七瀬奈々 - 64日目 -

 はぁ、今日も雨か。朝やっていた天気予報によると今日にでも梅雨入りするのではという予報だった。梅雨・・・すげー嫌だ。

 車に乗せられて学校に行くと


「おはようございます」


「おはよー。あれぇ? 今日少ないねぇ」


「別に多くなくていいし」


 母親が少ないというくらいだ。それに今の挨拶からしてここにいるのは一条、渡、慎、佐藤の4人だな。何か4月の頃に戻ったみたいだ。

 母親が仕事に行ったところで何で少ないのか聞いてみるか。


「で、何でこんな少ねぇんだ?」


「柊さんと尾鷲さんは昨日と同じで、更科さんは車いすが濡れるといけないからって日向さんと一緒に先に行ったよ」


 まぁ佐藤の説明からして4人は同じ理由で教室に先に行ったってことか。慎がここにいるくらいだ。さすがに雨が強くてここにいられなかったのだろう。でもあと2人はどうした?


「そしてさーちゃんは昨日のことがあってか、朝から生徒に囲まれてるな」


 うわ、雨の中それか。つらいな。でも俺たちが行ったところでどうにかなるものでもないしな。熱が冷めるのを待つしかない。この熱って冷めるのか?


「奈々ちゃんは保健室に行くって」


「そうか。みんなして大変だな」


 七瀬は本渡先生に昨日のことを報告しているのだろう。まぁそれに関しては昼にでも聞けばいいか。


× × ×


 昼休み。そういえば昨日のことを忘れていた。たんぽぽ先輩に今年の文化祭の自身の構想を聞くんだった。そんなわけで俺、渡、一条、慎、あと更科がたんぽぽ先輩のところに行くことになった。ここにいない人たちだが茶道部三人と七瀬はお留守番だ。まぁ仲良くしとけ。咲彩は・・・生徒の対応頑張れ。


「すみません。佐倉先輩いますか?」


 更科が代表して聞く。すると


「はーい。佐倉先輩でーす。どうしたのー?」


 ホンワカ間延びボイスで出てきた。


「ちょっと文化祭について聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「はーい。あ、でもちょっと待っててー。しのちゃーん」


 しのちゃん? ああ、実行委員長か。あだ名だとわかりずらい。少しするとしのちゃんこと東雲先輩とたんぽぽ先輩が来た。今更だけどこのコンビの名前両極端すぎじゃね? 一方はめっちゃ強そうで一方はめっちゃ弱そう。


「それでー? 何を聞きたいのかなー?」


「はい光ちゃん、パス」


「何で俺にパスすんだよ。まぁいいや。今年の文化祭について個人的にどんな構想があるのか、お二人から意見を聞きたいんですけど」


 更科のやつ突然俺に投げやがって。発端が俺だからって何でも投げるなよ。


「しのちゃんはどう?」


「うん、うちはみんなの記憶に残るものにしたい。インパクトが大きいほどいいかな」


「インパクトは私もだいさんせーい! いいよねー。みんなでワイワイどっかーんって感じー」


 ワイワイはわかるけどどっかーんってなんだよ。何するつもりなんだよ。それとなんで一条は共感してるんだよ。どっかーんは共感するなよ。


「ふっふっふ。私たち、個人的にやりたいことがあるから今先生と協議中なのー」


「それって何ですか?」


「ひっみっつ! でもどっかーんってするよ!」


 これほぼ答え言ったな。花火だろ。そうだろ。逆にそれ以外考えられない。


「はぁ、まぁ、わかりました」


 それならスローガンはあのままでいいな。花火か・・・やるのか・・・。


「他に聞きたいことはないか? まぁうちらも考え始めたばかりだからあまり答えられることもないけどな」


 俺の質問以外に聞きたいことは特になさそうだ。まぁ慎と更科は生徒会の集まりでいつでも聞けるしな。あ、生徒会で思い出した。


「じゃあ一つ。俺の係、生徒会補佐係ってなんすか?」


「文字通りだよー」


「いや、俺に補佐できることって全くない気がするんですけど」


「そんなことないよー。ねー慎君、葵ちゃん」


「まぁそこは本人のやる気次第ってところですかね」


「私たちの経験ではやれと言われればやりますから」


 こいつら。俺をいいように使いやがって。覚えてろ。


「はぁー、わかりました。諦めます。やりますよ」


「ありがとー」


 あ、そうだった。たんぽぽ先輩事あるごとに抱きついてくる人だった。そんなわけで俺にも抱きついてきた。でも見えなかったからセーフ。いやー、見えないっていいな! でもなんか視線が冷たいのはわかる。


