せい→おかげ - 15日目 -
今まで天候についてあまり触れてくることはなかったが今日は雨だ。理由はこれまで降っていたのは土日だったから触れてこなかっただけ。『おかげで』土日はどこにも行かずに済んだ。うん、いつもと変わらないな。それとやっぱり『おかげ』って言うとポジティブ表現になるんだなぁ。
「それじゃあ、期待してるわよぉ」
「何の期待だよ」
そう言って車から降りて母親からすでに差された傘をもらう。
「おはようございまーす!」
雨の中でも一条の声はよく聞こえる。雨の日は憂鬱になるってよく聞くがそんな中でも一条は天候に左右されずいつものテンションだ。
「おはようございます」
珍しく慎もいる。雨だからか。さすがに雨降ってる中じゃ練習はやらないか。強豪校だと雨降ったくらいで練習をやらないなんてことはないが、朝練でそんな追い詰めてたら授業は身に入らないしそれ以前に風邪ひく。
「おあよう ざいあす」
渡も声を出して挨拶する。少し前に聞いた時よりもだいぶ聞き取りやすい。なにより文字としてではなく単語として声を出している。やばいな、俺もちゃんとやらねぇと。
「おっす」
全員の挨拶に返す。さすがに片手が塞がっているから手話は出来なかったがそこんところは許してくれ。
「じゃあ頑張ってねぇ」
「はい!」
母親が言ったことに一条は元気よく、慎はいつものトーンで、渡は遅れて、でも力強く返す。
「それで、昨日はどうだった?」
「収穫はあった。あとは他の人が賛成してくれるかだが」
「私は賛成! 渡さんは?」
「たんせい」
「聞かなきゃわからないけど俺も賛成するよ」
聞く前に賛成するのは時期尚早がすぎると言いたいところだがこれも信頼の上に成り立つことなのか。少し前にこの事で慎に怒られたが、やっぱり信頼って大事なんだなぁ。いや、感傷に浸っている場合じゃない。
「あー、その判断はちょっと待ってほしい。一条と渡もな」
「どうして?」
「本当は秘密ってなってたが悪い、このことを俺の母親に話した」
「ふーん」
慎は納得したようだ、さすが理解が早い。一条と渡にも説明しておこう。
「ああ見えて頭だけは良いから」
「頭だけって」
「ああ見えてもおかしいよ! 矢島君のお母さんなんかすごそうなオーラ出してるし」
慎は笑いながら返し一条は強い口調で返す。そんなに強く返されてもな。
「いや実際そうだぞ。運動なんか点でダメだし」
まだ目が見えていたころに母親と一緒に遊んだことがあったが、俺どころかかえでにすら振り回されていた覚えしかない。追いかけっこはすぐに捕まってた―――それ以前に転んでたな、投げたボールは明後日の方向に行ってたし。本当に何でこんなに悪いの? と疑問を持つくらいだ。
「私と同じ」
「え? そうなの?」
一条の呟きに俺と慎が揃って同じ反応をした。一条あれだけはしゃいでるのに運動ダメなの?
「え、ちょっと渡さん、言わなくていいからぁ!」
なんか一条が慌ててるな、渡が言ったことを見たのだろうか、慎すげー笑ってるし。
「そんなにやばいのか?」
「いやーそれがな―――」
「瀬戸君言わないでよ!」
一条にものすごく止められたらしく慎は結局言わなかった。そのせいでどんなにやばいかを聞けずじまいだ。仕方ない、母親と同レベルと捉えておくか。それ相当やばいな。そういえば何の話してたっけ? ああそうだ。
「いやそうじゃねぇよ、話を戻すぞ。母親に話したら一応対応策って言うのか、それを聞くことができた」
昇降口に着いて靴を履き替えながら言う。
「対応策?」
「策なのかもわかんねぇな。後で話すわ」
「それじゃあお昼にみんなで集まろうよ! 佐藤君、本田さん、雛ちゃんも呼んでね」
別に木曜日に集まるのだからそこでもいいとは思うが、先に話しておいて損はないか。
「そうしよう。場所は・・・アトリウムかな?」
他に出来るところと言っても思い浮かぶところがないからいいか。ここは慎に乗っかろう。
「場所的にそこしかねぇな、教室はうるさい、本田と日向が入れねぇ、保健室はシップ臭い、狭い」
「保健室に対する悪口すごいな」
「悪口じゃねぇ、事実だ」
これ本当に事実だから。本渡先生が保健室広くしたいっていつも言ってるし、シップの臭いはいつ入ってもしているし。
