日常? ハプニング? - 71日目 -
・・・よく寝たわ。昨日の反動か、家帰ってからほぼ寝てたな。とりあえず起きよう。あと階段は慎重に下りよう。
「あれぇ? 起きるの早いわねぇ。まだ6時前よぉ」
「6時前? さすがに早すぎたな。でもまた寝るのもあれだしな」
「いいじゃない、たまには早起きしたってぇ。そんなに早起きしたんなら朝も歩いていけばぁ」
「断る。誰が学校まで俺を連れて行くんだよ。一人で行ったら確実に迷子になるじゃねぇか」
「うーん、慎君とかぁ? ああ! そうしよう!」
「そうしようじゃねぇよ。ていうか今日早く起きたのはたまたまだからな。毎日は嫌だからな」
俺の話聞いちゃいないし。このままだと朝も歩いていくことになりそう。そうなったら早く起きなきゃならないし。勘弁してくれ。早く起きると午後確実に眠くなるんだよ。
「おはよーって・・・うそ・・・お兄ちゃんが起きてる・・・昨日頭打ったから?」
「起きてちゃ悪いか? 確かに昨日頭打ったがそれとこれとは関係ねぇぞ」
かえでも起きてきた。俺が早く起きることがそんなに意外か。俺そんな怠け者じゃねぇぞ。朝だって別に弱いってわけじゃねぇぞ。
「慎君来てくれるって。早く準備しちゃいなさいねぇ」
「くそ・・・何で朝練の人に合わせなきゃなんねぇんだよ」
絶対教室誰もいねぇだろ。一番乗りで行ったって良い事ねぇぞ。退屈な時間が増えるだけだ。
「お兄ちゃん、腕だいじょぶなの?」
横で朝食を食べながらかえでが聞いてくる。そうだった。
「ああ、そうだ。・・・うん、なんともねぇな」
「昨日の今日で治るなんてねぇ。どんな体してるのよぉ」
「あなたの息子なんですが」
いや本当に何ともない。不思議だ。昨日あれほど痛かったのに。その右手で皿に乗ってるものをフォークで刺すと、あれ?
「おいかえで、俺の皿にブロッコリー乗せるな」
「嫌いなの。わかってるでしょ」
「食えよ。返すわ」
「いらない! お兄ちゃんの皿の上にあるんだからもうそれはお兄ちゃんのだし!」
「屁理屈言うな。俺が口の中に突っ込んでやろうか?」
「見えないのにそんなことしたら顔汚れるし! ・・・わかった」
「おぉ? かえでがついに食べるのねぇ!」
俺と母親が見守る中かえでが敵とにらめっこしている。むぅーとかうなり声あげてるし。こういうのは一気にいった方がいいんだぞ。嫌いなものはみんなそうだ。例えば食べ物然りアクティビティ然り。しばらくにらみ合った後それを掴んで一気にいった。どうだ?
「んー!! んー!!」
暴れ出した。席を立ってリビングをグルグル回っている。
「何してんだよ」
「かえでー、麦茶ここにあるわよぉ」
そう言っている間もずっとリビングを走り回っている。なんかすごく苦しそうな声出しながら。必死さが伝わってくる。吐かないだけマシだな。頑張れー。しばらくすると用意された麦茶を一気に飲んで
「はぁ・・・はぁ・・・死ぬかと思った」
「死なねぇよそんなんで」
「おめでとー! じゃあ次は克服できるように一日一ブロッコリーねぇ」
「いやッ! 無理ッ! もう食べない!」
どうしたものか。ブロッコリー嫌いなんてあまりいないけどなぁ。これそんなにまずいか? 自分で食べてみても全くそんな感じがない。まぁでもかえでにとっては大きな前進か。
「別にそのまま食べなくてもいいのよぉ。マヨネーズつけるとか。あと知ってる? ブロッコリーって味噌汁に入れると案外おいしいのよぉ」
「へぇ、じゃあ明日の朝はそれで」
「いやだ! 鬼! 外道!」
散々な言われようだな。全国の生産者に俺が代わって謝ります。うちの妹が本当に申し訳ございません。
そんなことがあったのち慎が家まで来て俺も学校に行くことになった。
「まさか光ちゃんがこんな朝早く起きるとは思わなかったなぁ」
「昨日これでもかってくらい寝たからな。それよりもこんな早くから毎日朝練やってるお前の方がすげぇよ」