「それでは佐倉先輩、東雲先輩。私たちはこれで。ありがとうございました」


 更科が代表してお礼を言って二人との話が終わる。後ろからたんぽぽ先輩のバイバーイって言う声が響いていた。恥ずかしい。この人には羞恥心という感情がないのか? そして同じようにバイバーイって返す一条も一条だな。


 話が終わったところで待たせていた4人のところへ向かった。着くとなんか仲良さそうに4人で話していた。いつの間にこんな仲良くなったの? まぁ茶道部三人は言うまでもなくだが、七瀬馴染むの早いな。


「皆さん。来ましたか」


「何だよ。そんなに張りつめて」


 俺たちが来たとたん日向の声のトーンが変わった。ああ、七瀬の事か。


「お話したいことが二つあります。まぁ食べながらで」


「二つ?」


 一条はピンと来てないようだ。俺もそう。二つ? 一つじゃないの?

 適当な位置に座って食べ始めて少し


「では最初に七瀬さんについてお話ししましょう」


「はい」


 日向が指揮る形で話が進んでいく。


「まず、昨日精密検査をしました。その結果ですがやはり移植をした方がいいという結果が出ました。ですので明日から休学ということになります。すみません、せっかく仲良くなれましたのに」


「別に会えねぇわけじゃねぇだろ。安心しろ。お見舞いに行ってやるよ。みんなでよ」


 俺の言ったことに便乗する形でみんなが頷く。


「ありがとうございます・・・」


 感極まったのか七瀬は泣き出してしまった。こういう時ハンカチの一つでも出せればいいんだけどな。無力さに腹が立つ。何も出来ないこと。応援することしか出来ないことに。

 落ち着いたところで七瀬が話を続ける。


「入院は2週間ほどです。ですが経過観察が必要ですので学校に戻ってこれるのは夏休みまでに間に合うかどうかというところです」


「へぇ、もっと長いもんかと思ってたわ」


 俺の個人的な考えだが半年くらいは戻ってこれないのではと思っていた。文化祭も出れないのではと思っていたが出れそうだ。よかった。


「確か移植にはドナーと適合しなきゃいけないんじゃなかったかな?」


「はい、それについては私に適合するドナーは昨日時点で見つかりましたので問題はありません」


 佐藤のやつ何でそんなこと知ってんの? え? これって常識? まぁでも見つかったならよかった。ドナーについて一条に説明している更科の話によると自分に適合するドナーを見つけるのが一番大変らしいからとりあえずそこが乗り越えられてよかった。


「入院開始が明後日で手術が日曜日になります。その後集中治療室を経て一般病棟に移るのは火曜日以降になります。ですので・・・」


「わかった。面会オッケーになったら俺たちの誰かに連絡してくれ。その日の放課後にでも揃って行くからよ。あ、でも大所帯だと迷惑かかるな」


「まぁ光ちゃんは最初だろうな。後は部活ない人たちでどうするかだな」


 早くて水曜日。そして部活の無い人ってなると俺、渡、一条、更科の4人だけだな。あれ? 4人くらいなら行っても大丈夫じゃね?


「部活ない人たちだったらそんなに人数多くないから大丈夫だと思うけど。部活ない人挙手!」


 更科に先に言われた。まぁいいや。俺部活ないから挙手しとこ。


「4人でしたら大丈夫です。私から両親にも言っておきますので。ありがとうございます」


「雛たちも部活がない木曜日か金曜日にお邪魔していいですか?」


「もちろんです!」


 そのあとこんな感じになった。さっき手を挙げた4人が水曜日、運動部一行3人が木曜日、茶道部一行3人が金曜日という感じだ。あとはかえでも連れて行けるようだったら連れて行こう。


「じゃあ頑張れよ。俺たちで応援してっからよ」


「はい!」


 そう言って七瀬の頭を撫でてやる。今回は誰も何も言ってこない。俺たちにはこうすることしか出来ない。だからせめて、応援すること、願うことくらいはしてやろう。あと、帰って来てから今まで出来なかった話をいっぱいしよう。


「さて、七瀬さんのお話はこれで終わりです。次に二つ目の話、さーちゃんについてです」


「あ? 咲彩についての話?」


「はい・・・。やっぱり咲彩は慣れませんね」


「慣れろよ。他のやつもだからな。変な視線向けるなよ」


「あの、何の話ですか?」


 あ、昨日七瀬はいなかったな。説明するか。三姉妹いて紛らわしいから本田を咲彩って呼んでること。そして咲彩にそれを続けろって言われたこと。で、俺だけじゃ不十分という理由で更科に追加で説明された。何か言い方にトゲがあるのは気のせいか?