「本渡先生に言っちゃおうかなぁ?」
「どうぞお好きに」
「ほんとに言っちゃうよぉ?」
一条は脅しているのかからかっているのか、でも言われたところで別にこっちにダメージはない。今まで体育の時間毎回行っていたからこのくらいのことで怒らないのは知っている。むしろ肯定するのでは? ということでここは軽く流すか。
「ほんとにほんとに言っちゃうよぉ?」
横で一条が言っているのを流しながら教室に向かう。この後も一条は『ほんと』の回数を一回ずつ増やしながら俺に言ってくるが聞こえないふりをする。もうやってることが子供だよ。
× × ×
すっかり忘れていると思うが今日は体育がある。俺自身も忘れていた。いやだなぁ。
「光ちゃん、急げよ」
「いてっ」
慎に背中を叩かれて急かされる。
「今日は雨だから体育館だってよ」
「体育館で何するんだよ」
「練習は出来ないしね」
そう言っているうちに着替えを終えて体育館へ急ぐ。着いて準備運動を行った後、言われたのは「体力テストをやる」だった。俺以外の人は屋外競技は終えたらしいが俺は何一つやっていない。
「俺出来ることあるか?」
「やるだけやってみようよ」
佐藤に言われ仕方なくやることにする。マジで久しぶりだ。
佐藤、慎がお互いの測定をしてプラス俺のもやるという感じだ。これは記録を見たほうが早いな、ということで。
一つ目上体起こし、俺40回、慎41回、佐藤37回。
「矢島君何でそんなに出来るの?」
「家にいるときは基本暇だから筋トレとかしてるんだよ」
「だからボールもあんなに早く投げられるのか」
佐藤は感心しているが逆にそれ以外することがない。本読めない、テレビ見えない、ゲームできない、携帯見えない、そんな中出来ることと言ったら寝ることか筋トレくらいだ。帰った後寝るまでの間に少しやってるし、特に土日なんか筋トレ以外していないと思う。医者から言われたのと、個人的に何もしないよりはマシだと思うから。プラス父親が残した筋トレ道具が家には数多くある。かえでも部活がない日に使っている。あ、ここで言っておくけど父親は今単身赴任中でいないだけだから、誤解しないように。
二つ目反復横跳び、俺50点、慎67点、佐藤57点。
「惜しかったな光ちゃん、ライン踏めてたら俺と同じくらい行ってたのに」
「見えねぇのにやらせんなよ」
これはもう感覚でしかない。練習で出来ていても本番はスピードが違う。ラインを跨いでいないことが多かったらしい。途中で踏めてないと何回か佐藤に言われていた。それでもだいぶ健闘したほうだと思う。
三つ目長座体前屈、俺65cm、慎51cm、佐藤62cm。
「やっぱりダメだなぁ」
「昔からそうだな。お前の体の硬さは」
他はピカイチなのに、残念すぎる。慎の体が硬いのは小学生の頃からずっとだ。本人は柔軟をしていると言っていたが筋肉が邪魔をしているからか、なかなか柔らかくならないらしい。
四つ目握力、俺52kg、慎58kg、佐藤48kg。
「そんな握力どこで使うんだよ」
「相手と競り合う時とかな」
「にしてもありすぎだと思うけど」
もしかしたら今の慎はムッキムキのゴリマッチョなのかもしれん。ああ、昔の面影が・・・。
「これで今日やるのは全部か」
「あとはシャトルランくらいかな」
誰もが嫌だというシャトルラン。俺も長いからいやだ、時間的に。でも佐藤はあまり嫌そうにしていない。
「光ちゃん、残りの競技もやってみる気は?」
慎が俺の肩に手を置いて聞いてきた。残りの競技か、ここまで来たならやってみたいという気はある。でも
「そもそもやれるのかよ」
残りの競技は目が見えていないとかなり難しい。おまけに今日は雨だから出来ない。
「今日は無理だけど明日とか、放課後少しくらいだったらいけるだろ?」
「ちょっと先生に掛け合ってみるよ」
俺まだやるって言ってないのに、佐藤は先生の所へ行ってしまった。しばらくして
「明日やることになったよ。でもシャトルランは難しいから持久走に変えて別日だって」
「明日もか・・・」
「まぁ頑張れ、俺たちも行くから」
俺たちで思い出した、明日木曜日か。ん? 待てよ。木曜日ってみんなで集まる予定あったよな? 体力テストやった後集まるのか? しかも他のやつら絶対に見に来そうだ。