「もう慣れたからなぁ。そういえばこの二人だけってずいぶん久しぶりな気がするなぁ」
「ああ、あれ? いつぶりだ?」
「登校だけで言うと小4以来かな。懐かしいねぇ」
「お前そんなにジジくさかったか?」
「当時から数えてみれば立派な爺さんじゃんよ」
「まだ早えよ。どんだけ先の事言ってるんだよ」
「ははっ! ・・・光ちゃん」
「あ?」
「せっかく二人だけなんだ。色々聞かせてもらうぜ」
「黙秘する」
「そんなこと言うなよ。どうせ誰も聞いちゃいないんだからいいだろ?」
「そういう問題じゃねぇよ」
「奈々ちゃんからは連絡あったか?」
「全然聞いてねぇし。・・・まだねぇよ。でも心配はしてねぇな」
「嘘つけ。一昨日寝れなかったのは心配してたからだろ?」
「ぐっ・・・、何も言い返せねぇ」
「別に隠すことないじゃんよ。俺が言ってやろうか?」
「やめろ恥ずかしい」
「まぁ俺から言えたことじゃないけどな。ああそうだ、光ちゃん聞くの忘れた」
「あ?」
「荷物随分と軽そうだけど、今日調理実習あるぞ」
「は? 知らねぇよ。もう家出ちまったし。今更帰るなんてしたくねぇよ」
「何で開き直ってるんだよ」
「エプロンは借りる。てか先週調理実習の事言ってたか?」
「言ってたぞ。これは聞いてない光ちゃんが悪い。ざまぁみろ」
「怒られる前提で話するなよ。まぁ多少は言われると思うが。いや、よく考えたらお前が家来た時言ってくれればこうならずに済んだじゃん。お前のせいだ」
「責任転嫁するなよ。100パー光ちゃんのせいだからな」
こんな話をしながら学校へと向かった。確かに、二人だけってのもずいぶん久しぶりだな。たまにはこういうのも悪くないか。
学校に着いていつもの場所に着くと慎は朝練へと行った。俺は外に置いてけぼりか。こんなことなら『今日はもう教室にいるぞ』ってライン送っとけばよかった。
でもそんなに待つ必要はなかった。ほどなくして
「あれ? 矢島さん、早くないですか?」
「うそ・・・じゃあ絶対今日天気悪いじゃん」
「あ? 俺が早く来るのがそんなに珍しいか?」
「だって今まで一度も雛たちより早く来たことないじゃないですか。何ですか、呼び出されたんですか?」
「ずいぶんなご挨拶だな。呼び出されちゃいねぇよ。それに天気悪いのは梅雨だからだ。俺は関係ねぇ」
「じゃあ雷でも———」
「くどいぞ佳那。おとなしく尾鷲に連れられて教室行ってろ」
「はぁ? 私を子供みたいに———」
「そうですね。ふららん、先に行っていてください」
「———! あ、ふぅ・・・。うん、わかった。行くぞかなたん」
「ちょ! 待って! まだ話は終わって———!」
本当に仲良いんだよな? 言ったはいいけど何かかわいそうになってきた。
「矢島さん。かなの扱い方がわかってきましたね」
「あれでいいのかよ。いつか泣くぞ」
「別に構いませんよ。雛のさえずりとかわ・・・」
「今自分で自分の首絞めたな」
「言わないでください。今すごく後悔してますから」
雛のさえずり、佳那のことを悪く言ったつもりだったが言った本人の名前が雛だからなぁ。完全に自分に返ってきた。
「おっはよー! 嘘⁉ 光ちゃんもう来てる⁉」
「おはよー」
「早いね。何かあるの?」
「何かある前提で話すなよ。たまには早く来たっていいだろ」
今度はココとわたりん、佐藤が来た。何で佐藤がこの二人と一緒にいるかは・・・多分その辺でばったり会ったとかだろ。それと俺が早く来たことをなんで皆さんして悪いほうに捉えるのかね?
「それじゃああとはさーちゃんとアオだけ!」
「咲彩来てねぇのか?」
「ねぼう」
「あー、なんか嫌な予感がする」
わたりんから寝坊というのを聞くのは二度目。前回咲彩が寝坊したのは1か月ほど前。全力でここまで走ってきた。それはいい。でも、髪が終わっていた。そして雛と葵がめちゃくちゃ苦労したってことがあった。今度はどうなるんだ?