「え? 本田先輩のお姉さんってSAKU-KAYOのお二人なんですか?」


「ああそうだ。信じられねぇかもしれねぇけどな」


「それであんなに本田先輩の周りにいっぱい人がいたんですね。納得です」


「意外と普通な反応だな。ファンじゃねぇのか?」


「私もファンです。でも、その、あまりにも高すぎる存在で」


「わかる! その気持ち良くわかる!」


 ファン目線の柊だったらそう言うだろうな。でも俺は違う。全く別の意味で高い存在だと思っている。


「かな、ちょっと黙ってください」


「はぁ? 私今まで静かにしてたじゃない。だからちょっとくらいしゃべってもいいでしょ!」


「ではちょっとしゃべったのでもう一度静かにしてください」


「むきー!」


 何か柊がかわいそう。もうちょっと優しくしてやれよ。尾鷲も笑うなよ。柊を押さえてるのはいいとして。


「話を戻しましょう。昨日さーちゃんがSAKU-KAYOの妹と発表したことによって多くの人がさーちゃんのところに押し寄せることとなりました。今もです。それで7組に多くの人が来るようになりました。それはまぁいいです。ですが雛たちが困っているのは、さーちゃんに新たについた取り巻きの事です」


「取り巻きってすげー言い方だな」


「あー、その事ね」


 日向が話しているのを聞いて更科も思い当たることがあるようだ。取り巻きね。何か碌なことなさそう。


「その人たち、休み時間になると毎回さーちゃんのところに来るんだよね。しかも私たちが話しかけようとしたら『おい、なに気安く話しかけてんだよ。立場をわきまえろ立場を』って言われて追い返すし」


「はい、しかもその人たちは熱狂的なファンみたいで何も知らないやつが話しかけるなオーラをすごく出しています。特にもともと仲が良かった雛たちに対しては当たりが強いです」


 うわ、更科と日向のを聞いた感じだと絶対に面倒なやつら。出来ればかかわりたくない。しかも更科や日向に当たりが強いってことは俺たちもそうだよな。


「光ちゃん、嫌そうな顔すんなよ」


「あ? だって嫌なものは嫌なんだからしょうがねぇだろ」


 慎にバレるほど嫌な顔してたか。でも本当に嫌だ。絶対碌なことにならないのが目に見えている。


「その人たちって同じ7組?」


「いえ、学年は同じですがクラスは別です」


「3組と5組の人じゃなかったかな? 4人くらい」


「光ちゃん。どんどん顔悪くなってるぞ」


 同じクラスの事かと思ってたが別かよ。しかも4人。本当にかかわりたくない。七瀬、俺は別に体調が悪いわけじゃないから気にしなくていいぞ。でも水だけはもらっておこう。


「本田さん本人は嫌そうにしてるの?」


「顔には見せていませんけど良い気分ではないはずです。すごい窮屈そうにしていますから」


「先生に言えば万事解決じゃね?」


「言ったみたいよ。そのおかげで周りに来る人は少なくなったけど・・・」


 代わりに面倒な取り巻きがついたってことか。でもそれって俺たちが行って解決するようなことか? 余計に事態を悪化させるような気がするんだが。だって向こうは俺たちを敵対視してるんだろ。


「さーちゃんに言え! って言えば良いんじゃないの?」


「それで済んでいたらこんな面倒なことになっていませんよ。全くこれだからかなは」


「雛、良い度胸してるじゃない。その取り巻きのところに放り込んでやりましょうか」


「無駄ですよ。雛たちちびっこでは相手にもされませんよ」


「ちびっこってあんたよりは大きいわよ!」


 まぁラインで言うとかいろいろあるのだろう。でもそれで言ったとしてその人たちがもしSAKU-KAYOから離れることになったら少なからず迷惑がかかる。しかも昨今のSNSではいろいろ書き込みが出来るようで、妹はああだこうだって言ってSAKU-KAYOの評価を下げることもできるらしい。ネット誹謗中傷というとか。今の取り巻きたちがそれをやったらいろいろと問題だろうな。確かに、そうなると咲彩は自分から言い出すことが出来ないってのも頷ける。これは想像以上に面倒だぞ。


「何とかして解決してあげたいけどね・・・」


 何か佐藤がやる気だな。ははーん、そういうことね。でも解決法な・・・


「取り巻きに直接先生が指導するのは?」


「さーちゃんが先生に言ってないから無理。私たちが言ってもそんなの言いがかりですって言い返されて逆に私たちが怒られそうだし」


 慎の案はダメ。


「あの二人に助けを求めるのは?」


「さーちゃんのプライドが許さないでしょ。それに、連絡とる方法もないし」


 確かに姉二人に助けを求めるのは咲彩は嫌がるだろうな。俺の家で誰が立場一番上かで喧嘩したときも普通に自分が一番上だって言ってたし。ということで尾鷲の案もダメ。あ、そういえば