「明後日はダメか?」
「明後日は先生も僕たちもダメだから」
「光ちゃん、諦めろ」
この野郎、他人事みたいに言いやがって。いやだなぁ、明日行きたくないなぁ。これ毎日言ってる気がする。こうなったら
「お前らの記録を教えろ。ぜってー超えてやる」
こいつらの目の前で勝ってやる。後悔しても知らないからな。
「お? やる気だね。俺の記録は・・・、50m走6.3秒、立幅2m67cm、ハンド35mだな」
聞いてて思ったが慎の記録やばいな。これ超えるのか、やれるだけやるか。
「えーっと僕は、50m6.8秒、立幅2m40cm、ハンド30mかな」
佐藤は・・・、うーん、中の上くらい? 超えられなくはないか。
「佐藤くらいだったら行けそうだな」
「ひどいなー。これでも頑張ったのに」
「いや最初に吹っ掛けたのはそっちだからな」
今日の体育はこれにて終了、前回より楽だった。前回久しぶりに体育に出たというのもあるがなんだかなぁ、体育って案外楽しいんだなぁ。
× × ×
「それじゃあみんなで行こー」
なんか一条のテンションが低いな。体育やったからか。言っていることとテンションが全く合っていない。そんな一条に連れられて俺、慎、渡、佐藤はアトリウムに向かう。先頭にいるのに何かすごく頼りない、大丈夫か?
アトリウムには既に本田と日向がいたようで
「心愛、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ちょっと体育で疲れちゃっただけ」
「大変でしたね」
一条の様子を見たであろう本田と日向が気遣っている。心配になるのは分かるが理由聞かされたらなぁ。どうしようもないとしか言いようがない。あとで聞いてわかったが道中一条は渡の肩を借りていたようだ。運動音痴は大変だ。
全員が座ったところで
「それじゃあ光ちゃん、昨日のこと、聞かせてもらえる?」
「ああ」
食べながらではあったがみんな静かに聞いていた。前半は昨日本渡先生と話した内容だ。不足部分は一条と渡が補う形で話を進めていく。
「俺たちが話せる環境を、先生が更科さんを説得して作ってくれる、か」
慎が俺たちの言ったことをまとめる。
「でも仮にその準備ができたとしても更科さんの家はハードルが高いんじゃないかな?」
「いや、そこに対する拘りはねぇ。学校じゃなければいいってだけの話だ」
佐藤の言う通り、そこのハードルは高い。それは先生が説得してくれれば解決なのだがもしダメだったら伝家の宝刀『俺の家に招く』がある。うちの母親来させる気満々だったし大丈夫だろう。
「確かに学校に来ることにハードルがあるならそれでいいけど」
「そうだ。登校や学校生活に不安があるのならそれでいい。でも対人関係ならばそこは本田と日向にやってもらわなきゃならねぇ」
「私たちか?」
更科にとって本田と日向は頼れる人だから連絡を取れる、そして会える可能性は高い。
「ああ、今更科と連絡は取れるのか?」
「わかりません。落ち着いてからの方がいいと思ってこちらからは連絡していません」
まっとうな選択だ。「大丈夫?」とひっきりなしに連絡をされるとそれが逆に傷を広げる可能性がある。でもいつまでも送らないでいるとそれ以上進展することはない。逆に文面上だからこそ話せることもある。
「試しに今送れるか?」
「文面はどうしますか?」
非常に大事な場面だ。最初にどう送るかによってこの後どうするかが大きく変わってくる。
「最終的にはお互いに会うっていうところまで持ってこれればいい」
「うーん、難しいな」
佐藤が考え込んでしまった。他の人も考えているのだろう、静かになった。
「ねぇ本田さん、ちょっと携帯いい?」
「ああ」
と思ったら今までほとんど話してこなかった一条が本田から携帯をもらった。しばらくするとラインの返信の音が聞こえてきた。まさか
「おい、送ったのか?」
「うん、送ったよ」
マジか⁉ 大事な場面だからちゃんと考えた上で送ろうとしていたのに。
「みんな考えすぎだよ、こういうのはパッと思いついたことを書かないと」
「いや、それでミスったらどうすんだよ。取り返しつかねぇぞ」
本当にシャレにならない。せめて文面を見せてから送ってほしかった。