「おはよー! あれ? いつもいるはずの人がいなくていないはずの人がいる・・・」
「さらっと俺の悪口を言うな。いちゃ悪いか?」
「意外だったって言いたかっただけじゃん。鵜呑みにしなくていいのに」
「あっそ」
葵の方が早かった。皆さんして俺が早く来たことを散々言ってくれますね。それと雛はいつまで落ち込んでるんだ? 自分で言ったことなのに。気遣っているわたりんが俺に冤罪を吹っ掛けないように言っとくか。
「はぁ・・・はぁ・・・、遅くなった」
「おっは・・・」
ココが挨拶しかけて止まったな。他の人も止まってるな。これは・・・
「ねぇさーちゃん。鞄は?」
「あ・・・、ない・・・忘れた・・・」
「まさか自分の身一つで走ってきたのか?」
「矢島さん、わざわざ言わなくてもいいじゃないですか」
「最悪他の人から借りるとかすればなんとかなると思うけど・・・」
「あれ? でも今日って体育あったような・・・」
もうどうしようもねぇじゃん。てか途中で気づけよ。髪の件といい、今回の事といい、しかも体操着忘れるのなんか今月二度目じゃん。抜けすぎだよ。ここまで来たら確信犯だぞ。
「お姉さんに連絡するのはどうですか?」
「・・・スマホも鞄の中だ」
「光ちゃん! スマホ貸して!」
そう来ると思った。俺がポケットから出すと葵がそれを取り上げて電話する。見えてたらだけどスリじゃないかってくらいのスピードだったな。
「もしもし、さーちゃんのお姉さんですか? ・・・はい・・・え?」
“え?”何でそんな言葉が出てくるんだ?
「あ、さく姉の車だ」
「え?」
みんな揃って同じ反応をした。俺もだ。来たの?
「咲彩ったら、はい。抜けてるところは変わらないわね」
「すまない。・・・何でかよ姉もいるんだ?」
「あ? 別にいいだろ。暇だったんだよ」
「あ、みんなー! おはよー! て言ったのはいいけど大学あるからもう行くわね。バイバーイ!」
嵐が来て超速で過ぎ去った。・・・開いた口が塞がらない。
「ふぅ、これで一安心・・・どうした?」
「どうしたじゃないでしょ! え? 本当に⁉」
「雛も初めて見ました。あの雑誌の姿でしたね」
「これは良い事なんだよね?」
「知らねぇよ。まぁあの二人が騒ぎを起こさなかっただけまだいいんじゃねぇの?」
「騒ぎ・・・起きそうでしたよ」
「は?」
周りの声を聞いてみると「何あの車ちょーかっこいい!」とか「本田先輩が行ったってことは・・・嘘⁉」とか聞こえる。現にココも「何あれ⁉ かっこいい!」って言ってるし。
「なぁ、一応聞いておくが、今どんな車で来たんだ?」
「ああ、あれは日産の・・・何だったか・・・」
「スカイライン。しかもすごい高い仕様のやつだよ。おまけに赤に塗装されてる」
「ああそうだった」
「目立ちすぎだよ。何でそんな車で来たんだよ。もっと他にもあっただろ」
佐藤から言われた車種はパッと思い浮かばなかったが赤って言う時点でものすごく目立っている。ていうか一目見て分かるとか佐藤実は車オタクだろ。
「あれは父親のおさがりだ」
「・・・もう何の言葉も出ねぇよ」
「光ちゃんに同じ・・・」
「雛も矢島さんの今まで言ってたこと少しわかった気がします・・・」
もう呆れたわ。葵も雛も同じことを思ったのだろう。やっぱり本田家は俺たちと住んでいる世界が違う。
そしてその一部始終は瞬く間に学校中に広まっていった。うーん、これはあの二人が悪い。狙ってやっただろ絶対。咲彩があの車の事だったり乗っていた人物についてあっちこっちから聞かれたのは言うまでもない。・・・かわいそうに。
× × ×