「連絡とる方法ならあるぞ。ここに」


 そう言ってスマホを出す。みんな一様に「え?」と返すが


「何か勝手に俺の番号がSAKU-KAYOの二人に登録されてるっぽくてな。金曜日向こうからこのスマホに電話来たし」


「光ちゃん、土曜日、本当に何があったの?」


「ずるい」


 いや何もねぇよ。何で携帯の番号持ってるだけでいろいろ言われなきゃなんねぇんだよ。しかも俺から登録してねぇぞ。向こうが勝手にやったんだからな。あとは絶対に母親が絡んでる。それと携帯の番号渡も持ってなかったのか。


「でもそれで出来ることも限られるよ。いくら卒業生とは言ってもこの学校には入れないし。SNSで呼びかけても限界はあるだろうし」


 そうだよなぁ。佐藤の言う通り直接解決とまではいかないだろうなぁ。


「はい! 風紀委員がビシッと言う!」


 俺知ってるぞ。途中からうーんって唸り声あげて渡にいろいろ聞いていたの。でもようやく話に追い付けたか。でもそれもなぁ。


「一風紀委員が言うのは無理があると思うな。委員長クラスになれば言えるかもだけど学年違うもんなぁ」


 ほかでもない風紀委員の尾鷲によって否定された。それともう一つある。委員長であれど生徒だ。先生が指導するよりも説得力に欠けるというか、インパクトに欠けるというかまぁそんな感じだ。そうなるといよいよもって案がなくなってくるな。


「とりあえず何日か見てみるのはどうだ? 自然消滅って線もあるだろ」


「でもあれだと消滅しなそうな感じなんですけど」


「しなかったらしなかったで俺たちが消し去ればいい」


「その様子だと何かあるようだね」


「まぁな。でも誰かが犠牲になる必要があるっていう条件付きのな」


「言ってもらえるかな?」


 俺が考えた案。あまり使いたくはないが多分一番効果がある。


「作戦名、取り巻きの座奪い取り作戦だ」


「なにそれ?」


 更科、呆れた顔してるのがわかるぞ。尾鷲、笑うところじゃないぞ。七瀬、さすがですって拍手するのはまだ早い。


「どっちが咲彩の取り巻きとしてふさわしいか対決する。まぁ対決ってのはただの名目だけどな。あいつらは熱狂的なファンなんだろ。でもそいつらでも知らねぇことを俺たちは知ってる。そうしてマウントをとりまくって座を奪うって寸法だ。当然向こうも反抗してくるよな。だったらこっちも反抗するまでだ。さんざん言ってやればいい。俺たちが言うのは事実であって悪口じゃないからセーフだ。それを先生に言われた時のために二三日観察した結果を証言として先生に言う。もしくは録画するでもいい。まぁ最悪ファンじゃなくなって炎上させてもあの二人だ。ちょっとくらい炎上しても大丈夫だろ」


「どこからそんなすごい事思いつくんですか?」


「俺の長年の経験から得たものだ。だがこれは喧嘩売ることにもなるから誰かが犠牲になる必要があるってのが難点だな」


 まぁこれについては俺が適任だろう。悪口罵倒くらいだったら言われ慣れてるし、向こうが手を出して来たら一方的に向こうのせいに出来る。


「それは却下」


 あら、否定されちゃった。


「確かに、僕も賛成できないな。その犠牲役って光ちゃんでしょ?」


 見抜かれてたか。更科と佐藤には通じなかった。


「ダメです! 光ちゃん先輩が犠牲になるなんて!」


 七瀬にも否定された。あー、そうだ。七瀬や慎のことを考えてなかった。


「わかったよ。あくまで案だ。やらねぇ方がいいだろうな」


「そうだぞ。俺もそれには賛成できない。でも観察するのには同意だな」


「はい、まだあの人たちが悪って決まったわけではないですから」


「そうね。さーちゃんの方も気になるし」


 というわけで数日観察という結論になった。あまり大事にならなければいいが・・・


× × ×


 放課後、俺たちはアトリウムにいる。部活に行くはずの面々も一緒だ。


「すみません。遅くなってしまって」


 俺たちが待っていたのは七瀬だ。まぁいったんお別れって形になるからな。クラスのみんなにいろいろ挨拶していたのだろう。それと親も来ているようで今日は一緒に帰ることが出来ない。というわけでここに集まって話しようということになった。本当だったら咲彩やかえでもいてほしかったが。


