本田家 今日はSAKU-KAYOが主役

本田家 今日はSAKU-KAYOが主役 - 61日目 -

 今日は土曜日です。本当だったら一日ゆっくりとなるはずですがそうはなりません。なぜか、それはあと少ししたらわかります。

 かえでもいつもより早く帰ってきて、いや、多分部活終わって速攻で帰ってきたんだろうな。めっちゃ息切らしながら家入ってきたし。


 家のインターホンが鳴って母親が元気よく迎えに行った。


「あ、どうもー。ご無沙汰してますー」


「いえいえこちらこそ。お招きありがとうございます」


「ちーっす」


 SAKU-KAYOの二人が降臨した。本当に来たよ。


「あ、光ちゃんとかえでちゃん久しぶりー」


「どうもです」


「おおお久しぶりです!」


 何だよかえで。めっちゃ声震えてるぞ。まさか緊張してんのか?


「おいかえで。本当に大丈夫か?」


「は、はい! この通り!」


 夏夜さんが心配するのも珍しいが完全に調子を狂わされているかえでも珍しい。果たしてかえでの身は保つのだろうか。


「じゃあまずは、はいこれ。運動会で活躍したご褒美ね」


「あ、あ、あいがとございますぅ!」


 かえで言えてねぇし。ていうか泣くの早すぎだろ。何で運動会の時あんな普通にしてて今こんなダメダメなんだよ。


「何渡したんですか?」


「私と夏夜の直筆サイン色紙よ。サインの他にもかえでちゃんがゴールした時の絵とか描いてるからね」


「家宝にしますぅ!」


 そんな大げさな。言ってもただのサイン色紙だろ。まぁかえでに向けて書いているからお宝っちゃお宝だけど。そのうち神棚に飾られていそうだな。


「それと、光ちゃんとお母様にはうちの咲彩がお世話になっております」


「いえいえー。私はただの世話好きだから気にすることないわよぉ」


「ただの? 重度の間違いだろ」


「どっちも大して変わらないわよぉ」


 いや変わるだろ。そして俺と母親の掛け合いを見て咲夜さんクスクス笑ってるし。


「それにしても二人して大きいわねぇ。てっきりハイヒールとかで盛ってるのかと思ったけどぉ。ドアのところとか頭ぶつけちゃわないように気をつけてねぇ」


「すげー失礼なこと言ったな」


「はーい。気をつけまーす」


 そう言ってる俺ももしかしたらと思ってたけど母親の口からそう言われて改めて背が大きいのを実感した。


「おい! あの部屋なんだよ!」


 なんかさっきから足音してたなと思ったら夏夜さんがいきなりこっちに走ってきた。


「あー。あそこはうちの旦那の筋トレ部屋よぉ。今は光ちゃんやかえでが使ってるかなぁ。使いたかったら使ってもいいわよぉ」


「マジか⁉ アタシここ通うわ!」


 そう言うと夏夜さんはまた走って行った。この人は・・・


「すみません。夏夜はああいうのに目がなくて」


「あれに目がないとか・・・。いやそうじゃない、家の中勝手に見て回ってるし」


「何光ちゃん。今に始まったことじゃないでしょー」


「言っとくがこれおかしいからな。それと通うのも無しだからな」


 そうだ。感覚が麻痺しているようだが普通はないからな。勝手に家の中歩いて回るとか。あれだよ、幼稚園生とか小学生がやることだよ。


「さてと、夏夜はしばらく出てこないでしょうからお話でも始めましょうか。何が聞きたい? 私や夏夜の事でもいいよ」


 二人の事・・・すげー気になる! 聞きたい聞きたい聞きたい! でもここは抑えて———


「お二人のことでお願いします!」


 かえでに横槍を入れられた。さっきまでずっと感極まってたのに。今度はぐいぐい行くな。


「はーい、じゃあ私の事から話しますね」


 そのせいで文化祭の話ではなく咲夜さん、夏夜さんの話へと変わった。まぁいいや。俺も聞きたかったし。


「まず私は21歳で、身長183センチ、体重は59キロで・・・」


 あれ? これ聞き覚えがあるぞ。


「スリーサイズは———」


 やっぱりだ。かえでの運動会の時に聞かされたのと同じだ。あの時はココママに止められたんだよな。でも今度は止める人がいない。だってかえでは超熱心に咲夜さんの話聞いてるし、母親は絶対にそんなことしないだろうし。こうなったら俺が自分で耳を塞ぐしかない。


「光ちゃん。どうして耳塞いだの?」


「いや、俺が聞いていいようなことじゃないでしょ。今のかえでを見てくださいよ」


「わ、すっごく睨んでる」


 やっぱり、話は聞くけどその辺はわかっていたようだ。耳塞いでてよかった。


「じゃあ私の高校生活からね。私、勉強はかなり出来たほうだけど運動は全然。多分夏夜や咲彩に持って行かれちゃったのね」


「それ持って行かれたんじゃないですよ。咲夜さんが置いて行っただけですよ」


「あ、確かに。でも頭は私が取ったから」


 我ながら良い事言ったと思う。現に母親が腹抱えて笑ってるし。これ尾鷲が聞いたらどうなっていただろうか。


「それが功を奏して? なのか夏夜のおかげ? かはわからないけど成り行きで文化祭の実行委員長になっちゃったの。確かスローガンは・・・『みんなが主役の文化祭! 飽きるほど楽しめ!! 飽明あきあきフェスティバル!!!』だったかな」