「まぁまぁ光ちゃん。それで一条さん、何て送ってどう返ってきた?」
慎に宥められてようやく落ち着く。
「えっと、私は9組の一条心愛です。更科さんとお友達になりたいので会えますか?」
想定外、俺の考えの範疇を越えていた。
「は? 本気で言っているのか?」
驚きすぎて思っていたことがそのまま出てしまった。
「本気だし最後まで聞いてよ!」
一条は俺に強い口調で返す。
「私のお友達に目の見えない人、耳の聞こえない人がいます。私には二人の辛さ、苦しさがわかりません。もちろん更科さんの苦しさもです」
「なので、私に教えてくれませんか? 私も出来ることをしたいから」
「私はあなたを助けます。だから、私を助けてください」
本当に思ったことをそのまま書いていた。そしてそれは俺や渡にも言っているのがわかった。一条の純粋な思いだった。何の取り繕いもなく、ただ純粋な。
「うぅ・・・」
それを聞いて渡は耐えられなかったようだ。その声が足音とともにこもる感じがした。
「ごえんえ―――、ごめんえ―――」
「ううん、私の方こそごめんね」
お互いが謝っている。俺も聞いていて思い当たる節があった。前に慎に『お前を頼るから俺を頼れ』みたいなことを言われた。それとほぼ同じことを今度は一条が言っていた。『私はあなたを助けるから私を助けて』俺はみんなを頼っているつもりだった。でも一条はそう思っていなかったらしい。
俺は無意識のうちに避けてしまっていた。
お互いを頼るにはまずお互いを知る必要がある。俺は自分の過去を言おうとしてこなかった。自分の苦労を言おうとしてこなかった。自分の思いを言おうとしてこなかった。言われてみれば渡もそうだ。障がい者としてのレッテルを張られるのが嫌だ。これは俺たちの思いの一端でしかない。そして一条たちはそれを知らなかった。言ってこなかったからだ。仲良くなったつもりでもやっぱり見えない壁というものは存在していた。ただ仲良くなっただけで友達じゃない、今までずっとそうだった。
引きずってきた結果がこれだ。どこか自己中心的になっている自分がいた。そのせいで盲目になってしまっていた。そしてそのことに、俺の過去を知っている慎でも、最近一緒になった佐藤や本田、日向でもなく、全くゼロの状態から二週間という期間ずっとそばで見てきた一条が、一条だけが違和感に気づいてそれを言った。俺たちが一方的に張っている壁を取り払うために。
本当だったら自分で気づかなければならなかった。なのに、今まで言ってこなかった自分に悔いる。今まで周りを信じ切れなかった自分に悔いる。
くそ、これじゃ前と変わらねぇじゃねぇか。一条は俺たちのことを知ってもらいたい、先週言っていた。じゃあ俺たちが動かなくてどうする。
「おい慎、俺の背中を思いっきり叩け」
「ちょっと待って、矢島君は」
「いや、俺・・・、違うな、俺たちはお前らから逃げていた。そうだよな、みんなに知ってもらいたかったら、まず自分から動かなきゃな」
受動的になっていればいつまでたっても進展しない。そう、今回の問題は更科の問題とばかり思っていた。でもそれは違った、ほかでもない、俺たちの問題だった。先生はそれを知ってて俺たちに託したのか。
「どうせ俺たちの苦しみなんかわかんねぇって自分でどこか割り切ってた。でも、そもそも話してねぇんだからわかるはずねぇよな」
自分の過去を話すのには躊躇いがあった。自分の傷を抉ることにも繋がるから。でももうそんなことはやめだ。
「話すよ。それを聞いた上で改めてお前らに頼むことにするわ」
その答えはもうわかっているがそれでも言うことに意味がある。
「俺たちを助けてくれって」
一条の言葉を引用する。今までは心のどこかに疑いの念があったがそんなのはもうやめよう。会う人会う人全員に疑心暗鬼になっていては、わざわざ近づいてきてくれた人たちに申し訳ない。これからは仲の良い生徒ではなく、友達として。
「そうかよッ!」
慎の声の後に背中にものすごい衝撃が走る。
「いッ! おい慎、本気でやりやがったな!」
「光ちゃんがやれって言ったから」
叩かれたところがピンポイントで痛い。明日あたりその形で赤くなっていそうだ。
「一条さんの言うとおり、言わないとわからないこともあるんだからよ」
