ある学生のある一日
私の世界には音がない。
私は生まれてから今まで音というものを感じたことがない。音とは何? どのような感覚? みんなが当たり前に、無意識に感じている感覚を私は持ち合わせていない。今私の周りではどんな話がされているのだろう? 昨日見たテレビの話、最近流行りのゲームの話、先生に対する文句の話、そんな日常の何気ない会話も私には聞こえない。
耳が聞こえないからその分周りからの視線がとても気になる。あっ、今あの人こっち向いた。何か話しているみたいだけど・・・。私がその人のほうへ行くとその人は話していた人たちを連れて教室を出て行ってしまった。
私はまた間違いを犯してしまった。
もしも耳が聞こえていたらどれだけこの世界が生きやすかっただろうか。考えても無駄なことは分かっている。毎日毎日、本当に息が詰まるような生活を送らなければならないことも分かっている。ただ、私はもう間違いを犯したくない。みんなから悪く思われたくない。この苦しみから解放されたい。
間違いを犯した後、席に戻って授業を受ける。授業中は板書し授業が終わった後、次回までに予習しておくところを先生から直接教わることになっている。私のこの授業スタイルを他の人はあまりよく思っていないらしく、授業が終わるごとに何か言われているのは聞かなくてもわかる。
そして私はまた間違いを犯す。
生きていることが間違いなのだろうか? 人間というものは誰しも意味を持って生まれてくるものではないのだろうか? もしこの世界に神がいるのだとしたら私をこんな風にしたことに大きな怒りを覚える。ううん、それを通り越して呆れてすらいる。
自分のこの障がいを受け入れたとまでは言わない。ただ、もう少し生きやすくなったら、自分がこの世界にいていいと納得できる日が来てほしい。そしてもう一つの願い。
一度でいいから、音が聞きたい。
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