さてと、完全に忘れていた調理実習についてだが・・・。俺のやることは前回と変わらないな。調理実習の班は3人一組。うちのクラスは全員で30人いるので全10グループに分かれることになる。で、前回はそんなに取り上げなかったが班員は少し前に説明した女子グループの中心でしゃべり方のきつい
今日作るのはハンバーグ、調理実習の定番だ。
「あんたは米でも炊いといてよ」
「へいへい、そうするわ」
俺に出来ることはそれくらいなのでおとなしく米を研いでいる。さすがにそれくらいはできる。で、湯川は何をしているかというとハンバーグのタネを作っている。
「何でこんなことしなきゃなんないんだし。うわー気持ち悪」
捏ねながらこんなこと言っている。肉ってそういうものだからな。
「おし! こんなもんか。鍋・・・鍋・・・」
一方の吉川は付け合わせの野菜を切って茹でてしていた。何かこの二人いれば俺いらなくね? 前回も思ったがこの二人料理の腕はそこそこあるんだよなぁ。ただ湯川は文句たらたらで作っているが。
「どっちか、炊飯器まで持ってってくれ」
「はぁ? 自分で行けし。私は無理、忙しいから」
「行けるか! 素っ転んで頭から米被るぞ」
「それだけは絶対にしないでよね! 評価下がったら全部あんたのせいだからね」
「じゃあ持って行けよな。評価もテンションも下がって挙句びしょびしょなんて嫌だからな」
「はぁ・・・、俺が行くわ」
見かねた吉川が窯を持って行った。なんかすみませんね。ていうか前回もこんな感じだったな。どういう感じだったかというと俺と湯川が終始喧嘩しているかのような感じ。お互い口が悪いというのも相まって周りからは喧嘩しているようにしか見えないだろう。でも喧嘩じゃないからな。俺はそうだけど多分湯川も普通にしゃべっているだけだからな。
「光ちゃん口開けて」
言い終える前に口に突っ込んできた。全く持って容赦がない。
「あちーわ! やけどするわ!」
あー、これ軽くやけどしたな。ひりひりする。いきなりソースを放り込むな。ちなみに光ちゃんというのは何か知らないうちにクラス中に広まっていてみんなからそう呼ばれている。
「味、どうなの?」
味・・・ただただ熱かったのでほとんどわからなかったが残りを味わうと
「率直な感想を言っていいか? 俺には濃い」
「はぁ? 自分で作ってないのに文句言うなし。うっざ」
「感想求めたのはそっちじゃねぇか。だったら自分でも舐めてみろよ」
「・・・全然普通じゃん。舌バグってんじゃないの」
「バグらせたのはお前だぞ。あーさっきので絶対やけどしたわー」
「やけどしたのはあんたの勝手じゃん。私のせいにするなし」
「勝手にやけどする馬鹿がどこにいる。少なくとも俺はそんな馬鹿じゃねぇぞ」
「馬鹿じゃん。こんな味わからないんだし。味音痴」
まぁこんな感じに調理実習中終始言い合いをしているわけですね。傍から見たら完全に喧嘩だろうな。吉川も前回は止めに来ていたけどもう慣れたのか今回は無視を決め込んでいる。
「二人して、仲良いよな」
「は? 何言ってんだお前。これのどこが仲良いんだよ。犬猿の仲もいいところじゃねぇかよ」
「はぁ? 何言ってんの? これのどこが仲良いって言うの? 頭おかしいんじゃないの?」
撤回、少し前まで吉川をかわいそうと思っていたが全然そんなことない。絶対楽しんでるな。それと同時に言ったとはいえ
「おい、俺と同じこと言ってくるなよ。被せたみたいになるじゃねぇか」
「はぁ? そっちが被せてきたんでしょ。真似すんなし」
何でこんなに対抗してくるのかね? でも俺もあそこまで言われたら引きたくはないからな。あれ? これって落としどころあるか?