「皆さん。あの・・・」


「ちょっと待て。先に俺たちからでいいか?」


「は、はい!」


「よし、じゃあ一条から」


「え⁉ 私から⁉」


 何で七瀬から言うのをやめさせたかはまぁこうだ。言わせないという理由がある。一条を最初に選んだのは・・・俺の気まぐれだ。


「こほん、奈々ちゃん。絶対、絶対戻ってきてね! 応援してるから! はいわたりん!」


「がんばって! わたしたちがいるから! もどってきたらいっぱい、いっぱいおはなししよ! あお!」


「ちょっと待って! ぐすっ、絶対帰ってきてね! 待ってるからね! ひなっち!」


「皆さん、語彙力が壊滅的ですよ。まぁいいです。雛たちは七瀬さんが帰ってくるのをここでずっと待っています。待ち続けます。今回は皆さん揃っていませんけど次会うときは揃ってです。さーちゃんもかえかえさんもです。頑張ってください! 瀬戸さん」


「よし、奈々ちゃん頑張ってな。帰ってきたら光ちゃんの幼馴染ってなわけで、みんなの知らない光ちゃんのあれやこれやを教えてあげるからな。それともう一つ、これ、光ちゃんの携帯の番号な。というわけで次は健ちゃん」


「僕たちが出来るのは応援くらいしかないけど、その中でも精一杯の応援をするからね。ごほん、フレー! フレー! 七瀬さん! 頑張れ頑張れ七瀬さん! からの柊さん!」


「え? あ、私? 絶対に病気なんかに負けんじゃないわよ! 負けそうだったら私たちを思い出しなさい! もうこれ以上は無理! ふららんパス!」


「・・・ふぅ、奈々ちゃん、頑張れ。私から言うことはそんなにないかな。あとは彼氏さんが言ってくれるでしょ。ということでパス」


「ちっ、言いたい放題だな。それがこれから入院するやつにかける言葉かよ。まぁいいや、いつも通りこんなグダグダな連中だが。みんな一様に七瀬の回復を祈ってる。だから、絶対に帰ってこい。俺たちに元気になった姿を見せろ。あ、でも俺は見えねぇな。まぁいいや。もし手術前でも後でも寂しくなったりしたらさっきもらった番号に電話でもしとけ。多分ここにいる誰かは出るだろうから。あとは、俺との約束忘れてねぇよな? 絶対に守れよな。俺も守るからよ」


 一人一人言っていって最後に俺が言う。七瀬の声からして俺の目の前にいるのはわかっている。だから


「だから、勝て! 負けは許さねぇ。これが最後なんて嫌だからな。俺を支えるんだったら勝って誠意を見せろ。あと、さようならも今までありがとうございましたも言わせねぇぞ。また会うんだからな」


 なんか後半から叱咤激励みたいな感じになってしまったがそれでも言いたいことは言えた。七瀬の頭を撫でてやると


「は、はい・・・。頑張りますぅ!」


 撫でた俺の手を両手で持って握手みたいな形になった。それに俺は微笑み返し他の人たちは笑みを浮かべ、涙を流して、送り出した。


× × ×


 家に帰って夜七瀬から電話がかかってきた。


“あの、光ちゃん先輩”


「ああ、光ちゃん先輩だ。ちょっと待ってろ。今かえでに代わるから」


 そう言ってかえでの部屋に行きドアをノックする。


「何?」


「七瀬からだ。何か言ってやれ」


「うん」


 そして電話を渡して自分の部屋に戻る。壁越しにわずかだけど話し声が聞こえてくる。何か話し盛り上がってそうだな。

 多分5分くらい経っただろう。かえでが俺の部屋に入ってきて電話を渡してきた。


「代わったぞ。話したいことは話せたか?」


“はい、ありがとうございます。私、こんなに皆さんから応援されたことありませんでした。今まで私に向けられていたのは奇異の眼差しでした。でも、皆さんからはそんな感じが全くしませんでした。一人の親友として目を向けてくださりました。本当に、本当に嬉しかったです。ふぅ、私、頑張ります!”


「おう、頑張れ。またな」


“はい、また”


 そう言って電話が切られた。また、か・・・


「七瀬さん、大丈夫、だよね?」


「俺たちが心配してどうすんだよ。一番心配なのは七瀬なのによ。だから俺たちは俺たちに出来ることをするまでだ。応援して、迎え入れる。これくらいしか出来ねぇけどな」


「うん。わかった」


 そうだ。今の俺たちに出来ることは限られている。だからできる精一杯のことをすればいい。七瀬の心の支えとなる。全力でな。

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