「めっちゃいいスローガン。パクりたい」


 それもそうだが自分語りと称してさりげなく文化祭のことを入れてくる咲夜さんすごいな。たしかに、これならただの独り言だな。もしかしたら咲夜さんはトップクラスの成績なのかもしれない。


「あとは一応慣習として一年生が『調べる』、二年生が『創る』、三年生が『提供する』っていうルールがあったわね。それで各クラスが企画書を私のところに持ってきたんだけどいろいろあったわね。中には実現できないようなものもあったわ。どんなものがあったかなー。あ、そうそう。一年生ですごかったのは地球儀作ったクラスがいたわ。しかもちゃんと回るやつよ。二年生は規模がすごかったわ。お化け屋敷はもちろん、動画作成、劇、カジノもあったわね。そして三年生は夏祭り、喫茶店が中心だったわね」


 なるほど、『創る』か。でも咲夜さんの挙げたものがすごいな。カジノってなんだよ。俺たちは二年だから『創る』を中心に考えなきゃならないのか。


「他にも部活で出し物をしていたところもあったわ。例えば茶道部は着物喫茶、吹奏楽部はコンサート。バンドは同好会もあれば即興のところもあったわね」


 茶道部が着物喫茶? あの三人が着物着て喫茶店やるの? 想像できない。やっていけるのか?


「その中でも生徒会と連携してやったものがすごかったけど、あれって今も出来るのかなぁ?」


「何やったんですか?」


「花火上げたのよ。前夜祭と後夜祭の時にね。でも音が大きかったから騒音の問題とかね。本当に大変だったのよ」


 花火か。でも運動会で上げて大丈夫なんだから田んぼの中にポツンとあるうちの高校なら大丈夫なんじゃないの?


「あ、花火って運動会の時に上げるようなものじゃないよ。ほら、花火大会とかで打ち上げるあれね」


 全然違かった。え? そっち上げたの? よく許可下りたな。あれ? でも去年上がったか? 記憶にない。


「今年楽しみだなー。私も時間があれば行ってみようかしら」


「え? 本当に来るんですか?」


「かえでちゃんの運動会に行ったんだからそっちも行かないとね。かえでちゃん、私たちと一緒に行く?」


「いいいえいえ! そんな、お二人と一緒なんて、おお畏れ多いです!」


 どうやら本当に来るようだ。運動会の時はただの冗談かと思ってたけど。


「ちなみに聞きたいんですけど。咲夜さんが委員長だった時最優秀賞とかを取ったクラスって何出してました?」


「うーん。ごめん、ちょっとそれは言えないかな。でもヒント! さっき私が挙げた例の中にあるよ」


 なるほど、じゃあ最優秀賞を取ったのは地球儀作るかお化け屋敷、動画作成、劇、カジノ、夏祭り、喫茶店のどれかをやればいいのか。これは選択肢が絞られたと言っていいのだろうか?


「さて、じゃあここからは夏夜の話しましょうか」


 これでいったん話が終わった。まぁ聞きたいことは聞けたな。あとは俺たちがどうするかってことだな。でも今日のことは他の人に言うなって言われてるし。あくまで俺の考えってことでクラスで言うか。


「夏夜は学校では有名人だったわね。あれでも丸くなった方なのよ」


「マジっすか」


 あれで丸くなったの? じゃあ高校の時どうだったの? 俺が聞いた話だと確か咲夜さんに話しかけてくる人に対して誰彼構わずガン飛ばしてて先生にもタメ口。ほぼ毎日怒られてる。先生じゃどうにもならないから咲夜さんに何とかするよう助けを求めた・・・。あー確かに、そう思ったら丸くなったな。


 その辺の話をあの時いなかった母親やかえでにもしてその反応は


「夏夜ちゃんすごいわねぇ。一時の光ちゃんが随分かわいく思えてくるわぁ」


「今の私のクラスでもそこまですごい人はいません」


 一時の光ちゃんとはおそらくあの事件前後のことを言っているのだろう。まぁあれが常時続いていたと言えば早いか。そうなれば俺かわいいな。それとかえでの言うすごいとは何に対してのすごいなのか? 悪いほうでなければいいのだが。


「でもこれは序の口よ。夏夜は高校生までにいろいろなところで伝説をいくつも作ってるから」


「伝説ですか・・・」


 伝説と聞いて本田・・・紛らわしいな。本田咲彩を思い出したがそっちも十分すごかったぞ。ちょっと思い出してみよう。

・体力テストや体育、運動会はぶっちぎりの1位。例えば台風の目って競技があったが周りを置いて行って一人棒を持ってゴール。リレーで最下位から1位までごぼう抜き。持久走では男子相手に周回差。

