中間テスト

中間テスト - 44日目 -

 今日はいつもより寝覚めがいい。多分頭の中のもやもやが取れたからだろう。今まで何か解決しようとしていたらその途中で別の問題にぶつかる。この繰り返しだった。でも今は抱えている問題は何一つとしてない。何て清々しいんだ!


× × ×


 教室に行ってホームルームの時間だ。


「今日の連絡は特になーし。明日からテスト休みに入るからしっかり勉強しろよー」


 早川先生のけだるげな声を聞く。でも俺には関係ないもんな。


「矢島、ちょっと来ーい」


「俺ですか?」


「俺だぞ。ほれ」


 なんで呼ばれたのかさっぱりわからなかった。早川先生に腕引っ張られて廊下に行く。


「矢島、今回からお前もテストを受けろ」


「は?」


 訳が分からなかった。何のテスト? と言っても思い浮かぶものが一つしかない。でも出来ればそうであってほしくない。ほんとに。


「さすがにお前だけ受けないのも不公平だろ。というわけで教科担当にお前専用のテストを作るよう依頼を出したからな」


「ちょっ、待ってください。テストってどうやって受けるんですか? 見えないのに」


「問題は全部選択式にした。英語のリスニングは受けられるだろ。あと、問題文と選択を読むこと兼テスト監督は保健の本渡先生にお願いしたからな」


 事態が全く飲み込めない。これは由々しき事態だ。俺もテストやるの? しかも本渡先生が監督? 情報量が多すぎる。


「じゃ、頑張ってな」


 そう言うと早川先生は俺から離れていく。なんてこった。これはヤバイ。多分人生で一二を争うくらいヤバイ。


「はぁー」


 朝の清々しい空気はどこに行ったのか。急転直下、地獄に落とされた気分だ。見えないのにただ正面に向かって歩いていたから教室のドアに頭をぶつけた。でも痛みを感じない。痛みよりショックの方が大きい。その音に気付いたのか、ドアが開けられて


「光ちゃん。何言われたんだよ」


「何か負のオーラが見えるよ」


 慎と佐藤が話しかける。負のオーラ見えてるのか。だって出したいもん。そのまま正面歩いて行って自分の席に向かう。慎に椅子を用意されて座る。


「なんかものすごく暗い」


 渡の席にいたのだろう。一条に話しかけられる。そら暗いよ。曇天、いや、大雨雷だよ。


「だいじょうぶ?」


 渡も気にかけてくれる。大丈夫じゃない。俺もう帰りたい。こうなったら机に突っ伏して現実逃避だ。


「さっきドア越しに聞き耳立ててたんだけど」


「聞きたくねぇ」


 あそこに待機してたのは俺と早川先生の話を盗み聞くためか。いや、でもあれは先生の質悪いジョークだから。


「光ちゃん。今度のテスト受けることになったんだな」


「ぷふっ」


「笑うんじゃねぇよ。どこもおかしくねぇよ」


 本当に笑えない。朝までの余裕はどこ行った。聞き耳を立ててた慎や佐藤、さっき笑った一条に文句と愚痴を言ってやりたいけど今はそっちまで頭が回らない。


「みんなおなじ」


「同じじゃねぇよ。同じになりたくねぇよ」


 こんなことで同じになりたくなかった。揃ってテスト受けることの何が楽しいんだよ。テストって単語聞くだけでも嫌なのに。そうか、早川先生が悪いのか。あの先生一発ぶん殴るか。と思ったがもう他の先生に話が行っているから手遅れだった。じゃあ当日仮病で休むかと思ったが結局振り返りで受けさせられるので不可避。じゃあ早退するかと思ったがテスト監督本渡先生だった。詰みゲーじゃん。


× × ×


「それでこんなになってるの」


「今までやってこなかったツケが回ってきましたね」


「じゃあ一緒に勉強すればいい」


 昼、事情を聞いた更科、日向、本田の反応がこれだ。こんなになってるじゃねぇよ。学年二位は高みの見物ですか。ツケでもねぇよ。俺ツケた覚えねぇよ。一緒に勉強って何円満に片付けようとしてるんだよ。楽観視するなよ。


「まぁいずれやることになってたわけだしね」


 そらそうだけど今じゃねぇよ。なんで今なんだよ。それと言い方が腹立つ。学年一位め。


「光ちゃん。やると決まったからにはちゃんとやらないとな」


「あ? 一位二位三位が俺を慰めかよ」


 つい強く当たってしまった。でもこんなことでは怒らないのは知っている。逆にこいつらだから強く言える。


「はい。雛から提案があります。ここにいる皆さんで中間テストの点数勝負をしましょう」


「勝負か」


 ありがちなやつだ。点数勝負なんて。上位陣は代償何もないからいいよ。でも下を見ろ下を。具体的には俺や一条を見ろ。どっちか最下位確定だぞ。


「私いやだー!」


 ほら見ろ。一条もさすがにそれくらいのことは分かっているから乗らない気でいるぞ。


「ルールはこうです。今ここにいるのは8人です。ただ普通にランク付けするのも面白くありません。ですので前回のテストで順位の近い人同士で勝負しましょう。そして勝ったほうが負けた方におごるなり命令するなりでどうでしょう。そうすれば最下位の人が全部背負うこともなくなります」


 確かにそうすれば最下位の人が理不尽な要求をみんなから受ける必要もなくなる。そしてこの勝負だと近い人同士なのでどっちが勝つかわからない。勉強意欲をそそる意味があるのか。くそ、日向のやつ、なかなか考えてるじゃねぇか。


「へぇ、それいいねぇ」


「確かに」


「勝負ならやろう」


 最上位二人と勝負に目がない本田はあっさり承諾。他の人も否定はしない。俺めっちゃ否定したいんだけど。


「それでは皆さん。前回の順位を」


 あ、それが狙いだったか。ちゃっかり順位を聞こうとしてるんじゃねぇよ。でもこれ聞かないと先に進まない。なんか一条がかわいそうになってきた。


「僕いち―――」


「上位三人はカットで」


「え?」「ちょ!」「おい!」


 さすがに日向もイラついてたか。上位三人の順位発表はみごとに飛ばされて次は


「じゅうはちー」


 渡も普通に高いじゃん。一学年300人だぞ。


「雛は77位です」


 日向も地味に高いじゃん。半分より全然上だし。


「私は何位だったか・・・。確か140くらいだった気がするな」


 本田で平均的。本田が普通でよかった。でもちょっと待て、ここまで6人発表してようやく平均ってこのグループ偏差値高くね?


「わ、私はひゃくななじゅう・・・」


「サバ読むなよ。俺なんか圏外だぞ。おい上位陣、笑ってんじゃねぇよ」


「わかったよ! 272位!」


「どんだけ盛ってるんだよ」


 サバを読むの意味が分かったのは意外だったがいくら何でも盛りすぎだ。


「これで相手が決まりましたね。佐藤さんとアオさん、瀬戸さんとわたりんさん、雛とさーちゃん、ココさんと矢島さんの勝負です」


「絶対負けないから!」


「ああくそ、やるしかねぇのか」


 一条を含めてみんながやる気になっている。俺は頭を掻きながらも現実だとしてようやく受け入れる。勝負だとしたら多少なりともやる気になる。はぁ、久しぶりに勉強しよ。

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