「そうだね、同じクラスメイトで友達なんだし、知る権利はあると思うよ」
「えっと、雛たちは違うクラスですけれど困ったことがあれば何でも言ってください。助けます」
「奏もだ、遠慮なく言ってもらっていい」
「あいがと・・・」
「ありがとよ」
みんなの微笑む姿が浮かぶ。顔はわからないが雰囲気でわかる。和やか、優しい、温かい、そんな空気に包まれていた。
「それで一条さん、更科さんからの返信は?」
渡が落ち着いたところで慎が話を戻す。でも結果は大体わかる。
「えっとね、今度の日曜日でよければ、だって!」
あんなこと言われてしまっては否定なんかできない。仮に俺が更科の立場だったとしても多分そうしただろう。
「よし! みんな日曜日は大丈夫だったよね?」
佐藤が言ったのに対してそれぞれの反応で全員が賛成する。その少しあと返信音が聞こえてきて
「オッケーもらえた!」
「よかったです!」
「みんな、ありがとう」
日向、本田がお礼を言う。でもお礼を言うのはこっちのほうだ。俺は別に何もしていない。
そんな中その雰囲気を壊すような音がする。
「昼ほとんど食べられなかったな」
「食べられなくても満足だよ」
慎、佐藤が雰囲気を壊したチャイムの音が鳴っている中話している。
「みんな戻ろ! 早くしないと授業始まっちゃう」
一条の掛け声で教室に戻る。佐藤が言った通り、満足した昼だった。そういえば昨日母親が言ったこと話してなかったな、まあいいか、どうせ明日もある。過去と向き合う。お互いを知るという意味で話す。心から受け入れる。そこには更科もいなきゃな。だから日曜日、みんなで更科を迎えに行こう!
× × ×
午後の授業も滞りなく終わり帰る時間になる。まだ雨は降っている。他の人は部活に行く中俺、渡、一条は帰る流れだ。母親が「車乗って行きなよぉ」とか言った『せい』で車内には渡、一条もいる。この場合は『おかげ』か。
「それで、結果は?」
「まぁいいか言っても。日曜日に話すことになった」
「よかったじゃない」
話せるというだけで大きな収穫だ。やっぱり今回は一条がキーだった。多分本人はその自覚がないと思うが。
「場所はどうするつもりなの?」
「えーっと、まだ決まってないです」
「更科の家が一番いいけど、全員行くのは無理だしな・・・」
更科の家がどんなものか聞いていないから知らないが、広さ的に入れるかという問題もあるし、それ以前に俺たちが行っていいのか? という問題もある。そして今回話す許可が下りたのは一条、あと連絡のパイプ役だった本田だ。日向は直接あそこではお願いしていなかったが一番仲いいから多分オーケー。じゃあ俺たちはどうだろうか? 初対面の人と話すことなんか今の更科に出来るのだろうか?
「それならうちに来てもらうのは?」
「はあ、やっぱりそうなるのか・・・」
母親の『来るもの皆拒まず』という性格が出ている。何でそんなにうちに来てほしいんだよ。もうため息しか出てこない。
「でも私たちがよくても更科さんがいいって言ってくれるか―――」
「そこは本田と日向、先生、あと一条の出番だな」
「え? 私?」
「更科と話す約束が取れてるのは実質一条だけだ。そういうわけで交渉も一条がやらねぇとな」
「うーん、出来るかなぁ?」
「まぁ助けてやらなくもないが」
「二人ともありがとう」
『二人とも』ってことは渡も助けるに近いことを言ったのだろう。昼に助けてほしいって言ったんだ。中身は違えど助けることに変わりはない。
「ちょっと皆さん、朝と雰囲気が違うように感じるけどぉ?」
「そういうところ敏感だな」
「私じゃなくてもわかるわよぉ。それでぇ?」
「その話は今度な。一条、渡もそれでいいだろ?」
「え? あっ、うん!」
「ちょっと、みんなだけの秘密とかズルーい!」
いずれ話すことにはなるけどそれを話すのは全員がいるとき、そこに母親がいるのは違和感があるがまぁいいだろう。全員集まるときなんか、多分俺の家に揃って来る時くらいしかないだろうしな。何より恥ずかしさもある。あの時俺たち以外にアトリウムに生徒がいなくてよかったほんと。
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