・いじめっ子の男子がいたらしいがそれを返り討ちにした。束になってかかっても勝てない相手。

・髪ボサボサ事件は何度かあった。寝坊に限らず単に忘れたとかもあったとか。

・生徒会や学級委員の推薦もあった。本人は断ったみたいだが。学力の面ではなくこの伝説を耳にした人たちによるものだったとか。

・体育でけがをした生徒をお姫様抱っことおんぶを同時にして運んだことがあるとか。

・そして高所恐怖症とおばけ嫌い。やばっ、噴き出しそうになった。

(37日目より抜粋)


 これ超えるのか? だとしたら夏夜さんは何だ? 神か?

・体育はやっぱり1位。そうだと思ったがすごかったのが中学や高校の部活体験期間中に全部活行って全女子選手を打ち負かしたとか。例えばテニス部の先輩に勝って、卓球でスマッシュ決めまくって、バスケはドリブル3ポイントどっちも一流、バレーのサーブスマッシュもえげつない。バドも同じ。陸上は全種目圧倒、サッカーは男子相手にドリブルで抜いてシュート。野球も男子選手相手に長打打ってる。水泳も全泳ぎめちゃくちゃ早い。柔道は男子選手を投げ飛ばし、剣道も圧勝。

・球技大会でもあまりにも強すぎて「壊し屋」という異名までついた。トーナメントで番狂わせを起こすから。あと学校のものもよく壊すかららしい。

・学校のものという話が出てきたが夏夜さんは高校在学中に机を3回壊したらしい。何をどうやったらあんなものを壊せるのか?

・遡って小学生。男子がよくやりがちなスカートを上げるといういたずらだが夏夜さんはそれをやった相手に仕返しという意味でズボン引きちぎったらしい。やられた生徒は当然号泣、更生は出来たようだがやり方が・・・

・いじめは放っておけないらしく起きるたびに介入、介入でいつしか夏夜さんの周りでいじめはなくなった。

・これ聞いて結構すごいと思ったがなんと教室で下着姿になったことがあるらしい。何がどうなってそうなったかというとある男子が俗に言うエロ本を持っていてその話をしていた。そして、陰キャ女子に下着になれよみたいな感じで言ったらしいのだ。まぁこれも立派ないじめだよな。それを放っておけるはずがない夏夜さんはじゃあアタシがなってやるよみたいな感じで本当に脱いだらしい。そのうえで威圧しまくってそのいじめはなくなったらしい。

・下着で言うと家では基本下着姿でプラプラしているらしい。せめて一枚着ろよと言いたいところだがそれを言う家族がいないようだ。これを許容している本田家はやっぱりいろいろおかしい。

・文化祭でもやらかしている。自分のクラスと同じ出し物をしていた他クラスに殴り込みに行ったらしい。まぁ結果は咲夜さん、クラスの人、先生みんなに止められて事なきを得たらしい。

・・・


「一つ質問良いですか? 夏夜さんは人間ですか?」


「光ちゃんは見えないからわからないと思うけどちゃんとした人間ですよ」


 なんか咲夜さんの苦労がよーくわかった。本田咲彩も十分すごいと思っていたが夏夜さんはもはや次元が違う。これよく警察沙汰にならなかったな。


「かえでちゃん。私から言わせてもらうけど、絶対に、ぜーったいに夏夜みたいになっちゃダメよ」


「は、はい!」


「なろうとしてもなれませんよ」


 良い意味でも悪い意味でも夏夜さんみたいには絶対になれない。もしかえでがそうなったら・・・いや、考えたくもない。


「ふーん、咲夜ちゃん。下に世話のかかる子がいると大変よねぇ」


「そうですねー」


「おい、世話のかかる子って俺の事言ってるだろ。否定はしねぇけど」


「お母さん、私もいるんだけど」


 母親は俺とかえでの二人を敵に回した。まぁ元から敵みたいなものだが。


「でも夏夜もいいところあるのよ。ちょっと空回りしちゃうことが多いだけで」


 あ、俺分かったわ。多分本田家の両親と咲夜さんは夏夜さんに甘いんだわ。だからあの伝説が生まれたんだわ。


「かえで、わかったか? これがSAKU-KAYOの正体だぞ。全国のSAKU-KAYOファンに聞かせてやりたいわ」


「咲夜さん! 大丈夫です! わ、私はそれでもSAKU-KAYOのファンですから!」


「うぅ、ありがと。光ちゃんと違ってかえでちゃんは優しいのね」


「さすがモデル。演技も一流でッ!」


 かえでに思いっきり叩かれた。昨日より痛い。ていうか最近かえでが暴力的になってる気がする。


「さてと、他に聞きたいことある?」


 叩かれた頭をさすりながら何を聞こうか考える。せっかくの機会だ。いろいろ聞きたいとは思っているがいざとなると何を聞こうか全然出てこない。


「はぁー疲れたー。あぢー」


 そうしていると筋トレを終えたのか夏夜さんが帰ってきた。


「ずいぶんと頑張ったようねぇ。どうする? シャワー浴びてくぅ?」


「マジ⁉ いいのか⁉」


「汗かいたままじゃ気持ち悪いでしょう。ほらほらぁ。はい脱いでー。洗濯しちゃうからぁ」


 え? 本当に入るの? これ大丈夫なの? 俺いるよ?


