再会と出会い - 2日目 -
クラスが変われば友達も変わる。友達が変われば生活も変わる。こんな楽観的な考えを持っている人も世の中にはいる。ポジティブ思考というべきか。しかし現実はそうではない、断じて否だ。
昨日クラス分けが行われ、俺は慎という親友と奇跡的に同じクラスとなった。しかしそうなったからと言って俺の生活は変わらない。今日から授業が始まるが俺は授業を耳で聞くだけ、退屈この上ない。俺を見たほかの生徒は「あいつサボってんな」とか「優遇されすぎだろあいつ」とかしか思わないだろう。だがそれは仕方のないことだ、目が見えないから。努力してもできることには限界がある。俺は字は多少書ける。しかし字を書くためのペン・ノートが無い、いや、無いというのは嘘だ。あるにはあるが机の上にあるという認識がない。だからどうしようもない、不可抗力だ。
そうやって今日も自分に言い訳をしながら一日を過ごす。やはりこれまでと変わらない、俺も、周りも。
× × ×
初日の授業が終わり帰る準備をする、といっても机の上にものを出していないので鞄を持つだけ。鞄を置いている場所はいつも同じなのでそこから鞄をとる。その時慎がこちらに向かってきた。
「お疲れさん。んじゃ、帰るか」
「お前部活はいいのか?」
「今日は休みなんよ。週休二日、日曜と木曜な」
「仕事かよ」
こんなくだらない会話が毎日できると思うと本当に慎には感謝しかない。椅子を引いて立ち上がり、慎の手を借りて、教室を後にしようとするとそれを引き留めるやつがいた。そいつが俺の袖をつかんできたのでそのほうを向くが反応がない。すると慎が
「渡さん、どうかした?」
そう、俺の袖をつかんだのは渡だった。道理で反応がないわけだ。渡は慎に向かって何かしているようだが俺にはわからない。とりあえず慎の反応を待つことにする。
「本当に目が見えないのか、だってさ」
まあ当然の反応だ。傍から見れば健常者と何ら変わりない。目の見えない人は自分の目を隠すためにサングラスをしていることが多いが俺はそれもしていない。違うことと言えば白杖を持っていることくらいか。
「ああそうだな」
俺の言ったことを慎が説明するとしばらく沈黙の時間が流れる。慎に説明するために携帯に文字でも打っているのだろう。
「私も耳が聞こえないからお互い苦労が多いよね。だけど私もできる範囲で協力するからだってさ」
協力してくれるのは素直にありがたい。だが自身も苦労している中で俺のほうまで手を回すのは正直申し訳ない気持ちになる。
「気持ちはありがたいが気遣いは結構だ。自分自身苦労しているのにわざわざ俺のことまで面倒を見る必要はねぇよ。行くぞ」
「おーい待てよ。悪いね渡さん、あいつ素直じゃないから」
素直とかそういう問題じゃない。障がい者同士支えあったところで支えきれずに崩れるのがオチだ。無用なリスクを負うよりはかかわらないほうがいい。その結論のもと決定したまでだ。
俺が教室を出ていこうと歩く中、慎が渡に説明している。それが終わると慎が出てきた。
「あーあ。せっかくのチャンスを」
「何がチャンスだ。なにもいいことなんてないだろ」
俺とかかわると
「渡さんとかかわるチャンスだよ。昨日の様子見てたけど渡さん、自分からグイグイいくようなタイプじゃないと思ったんだけど今回、渡さんから話しかけてきたじゃん。だから何かあると思ったんだけどなぁ」
確かに昨日の様子は耳で聞いただけだが、周りの人がガヤガヤ言っていただけで渡自身はあまり話に入っていなかった気がする。じゃあさっきはなんで俺に話しかけようとした? 同じ障がい者だから共感を持ったとか? 私より大変だと悲観したとか? そんなんで話しかけてきたのなら実に腹立たしい。
「何もねぇよ。これまでも、これからも」
だがもし本当に協力したくて話しかけてきたのならそれはそれで申し訳ない。チャンスを棒に振ったとまでは言わない。もう少し考えてみてもよかったのでは? その考えがいつまでも頭から離れることはなかった。
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