こうして文句を言いながらも完成させたハンバーグ。食べてみると・・・さっきよりマシだな。もしかして修正したのか? それに皿にあるハンバーグもきれいに一口大に切り分けられている。何でそこまで配慮出来て俺に喧嘩腰なんだよ。湯川マジわからん。湯川に限らずこのクラスのやつわからんやつばっかりだな。
× × ×
昼、直前に調理実習があったので全然腹が減っていない。ということで俺の弁当はまだ足りないと言っていた慎と葵、雛にあげた。
「なぁ光ちゃん。今日の調理実習で思ったんだけどよ、何で湯川さんと喧嘩してるんだよ」
「あ! それ私も思った!」
「けんかだめ!」
「周りから見てすごく目立ってたしね」
やっぱりか、そりゃ目立つよなぁ。俺だってしたくてしてるわけじゃないし。
「喧嘩じゃねぇよ。ただの言い合いだ。ていうか喧嘩になるようなこと俺してねぇしされた覚えもねぇし」
「湯川さん・・・ああ! なんかすごく怖そうな印象がある!」
え? そうなの? 葵から聞いてみると見た目は怖いほうに振られたギャルと言えばわかるか。そうだな・・・怖さレベルで言うと、ぶちぎれたかえで>夏夜さん>咲夜さん>自虐を言う雛>湯川くらいだな。言い返せるだけ上にあげた4人よりマシだ。かえでがぶちぎれると手が飛んでくるし、夏夜さんは威圧してくるし、咲夜さんは別の意味で怖いし、雛は自虐がひどすぎて何も言い返せないことがある。それ思うと随分マシな方だ。
「あいつ俺に対して特に当たり強い気がするんだが・・・。意味が分からん」
「ふふーん! 私が聞いてきましょう!」
「行かんでいいって聞いてねぇし」
ココが張り切って行ってしまった。聞いても碌な答え返ってこないだろうに。
「調理実習ですか・・・雛たちも明日ありますね」
「あ、そうだ。他の班はどうなんだ? 俺の班は聞いた通りだが」
単純に気になった。まぁ耳傾けてれば聞けなくはないと思うがずーっと言い合いしてたからなぁ。
「他の班ね・・・千差万別ってところかな」
そんなに変わるか? とりあえず聞いてみるか。
一班、蒼井、ココ、上村。最初から聞いて驚いた。ココがめちゃくちゃ料理がうまいということに。そういえば弁当も自分で作ってるって言ってたな。なんかレシピを配られたんだがそれに加えて自分でアレンジもしていた。蒼井も上村もココの手さばきに圧倒されていたらしい。・・・そのスキルを勉強の方でも活かしてほしい。
二班、遠藤、尾鷲、加藤。遠藤がただうるさい。他二人が静かだから余計に。遠藤が隠し味とか言っているのを尾鷲が無言で止めにいっていたらしい。料理下手な人がやるやつですね。最終的に遠藤は炊飯器前に左遷された。それもそうだが尾鷲も尾鷲で俺と湯川の言い合いを聞いて時々噴いていたとか。もう頼れるの加藤しかいないじゃん。
三班、上村、亀井、菊池。多分一番順調だったと思う。可もなく不可もなく、それでいて落ち着いていて・・・ある意味文句の言いようがない。
四班、工藤、小出、小倉。工藤が何かをするたびに技名を連呼していた印象しかない。あと二人がかわいそうだ。
五班、佐藤、佐野、志賀。男子班、でもちゃんと出来ている。あ、これは偏見になるな。すみません。で、何が一番面倒だったかって、佐藤がレシピに忠実すぎるということだ。例えばすりきり一杯もしっかり量るし加熱時間もしっかり計る。神経質すぎだよ。だから一番時間かかってたのか。
六班、新藤、慎、高橋(沙)。慎のステータスがかなり高い。高橋の言っていることも慎はちゃんとわかってるし、新藤を寝かせないように役割を振っていた。もう完璧じゃん。ていうか他二人が癖強すぎる。
七班、高橋(由)、根本、橋倉。この班も普通だったな。根本は佐藤みたく無駄に神経質じゃないし、こっちの高橋はちゃんとした言葉でしゃべるし。ちなみにこの班が一番早く作り終わった。
八班、佳那、御堂、本橋。ここでわかったことは佳那の料理ステータスが絶望的だったということだ。包丁、持たせると危ないので御堂がやり、ハンバーグのタネ、何入れるかわからないので本橋がやり、米炊き、水捨てるときに米ごとガバッてやった前科があるので御堂がやり、火、焦がすといけないので本橋がやり・・・あれ? 佳那って何やったの?