「光ちゃーん。夏夜ちゃんに服貸すけどいいわよねぇ」


「何で俺なんだよ」


「だって夏夜ちゃんと同じサイズの服持ってるの光ちゃんしかいないからぁ」


「はぁー・・・」


 もう勝手にしてくれ。俺は知らん。


「夏夜もそうだけど二人のお母さんもなかなかね」


「すみません。本当にすみません」


 ほら、かえでが謝っちゃってるよ。親としての面目丸つぶれだよ。ここまで来たらどっちが親かわからない。シャワーの音してるし。マジで入ってるよ。


「そういえば本田・・・咲彩も部活終わってるはずですよね? どう言ってここまで来たんですか?」


「普通に光ちゃんとかえでちゃんの家行って来るねーって」


「それであいつは何も言わなかったんですか?」


「言ったわよ。いってらっしゃーいって」


「すみません。質問をした俺が馬鹿でした」


 俺はもう本田家を普通の家と捉えないことにした。天才と馬鹿は紙一重という言葉があるがこの家族はどっちなんだろうか?

 まぁでもこれで聞きたいことは全部聞けたか? あ、そういえば


「じゃあ別の質問をします。運動会の時・・・いや、やっぱやめておきます」


 聞こうと思ったけどやめた。運動会の時も一回聞いて言えないと返された。環境が変わったとはいえ多分話してはくれないだろう。


「そっか。かえでちゃんからは何かある?」


「あの、じゃあ、えっと・・・」


 その後静かな時間が流れた。静かとは言ったが片隅では洗濯機の音、シャワーの音がしている。あとは何か二人が反応している声か。これはあれだよな? スマホのメモ帳みたいなの使って会話してるだろ。絶対に俺にわからないようにするって意図が見える。しかもこの場には母親もいない。母親に聞かれないようにする意図もあるのか。おーい、俺を置いていくなー。

 しばらくして


「あ、ありがとうございました! 頑張ります!」


「うん! その意気! あ、そうそう。これあげるわ」


「は! ここここれは!」


「私と夏夜のファースト写真集でーす。ち・な・み・に、まだ発売前だからみんなに見せちゃダメだよ」


「家宝にします!」


 うちの家宝がまた一つ増えた。これちゃっかり宣伝してるだろ。俺は買わねぇからな。そもそも見えねぇし。


「いやースッキリしたー」


 夏夜さんが出てきた。あの、ここ夏夜さんの家じゃないですよ。


「夏夜、下履いてよ。ここにいるのは女の子だけじゃないんだから」


「あ? 別にいいだろ? ほら、見えてねぇんだしよ」


「そう言う問題じゃないわよ・・・」


 は? 下履いてないの? でもさすがに下着は着てるよな? 要するにあれだよな? 下着の上から半袖かなんか着てるだけでズボン履いてないってだけだよな? でもその下着って今洗濯中・・・


「痛い痛い痛い!」


「お兄ちゃん黙って!」


 見えてねぇっていうのにかえでからきっつきつの目隠しをされた。これされていつぞやの一条を思い出した。これでわかっただろ。あの時は誤解だって。めちゃくちゃ痛い。一条の時より強い。


「アハハ! ざまぁねぇな!」


「誰のせいだと思ってんすか・・・」


 100%夏夜さんのせい。俺何も悪くない。何でここまで一方的なやられ方しなきゃなんないの?


「みんなー。私ちょっと買い物行ってきちゃうからお留守番よろしくねぇ」


 おーい。俺とかえではともかくSAKU-KAYOの二人も置いていくのか。一応有名人だぞ。どういう扱い方してるんだよ。


「ほんとすんません」


 一応謝っておこう。あの母親の自由奔放っぷりはマジで謝罪案件だ。


「ふふっ、お互い大変ね」


「全くです」


 多分横ではかえでが頷いてるか顔赤くしてるだろう。全く恥ずかしいったらない。来客中に買い物行くとか。礼儀以前の問題だ。


「じゃあお母様が帰ってくるまでお話の続きをしよっか。夏夜」


「あ?」


「私じゃなくて夏夜に聞きたいこともあるでしょ? さあどうぞどうぞ」


 夏夜さんに聞きたいことか。多すぎる。でもちゃんと答えてくれるか心配だな。でも最初はこれかな。


「じゃあ俺から。夏夜さんって苦手なスポーツあるんすか?」


 多分かえでも気になっていることだろう。


「あんなぁ、アタシを何でもできる天才肌と勘違いしてねぇか?」


「違うんすか?」


 夏夜さんみたいなのを天才肌と呼ばずに他に何て呼ぶんだ?


