中間テスト - 45日目 -

 運命の日まであと1週間。そこまでに俺は膨大なテスト範囲を耳で聞いて暗記することで網羅しなければならない。大変だこれ。

 ということで今日から本当に真面目に授業を受けます。


 一時間目、地理。いろいろと地名が出てくるけどこれ地図帳見えなきゃ無理ゲーじゃね? 俺の脳内地図は小4の時からアップデートされていないので使い物にならないし。せんじょうち? たくじょうち? たてじょうち? りあすしき? 何それおいしいの? 何か一条の気持ちがよく分かった。

 二時間目、化学。化学式が大量に出てくる。俺にはただの英語の羅列にしか聞こえないんだけど。特に語呂で覚えろって言われたこと、俺語呂の中身すらわかってないんだが。

 三時間目、保健。保健ってテストあるの? あるとしたら何テストされるの? ボディチェック? 最近保健が保険じゃなくて保健って書くことを知ったばっかりなのに。

 四時間目、英語。読み合わせは終始渡のを聞いていた。特に同じような読みの英単語はさっぱり見分けがつかない。例、砂漠のデザートと食べ物のデザート、低いロウと法律のロウ・・・。ついでに変な読み、長い読みの英単語はスペルがわからない。例、ウッド、エクスペリエンス、フェイバリット・・・。

 五時間目、数学。これだけは書かないとマジでわからん。暗算しろって言うのか? 無理だ。二次方程式の解とか暗算で出るか? 図形問題、確率、出来るか!

 六時間目、芸術。俺は唯一出来そうだった音楽をとっている。他に書道と絵画があったけど、まぁ無理ですね。ちなみにこれだけ中間テストがないので唯一気が休まる。

 七時間目、古文。これは暗記ゲーです。文読んでもさっぱりなので必死に古文単語を覚えています。逆にそれ以外が出たらアウト。心情系は聞かれてもわからん。


 これ無理じゃね? 今日一日真面目に受けたのにまるでわからない。これは日向の言う通りツケが回ってきたな。そんなこと思いながら家まで歩いていった。


× × ×


「おかえりぃ。お勉強会頑張ってぇ」


 勉強会なんてフレーズ聞きたくない。くそっ、大人だからって他人事みたいに言いやがって。そう思ったがちょっと前の俺もこんな感じだったのを思い出した。言われるとこんなにムカつくんだな。自制しよ。

 リビングに続々と人が入ってくる。今さらだけどこの場に佐藤はいない。何でも一人の方が集中出来るからだとか。まぁ学年一位って重圧背負ってるしな。俺たちから強くは言えない。


 それ以外の7人が集まってゆるーく勉強会が始まった。


「光ちゃん。今日の内容わかったか?」


「さっぱりだな。だから俺にわかるように教えてくれ」


「はい! 私にも教えてください!」


 俺と一条は同レベルなので出来る人たちに頼まないと無理だ。


「どうやって説明しようか・・・」


 俺と一条の講師になった慎が頭抱えている。何か、すみません。でもな


「インプットは誰にでも出来るがアウトプット出来るやつはそうはいねぇから。よかったな慎、賢くなれるぞ」


「言ってくれるよ」


「じゃあ私がやる!」


「いんぷっと? あうとぷっと?」


 慎にやる気になってもらうよう俺なりに言ったつもりだったが、やる気になったのは更科だった。でも実際そうだからな。教えるためにはまず理解してなきゃならないし。そして俺たちにわかるように言い換えるなり噛み砕くなりしなきゃならないし。あと一条、さすがにそれくらいはわかってくれ。テスト範囲じゃなくても一般常識としてよ。


 一方渡、本田、日向は三人で教え合いをしていた。俺たちみたいな極端すぎる関係じゃないので「ああ、ちゃんと教え合ってる」というある種、感激のような感情がある。


 しばらくすると


「ただいまー」


 かえでが帰ってきた。何で俺たちより帰ってくるのが遅いのかって? そんなのはかえでに聞いてくれ。多分運動会の練習でもしてるんだろうけど。

 荷物を置いて下に来たところで


「きゅうけーい!」


 一条の集中力が切れた。いや早いわ。まだ一時間経ってないぞ。下手すりゃ授業一時間より短いぞ。


「かえかえ、何読んでるの?」


 完全に勉強からかえでの読んでいるものに興味が移ってしまった。もうダメだ。


「ファッション雑誌です」


「私にも見せて!」


「ココ、勉強」


 更科に止められた。当たり前だよ。俺ですら勉強してるのに。でもその雑誌に興味を持ったのは一条だけではなく


「その雑誌、私の姉が載ってるやつだ」


「え?」


 本田のこの一言で全員が固まる。少しの間静寂が流れて


「えー!?」


 みんなびっくり。そういえば慎と更科、あとかえでは本田に姉がいるって知らなかったな。他の人はその雑誌のタイトルに驚いている。


「どれですか!? さーちゃんさん、どれですか!?」


 いつになくかえでが興奮している。本田は本を受けとるとパラパラとめくっていって


「これだ」


「『さくかよ』って超有名じゃないですか」


「ほんとだ! 前見た写真と同じ!」


「あ、あの! サイン貰っても・・・」


「ああ、いいぞ。もしよかったら会わせてやってもいい」


「い、いえそんな、畏れ多いです!」


 かえでが情緒不安定になってる。興奮しすぎだ。有名人って探せば結構いるぞ。それとついさっき姉の存在を知った残り二人は声すら出せないでいるし。あと『さくかよ』は『SAKU-KAYO』らしい。ここちゃんとしないとかえでに文句言われるから。


「でも何でその雑誌持ってるんだ?」


「今この雑誌のファッションが流行ってるんです」


 流行の最先端を行くかえで。それを発信する本田姉二人。なのに本田本人は流行を知らない。何か複雑だな。


「さく姉は大人というか、おしとやかだな。一方のかよ姉はがさつでヤンキーだ」


「正反対だな。本田はその間をとった感じか」


「ああ」


 突然本田姉の話が出てきたものだからその話はどんどん発展していく。

 本田咲夜は長女で大三、おしとやかで大人な人らしい。家族で一番しっかりしていて人当たりがいい。礼儀作法もわきまえていてまさにパーフェクト。でも運動は苦手だとか。

 次女の本田夏夜は何かすごい。ヤンキーというのは本当らしくオラオラ系の大二。一年のほとんどを薄着で過ごし、突っかかってきた人にメンチ切って対抗する。でも根は優しい。


 ざっとこんな感じだ。何だろう。これは未来予知か? 近いうちに会いそうな気がする。


「おーい、みんなー、お勉強はどうしちゃったのかなぁ?」


「あ! 忘れてた!」


 忘れてたじゃねぇよ。誰だよ最初に休憩って言い出したの。て言ってる俺も完全に忘れてた。本田の話インパクト強すぎ。


 その後も勉強はしたがあんまり身にならなかった。やっぱり一度休憩挟むとダメだ。気が抜けちゃって。ちなみにかえでは母親に雑誌を取り上げられました。勉強終わるまでダメって言われて。

 結局勉強出来たのは一時間位だった。本当は二時間出来たが本田姉の話と雑誌の話で一時間消えた。みんなが帰った後、かえでは雑誌を返されて


「その雑誌、テスト終わるまではみんなの前で見せないでねぇ」


「うん、わかった」


 かえでが雑誌を戻しに二階に上がっていってるとき何かラインの音がした。母親の携帯からだ。まぁそんなに気にすることでもないか。それより頭使って疲れたから今日は早く寝よ。

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