九班、俺、湯川、吉川。さっき説明したからいいな。何で言い合いになるのかね? ほんと不思議。
十班、吉田、和田、わたりん。和田とわたりんがほのぼのした雰囲気でやっていたので吉田は邪魔しないように脇役に徹していた。材料持ってきたり米研ぎ、付け合わせ・・・ほんとに全部脇役だな。
「なぁ、うちのクラスにはまともなやついねぇのか?」
「光ちゃん。それ自分にも刺さってるからな」
「俺はまともじゃねぇから別に何とも思わねぇよ」
「・・・なんか矢島さんが不憫ですね」
「あ? 誰が不憫だって?」
雛にだけは言われたくない。
「聞いてきたよー!」
帰ってきた。で、それはそうと何で俺じゃなくて他のやつが興味ありげな雰囲気出してるんだよ。特に葵。見えなくてもわかるぞ。
「湯川さんが言ってたのはねー、『はぁ? あいつが私に言ってるからだし。別に対抗心とかそういうのじゃないし』だって」
「ほぉー」「へぇー」
何だよその意味ありげな返し。慎と葵は何考えてるんだ? とにかくだ、あいつとは一年間ずっと言い合いをしなくちゃならないのか・・・。これ何のためにやってるんだ?
× × ×
放課後、何で雨降ってるんだよ。最近帰り降りすぎじゃねぇか? 毎度毎度濡れるから勘弁してくれよ。家に着くと
「お邪魔しまーす!」
「今日はあがるのかよ」
昨日はそのまま帰ったのに。とはいえ今ここにいるのはココとわたりんだけ。他の人は部活だったり帰ったりだ。入ってしばらくゆっくりしていると・・・ん?
「電話だな。誰だ?」
ポケットの中でスマホが震えていたので取り出すと
「え⁉ これ奈々ちゃんだよ!」
「え?」
一瞬理解が追い付かなかった。それを無理やり飲み込んで通話ボタンを押す。本当だったら二人も声を聞きたいだろうに俺に通話ボタンを押させてくれた。
“せん・・・ぱい・・・”
「おう、・・・まずは何て言ったらいいんだ? お疲れ様か? おめでとうか?」
“うぅ・・・。よかったです・・・。また、声を・・・聞くことが出来て・・・”
「それはこっちもだ。本当によかった。ああ、ココとわたりんもいるから今代わるわ」
そう言ってスマホを渡すとすごい勢いで取り上げられた。
「奈々ちゃあぁぁーん! よかったよおぉぉー!」
「うん・・・。がんばった・・・」
“あり・・・ぐすっ・・・ありがとうございます”
大泣きだな、三人して。まぁお互い心配だったんだろうしな。とにかく、よかった・・・。
「奈々、今体は大丈夫なのか?」
“はい、ぐすっ・・・、リハビリが必要ですけど、もう運動も出来ますし・・・こうやって、感情を出すことも出来ます”
「そうか。じゃあ俺からは一つだ。ふぅ———、ここからが始まりだ。奈々の第二の人生の。だからそれがしっかり始められるよう俺たちはちゃんとサポートする。せっかく手術で新しい命をもらったのにリハビリなんかで音を上げるなよ。約束もあるしな」
“はい! ・・・頑張ります!”
横で大泣きしている二人のせいで聞こえたか心配だったが大丈夫だろう。
「なっ⁉ 何で光ちゃんは普通でいられるのぉー⁉」
「泣きながら質問するなよ。俺だって嬉しいよ。でもな、二人がこんなんなのに俺まで泣き出したらまともに会話できなくなるだろ」
「ひくっ・・・ごえん・・・」
「謝ることじゃねぇよ。あ、そうだ。奈々」
“ぐすっ・・・はい”
「面会っていつからできる? 可能な限り早く行こうと思うんだが」
“来週からです。でも、平日の夕方6時までです”
「わかった。じゃあ月曜に行くわ。ここの二人も連れてな」
“は、はい! あ・・・ありがとうございます!”
「奈々のことは俺たちからあいつらに連絡しとくわ。泣き疲れただろ、もう寝とけ」
「えー⁉ まだ奈々ちゃんの声聞きたいー!」
「わがまま言うんじゃねぇよ。病人だぞ。じゃあな。ああ、放課後だったら基本的に空いてるからいつでも連絡していいぞ」
“・・・はい! ありがとうございます! 失礼します!”
それを最後に電話が切れた。さてと
「ココとわたりん、悪いが他のやつへの連絡を頼めるか?」
「うん。わかった」
「わかったよおぉーー」
「それと、今日はもう帰ってくれ」
「・・・うん、ココ、かえるよ」
「うぅ・・・ぐすっ・・・」
わたりんがココを介抱しながら家を後にする。ちょっと強引だったか? でもそうしてほしかった。俺ももう限界だった・・・。いなくなったあと堰を切ったように涙があふれだした。あー、これ上向いてないとダメだ。本当によかった・・・
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