「ちっ、アタシにもできねぇのはある。例えばマラソンだ。42.195キロあんだろ? アタシには走れねぇよ」


 ということは夏夜さんは持久力がないということか。よかった。夏夜さんにも苦手なものがあって。


「途中で飽きるからなぁ。景色とか見てもちっとも面白くねぇしよォ」


 理由が違かった。それ苦手って言わない。嫌いって言うんだよ。言ったら反抗されそうだから黙っとこ。

 でもこれでわかった。やっぱり夏夜さんは天才肌、しかもとびっきりの。


「あそうだ! 思い出した! 毎年1月にマラソン大会ってあるでしょ。夏夜ね、途中までずっと1位独走してたんだけどね、飽きたって言って突然歩き出したのよ。それで先導の先生びっくりしてたの思い出したわ」


 もう何も言えねぇよ。夏夜さんの思考回路は俺たちと違う。そういうことにしておこう。


「飽きたんだからしょうがねぇだろ」


「優勝のチャンスを飽きたって理由で無駄にしたんですか・・・」


 これ体育の先生や特に陸上部の人が聞いたらどう思うだろうか? 殺されるぞ。でもそれをカウンターでやり返すのが夏夜さんだ。もう手に負えねぇじゃん。かえでなんかもう声すら出してないし。


「ほんとすごいわよ。私なんか最後尾の方ではぁはぁ言ってたのに」


 咲夜さんには夏夜さんがやらかしたことがわかっているようだ。そら反感買うよ。女子全員敵に回すって言っていいレベルだよ。でもそれも返り討ちにするからな。もうあれじゃね? 校長より立場上なんじゃねぇの?


「あ? アタシに対する文句かァ?」


「文句の一つも言いたくなるわよ。私がどれだけ苦労したか」


「あァ? アタシもさく姉が高校の時苦労したんだからなァ」


「私ほどじゃないでしょ。私知ってるんだからね。夏夜、全運動部に幽霊部員として登録されてたでしょ。確かに部活体験のときにあれだけ暴れればスカウトも来るでしょうね。で、どうしてもってときは呼んでくれとか言って登録させて。私がその後全部活回って頭下げることになったんだからね」


「グッ・・・。じゃあアタシも言いたいこと言ってやるよ! さく姉高校三年間で何通ラブレター受け取ったよォ? 398通だぞ。それ送ったやつらをさく姉に近づけさせねぇよう必死だったんだかんなァ!」


「だからって私について回る必要なかったじゃない。番犬か!」


「ってぇなァ! デコピン返ししてやる!」


「ったぁ・・・! そうよ! 私がもらったバレンタインチョコ! 全部食べたでしょ! 私宛にもらったのに、しかももらったその場で!」


「あれも近づけさせねぇための策だっつーの! 頭いい癖にそんなこともわかんねぇのかよ! しかもその相手生徒会長だったじゃねぇか! ダメだ。あんな仏頂面。アタシが許さねぇ」


「義理よ義理! 本命なわけないじゃない」


「受け取ったラブレターの中にあのクソ会長のもあったの知らねぇのかよ!」


「知るわけないじゃない。夏夜が全部破っちゃったんだから。その中には夏夜宛てのもあったのに」


「あるわけねぇだろ。あれは・・・そう、偽装工作だ! アタシの名前書いて中身はさく姉宛てのものだったんだっつーの!」


「何でそんな回りくどいことしなきゃならないのよ!」


「知るか。送ったやつに聞いてみるんだな!」


 何だこれ? 姉妹喧嘩? 何でここでやるんだよ。俺とかえでいるのわかってる? しかもどさくさに紛れてとんでもないこと暴露してるし。全運動部に幽霊部員として加入? ラブレター398通? バレンタインチョコを取り上げてその場で食べる? 生徒会長からラブレターをもらった? ラブレターを全部破った? なんつー応酬合戦。これ聞いていい内容なのか・・・。とりあえず事態を収拾させよう。とはいえ俺とかえでじゃ多分無理だ。ということで隣にいるかえでを呼んで


「このままだと収拾つかねぇから本田を緊急招集しろ」


 小さい声でそう言う。かえではそれに「うん」とこれまた小さい声で応じた。あとは本田が来るまでこの応酬合戦に耐えるだけ・・・。


「それだけじゃないわ。夏夜、私に毎回宿題押し付けてたでしょ!」


「あんな面倒なのやってられっかよ。あれだ、適材適所ってやつだっつーの」


「何が適材適所よ。都合のいい言葉ばっかり覚えて。おかげで倍やらなきゃならなかったんだからね!」


「そういうさく姉も体調悪いってごまかしてちょくちょく体育休んでたろ。アタシの情報網舐めんなよ」


「どこから聞いたのよそんなこと・・・」


「休んでー? 保健室行ってー? そこで何してたー? さく姉」


「ちょっ! 絶対に言わないでよね! もし言ったら夏夜の恥ずかしいことも言うからね!」


「アタシにそんなことはねぇよ。はっ! ざんねーん」


「私知ってるわよ。勉強合宿! 一日目! 夜!」


「おいさく姉、それ以上言うなよォ? 言ったらどうなるかわかってるよなァ?」


 いったい何を聞かされているのか。それとこの何とも言えない緊張感。早く本田来て!

