手紙

手紙 - 35日目 -

 先週思った通りになった。何書こうか考えていたら土日がつぶれた。いや、気がついたら土日がつぶれていたの方が聞こえがいいか。


 明けて月曜、いつも通り車に揺られながら学校に向かうと


「おはよーございまーす!」


 元気のいい声がする。こんな挨拶をするのは1人しかいない。一条だ。先週と感じがまるで違う。良い意味でもとに戻った。そう思うと先週がいかに変だったかがよくわかる。


「おはようございます」


 その一条につられる形で他の人も挨拶する。だから俺も


「おっす」


 と返す。どうやら俺が最後に来たようでその挨拶の後、みんなが歩き出す。いつの間に更科より遅く来るようになったんだ? まぁいいや。


「ねぇちょっといい?」


「あ?」


 一条が横からつついてきた。何だ?


「うーん、やっぱり何でもない」


 本当に何だよ。何でもないなら呼ぶなよ。


× × ×


 違和感と言えばそれくらい。ちょくちょく一条が何か言いたそうな感じを出してたくらい。見えない俺がわかるくらいだ。多分他の人もわかっているに違いない。


 どうやら俺の思い込みではなかったようで放課後なぜか知らんが俺と一条の二人で帰ることになった。あれ? 迎えは? 解、たまには歩いて来なさいよぉ。渡は? 解、今日は外せない用事があるから先に帰るね。更科は? お母さんに歩いて帰るよう言われたんだから頑張ってねー。また明日ー。日向は? 解、すみません、今日は茶道の活動があるので。

 他の人は言うまでもなく部活なのでこんなことになった。何だろう。仕組まれた感じがする。


「二人だけって初めてだね」


「ああ、だなぁ」


 いつもだったら話題を振る側、会話の盛り上げ役なのに今はものすごく静かだ。学校にいたときのテンションどこ行ったんだ?


「ねぇ、公園あるよ。寄っていこう?」


「まぁいいか、帰ったってすることねぇし」


 そして一条に引っ張られるまま公園に入って言われるがまま座る。


「誰もいない。珍しい」


 そうなのか。言われてみればそうか。今の時間だと園児が遊んでいそうだしな。


「で、俺に話あんのか?」


 誰もいないから気兼ね無く聞くことができる。いきなり聞くのはよくないみたいなのをどっかで聞いた気がするけどそんなの知らん。


「あ、うん、ちょっと・・・」


 まだ言うか言わないか迷っているような口振りだな。じゃあ先に俺が言うか。


「言わねぇなら俺が先に言うか」


「待って。言うから」


 いつもと違う真剣な声で俺を制止してきた。


「私、手紙書いたの」


「知ってる。お前の母親にだろ?」


「うん、それもだけど。光ちゃんにも書いたの」


「は? 俺にも? 何で?」


「何でって、書きたかったからだよ」


 理由が理由になってない気がするがこれ以上追及するのは無作法な気がするからやめておく。


「読むね」

 

——————————————————————————————————————


 光ちゃんへ


 光ちゃんには「ありがとう」って言いたいです。「ごめんなさい」は言わないよ。だって、謝ると怒るでしょ? だから、ありがとう、私と親友になってくれて。ありがとう、いっぱい話してくれて。ありがとう、ママのために頑張ってくれて。ありがとう、私たちを許してくれて。私が光ちゃんにあげられるものはあまりないけれど、この手紙といっぱいの「ありがとう」をあげます。

 最後にもう一回、今までありがとう! これからのことにも先にありがとうって言っておくね。


 光ちゃんの親友 ココより


——————————————————————————————————————


 聞いて思ったことがある。


「聞く側すげー恥ずいんだが」


「読むのも恥ずかしいんだから!」


 そう思ったのも事実ではあるがそれ以上に


「まぁ、なんだ。こっちこそありがとよ」


「うん・・・」


 言ったと同時に顔が赤くなったのがわかった。多分一条もだろう。しばらく静寂が流れる。何て似つかわしくない。


「それで、光ちゃんの言いたいことって?」


 あ、そうだった。手紙のことで頭いっぱいで忘れてた。


「まず最初に謝罪させてほしい。悪かった」


「え? ちょ、何で?」


「二年が始まって最初の時だ。自己紹介の時といい、その後話しかけてきたことといい、俺は正直一条を鬱陶しいと思ってた。でもそれは違った。俺の勝手な思い込みだった。だから・・・」


「謝らなくていいって。そんなの知らなかったし、これからも知らないってことで!」


 一条の切り替えの良さは本当に頭が上がらない。数少ない一条の尊敬できる点だ。


「じゃあそういうことで」


「そうそう!」


「それで言いたいことって言うより聞きたいことなんだが・・・」


「何? 何でもいいよ」


「さっきのクラス替えの時と関係してるんだが、自己紹介の後、自由時間になったとき、お前俺と慎に話しかけてきたよな?」


「うん」


「話したのって俺たちが最初だったのか?」


「・・・」


 少しの間静寂が流れる。まぁ大したことじゃないけどそんな気がしたから聞いてみたってだけだし。答えなかったら答えないでも


「そうだよ」


 やっぱりそうか。


「私ね、二人を見てママが言ってた人と同じだって思ったの。だから絶対に最初に話す!って思って」


「今でこそ言えるがそれは贖罪・・・、言い方変えよう。罪滅ぼしあってのことだったのか?」


「うん、でも今は違うよ。それに私自身、二人とは絶対に友達になりたいって思ってたから。しょくざい? でも罪滅ぼしでもなくね!」


「そうか、ならいいや。それともう1つ、もう手紙って書き終わったのか?」


「書いたよ。後は光ちゃん次第だよ」


「もう誰々次第って聞きたくねぇな」


「だって本当のことだもん」


「こっちはまだ書くこと決まりきってねぇのによ」


「え? まだ書くこと考えてるの?」


「多すぎんだよ。どうまとめるか考えてんだよ」


「書きたいこと書けばいいじゃん。多くなっても大丈夫だよ」


「時間かかるんだよ」


「あれ? 手紙って時間かけて書くものじゃないの?」


「限度があるだろ」


「大丈夫! 時間かかっても私手伝うから!」


「元気だけもらっとくわ」


「私の頭をちょっとは信用して!?」


 といっても信用できるほど頭いい印象ないし、しかも書くの俺だから一条は頭使わないし。俺は一条がいると進み遅くなりそうだから言ったんだけどなぁ。どうやら伝わっていなかったらしい。


「ところで今何時?」


「えーっと、午後5時58分!」


 さすがに時計は読めたか。もし一条の言っていることが本当なら俺と一条は結構長い間ここで話していたということになる。


「いい加減帰らねぇと怒られるな」


「そうだね、帰ろっか」


 俺はベンチからゆっくり腰を上げて歩き出す。横から一条の足音もする。その足音は何の偶然か、俺とぴったり合っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る