誰かの誕生日が来るたびにやるのか・・・。嬉しいけどな。嬉しい悲鳴ってやつだ。
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