 ピンポーン。おお! これはまさか!


「お邪魔します」


 来てくれた! 救世主! 早いな。自転車走らせてきたのか? まぁいい。この状況を何とかしてくれ。


「さく姉、かよ姉。かえかえから聞いたぞ。何で喧嘩を?」


「だって夏夜が!」「だってさく姉が!」


「はぁ、とにかく、これ以上口げんかするのはやめだ。もしするようだったら、今ここで二人の秘密をばらす。そうだな・・・ああ、あれがあったな。私が小学三年の時の夏———」


「咲彩!」「絶対に言うなよォ!」


「それじゃあお互い謝罪だ、はい」


「ごめんね、夏夜」「悪かったよ、さく姉」


 おお! 絶対に止まらないと思ってた喧嘩が止まった! 本田マジスゲー! あー、紛らわしいな、ここに本田が三人いるから。でもとにかくスゲー。


「あの、ちょっといいっすか?」


「何? 光ちゃん?」


「今まで言ったことって全部実話ですか?」


「ええ、実話よ。ごめんね。二人に見苦しいところ見せちゃった」


「マジっすか・・・」


 全部実話だったとは・・・。じゃあこれ以上言うなってところはあれか。禁忌とか放送倫理上問題があるってことか。本田家怖い。


「でも二人は気づかなかったようね。私と夏夜、演技してたことに」


「は?」「え?」


 俺とかえでが揃って首を傾げる。演技? 何が?


「くふふっ、見事に騙されてんでやんの!」


「はぁ、光ちゃん、かえかえ、悪いな。さく姉もかよ姉もこんな性格で」


「俺全然わかってねぇんだけど」


「私と夏夜がしてた口げんかだけど、言ってることは本当。でも喧嘩は演技だったのよ。気づかなかった?」


「見えねぇ俺が気づくわけないでしょ」


「す、すごいです! 本当に喧嘩してるように見えました!」


 全くこの二人は、俺だけでなくかえでも嵌めるのか。ていうかかえで、何感心してるんだよ。はぁ、余計な心配したわ。こうなったら


「俺とかえでを嵌めたんですからそっちも覚悟できてますか?」


「え?」「はぁ?」


 仕返ししてやる。咲夜さんと夏夜さんを見習うように。


「さっき言いかけた秘密、教えてもらえませんか? 咲夜さんは体育サボって保健室で何してたんですか? 夏夜さんは勉強合宿の一日目の夜、何をやらかしたんですか? 教えるまでうちから帰しませんよ」


「す、すみません。私も、その、知りたいです!」


 かえでもなんか乗ってきている。俺の意図を把握したのか。それとも単に知りたいという欲求が勝ったのか。まぁどっちでもいい。


「私たちが秘密をそう簡単に教えると思う?」


「はっ! 帰さねぇんだったら無理矢理帰るまでだ!」


 でもそんなんでいいのかな? 咲夜さんが言わなくても、夏夜さんが無理矢理帰っても


「ああ、その事か。さく姉はその時保健室でこっそり●●●●していて、かよ姉は調子乗って全裸で寝て次の日風邪ひいたんだったな」


「ちょちょちょ! 咲彩! 何で言っちゃうの!」


「おい咲彩、何言ってくれてんだ? あァ⁉」


 うわ、絶対に聞いちゃいけないやつだった。特に咲夜さんのはピー音で隠さないとやばいやつだと思う。俺そういうの疎いからよくわかんねぇけどこれだけは言える。俺とんでもねぇこと聞いちゃったよ。二人からしてみれば最大の恥さらし。しかもそれを末っ子にやられたのだ。何て言えばいいだろ・・・よくやった咲彩!


「さく姉とかよ姉が二人をからかったからだ。もしこれ以上するなら更なるとっておきを話すが?」


「それだけは言わないで!」


「いいか? 絶対に言うなよ? アタシたちのメンツにかかわるからなァ」


 もう今日一日でだいぶメンツつぶされたと思うんだが。あとかえでのSAKU-KAYOに対する評価も多少下がったと思う。


「いい? 光ちゃん、かえでちゃん。今日聞いたことは絶対に、ぜーったいに誰にも言わないでね」


「もし言ったらどうなるか、わかってるよなァ?」


 言った方が面白そうだがあまりにもリスクが高すぎる。この二人だけならまだしも、いや、ダメだ。この二人相手でも勝てる気がしない。最悪全SAKU-KAYOファンを敵に回すことになる。そうなったら冗談抜きで殺される未来しか見えない。リアルでも社会的にも。


「言いませんよ。ていうかこんなこと言えませんよ。言ったら俺が色んな意味で抹殺されますから」


「わ、私も言いません! 誓います!」


 まぁとりあえず落ち着いてよかった。あれ? よく考えたら今回得してるのって俺とかえでだけじゃね? 咲夜さんと夏夜さんは大損してるよな? だって評価めっちゃ下げてるし。暴露もたくさんあったし。いろいろあげたし。


「よし! じゃあこの話はこれで終わり!」


「あ、すみません。一ついいですか?」


「あァ? まだ何かあんのか? アタシたちの弱みにつけ込みやがって」


 いや、弱みを見せてきたのはそっちなんだが。勝手に共倒れしただけなんだが。まぁそういう反論は置いといて


「三人で一番立場が上なのって誰なんですか?」


 年齢的に一番上なのは咲夜さんだ。そして頭いいのも咲夜さん。でもスポーツピカイチなのは夏夜さん。でも直近で二人を圧倒してたのは咲彩。気になる。


「私よ」「アタシだ」「私だ」

「え?」「はぁ?」「ん?」


「私が一番年上だから私に決まってるでしょ!」


「はぁ? アタシに決まってんだろ。弱っちいさく姉にも、アタシより年下の咲彩にも務まんねぇよ!」


「私だろ。だって一番しっかりしてるし一番落ち着いてるし」


「しっかりしてるのは私でしょ。咲彩まさか自分が一番出来ると思ってるのー?」


「そうは思ってない。でも、少なくとも人の反応見て喜んでるさく姉よりはマシだと思うが」


「おいコラ、アタシを無視すんなよ。やっぱダメだな。こんな子供みてぇな争いしやがって」


「子供は夏夜でしょ」「子供はかよ姉だろ」


「あァ? 何だとコラ! もっぺん言ってみろ!」


 やべ、また喧嘩始まっちゃった。しかも今度は三姉妹で。さっきの咲夜さんと夏夜さんで結構お手上げの状態だったのに、そこに咲彩も加わったとなるといよいよもって手が付けられない。誰かー。この際母親でもいい。早く帰って来てくれー!


「ちょっと、三人とも、一回落ち着いてもらえますか?」


「うるせぇなァ! 外野は引っ込んでろ!」


 かえでが止めようとしてるが夏夜さんにきっつい言葉で言い返された。その時、多分俺にしかわからなかったのだろう。何かがプツンと切れる音がした。


「いいから落ち着いてください!」


 そう言って机をバンッ! と叩く音もした。今ので切れた音の正体がわかったわ。


「そこに座ってください」


「あァ? 勝手に介入して何様の———」


「口答えしない!」


 かえで、キレてますね。さっき切れたのはかえでの堪忍袋だったか。咲夜さんと咲彩はもちろんだが夏夜さんも黙って従ってる。


「まず、ここは私の家ですよ? 何で人の家で喧嘩してるんですか。仮に、これも演技だったとしても、見ているこっちからしてみれば反応に困りますし、からかいにしてはタチが悪いです。それに誰が一番だなんてどうでもいいじゃないですか。お互い良し悪しがあるんですから。私は三人にはそんなことで争ってほしくないです。私、ファンであるとともに憧れでもあるんです。なので私にはSAKU-KAYOのイメージがあります。なので、そのイメージを壊すようなことを、一ファンである私の前でやらないでください。もしそれでも続けるというのなら、私はファンをやめます。あと家にも近づけません。確かにそのほうが人間味があっていいという意見もあるでしょう。私も少しくらいなら許します。でも、今回はちょっと見過ごせません。謝ってください」


「かえでちゃん、あのね———」


「謝ってください」


「ごめんなさい!」「すんませんっした!」「ごめん」


 こわ。かえでこわ。声のトーンでわかる。でもこれで誰が一番上かわかった。答えはかえで。もしかしたらいつもいるグループで一番立場が上なのはかえでなのかもしれない。一人の中学生に年上のお姉さん三人が膝ついて謝るって・・・。


「お兄ちゃんも」


「え? 俺も?」


「誰が話のタネをまいたの」


「悪かったよ。でも俺だってこうなるとは思わなかったんだからな」


 ここはおとなしく謝っておくのが吉。ただ反論ばっかしてると夏夜さんみたいに返り討ちにあうから。


「たっだいまー! あれぇ? 何この状況・・・」


 買い物に行っていた母親が帰ってきた。そらそんな反応になるよ。これは俺の想像でしかないがかえで相手に本田家三人が土下座してる光景だぞ、多分。いくら洞察力が優れているとはいえこの状況は予測できなかった、いや、出来るわけがない。


 そして事のいきさつを母親が聞くと


「アッハッハッハ!! あーもう無理ぃ! お腹痛ーい!」


 この通り大爆笑。


「笑い事じゃないですよ!」


「ちっ」


「あーちょっと待ってぇ。ふぅー。かえで怖かったでしょ?」


 首を振る音がする。咲夜さんは声出してうんうん言ってるし。


「私ももー怖くって、ねぇかえで」


「お母さん、変な印象植えつけないで」


「いや、変な印象じゃねぇよ。まともな印象だな」


 俺がこう軽口を叩いたらかえでに叩き返された。しかも物理的に。


「ねぇかえでちゃん。もしよかったら私と夏夜のマネージャーになってみない?」


「は?」


 咲夜さん何言ってるの? え? これってスカウトされたの? どういう流れでそうなるんだよ。


「しっかり者のかえでちゃんがいれば心強いんだけどな」


「何言ってるんですか。かえではこう見えてまだ中学生ですよ」


「お兄ちゃん。こう見えては余計だし。でも私はまだ中学生です。学生のうちは出来ません。ごめんなさい」


「ふーん、じゃあ学生卒業したらやってくれる?」


「えーっと・・・、私にその気があったら・・・」


「うん! じゃあ契約成立ね!」


 なんかめっちゃ重要なことがうちで決まっちゃったよ。でもこれは口約束。書面上の契約じゃないからまだセーフ。ん? セーフなのか?


「かえかえ、さく姉の言うことなんか聞かなくていいぞ」


「そうだそうだ! さく姉のいいのは容姿と外面だけだからなァ」


「夏夜さん容赦ないですね・・・」


「あくまで! 卒業しても私にその気があったらです。もし他にやりたいことが出来たり、SAKU-KAYOがいなくなってしまったらそれは無効になりますから!」


「かえでもさりげなくひどい事言ったな」


「大丈夫よぉ。今のは口約束だからかえでがこの先突っぱねても損害賠償みたいなのは発生しないからぁ。でも、もし書面で契約してたら契約不履行で理由によってはいろいろ面倒なことになるからねぇ」


「おー。さすが元弁護士」


 初めてじゃねぇかな。弁護士らしいこと言ったの。じゃあかえでにその気があってマネージャーとかになったら母親に法律関係のことやってもらえばよくね? あれ? そしたらうちと本田家の関係がずぶずぶになるな。何かそれは嫌だ。うちがつぶされそう。


「さてと、ずいぶん長い事お話しちゃったけどそろそろお時間なのでいいですか? 夏夜の服も乾いたようですし」


「えーもう帰っちゃうのぉ。何なら泊まってってもいいのにぃ」


「そんなの俺が許さねぇよ」


「私も許さないから」


 泊まるなんて言語道断。これ以上母親の好きにさせてたまるか。


「うちの子二人が反対してるからごめんねぇ。あ、でも家まで送ってくくらいはしてあげるわよぉ。追っかけはさすがにいないと思うけど一応ねぇ」


「いいんですか? すみません。お手を煩わせてしまって」


「私は自転車で来たからそれで帰るか」


「さーちゃんも乗っていきなよぉ。自転車一台くらいなら乗せられるわよぉ」


「咲彩。ここはお言葉に甘えるものよ」


「うーん、わかった」


 咲夜さんいつもの調子に戻ってるし。いや、でも夏夜さんの言い方だとこっちが外面なんだろうなぁ。


「では、本日はいろいろとありがとうございました」


「本当にいろいろありましたよ。まぁ参考にはなりました」


「じゃな! また来るからよォ!」


「頭撫でないでください! むぅー・・・」


「またな、さく姉とかよ姉が世話になった」


 夏夜さんに頭撫でられたのか、かえでが恥ずかしそうにしている。それよりまた来るの? 本当に通う気なの? そこんところは咲夜さんと咲彩が何とかしてくれ。


 本田家のお三方が自分の家に帰ったところでまた俺とかえでの二人が残された。最近多いな。


「はぁー、なんか疲れたわ」


 冗談ではない。今日土曜日だろ? 下手すりゃ学校行ってる平日より疲れた感がある。こういう時はソファーでダラーっとするのが一番。と思ったら急に横が沈み無理矢理寝かされた。


「何してんだ———」


「疲れたんでしょ。だから疲れ取ってあげてるの」


 頭に乗ってる感触からして想像がつく。これはあれだな、かえでの膝枕だな。急にどうした?


「確かに疲れたとは言ったがこうしてほしいとは言ってねぇぞ」


「いいの! 私が好きでやってるんだから」


「好きで? あ、そうだ。かえで、夏夜さんがシャワー浴びてた時、咲夜さんと何話してたんだよ」


「言うわけないじゃん。察してよ」


「あっそ」


 察しろと言ってもさっぱりなんだが。あ、あーそうかー。昨日日向に言われたことを思い出した。まぁたまにはいいか。かえでの好きにさせるのも。ただし、一線を超えない範囲で。


 結局かえでがしたのは膝枕で俺の頭撫でてたことくらい。しかも母親が帰ってくると途端にやめる。その夜隣の部屋でかえでが「よし!」とかなんとか言っていたのはまぁ聞かなかったことにしておこう。

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