第84話 種、種、種!

 我が家で見つけた種は、さくらんぼ、梅干し、干し柿の3つだけだった。さくらんぼは缶詰があったからいいとして、干し柿なんて、自分でも買ってたのか、とびっくり。だって、干し柿、一人暮らしで買うには、ちょっとお高いイメージがあった。たぶん、あの爆買いの時だろうなぁ、と、ちょっとだけ遠い目になる。


「あ、でも、干し柿って、渋柿なんじゃなかったっけ?」


 それに、『桃栗三年柿八年』というくらいだし、例え、ここの土の精霊が頑張っても、そんなにすぐには生らないか。


「まぁ、それならそれで、干し柿の作り方、勉強しとけばいいか」


 それに、果樹を種から育てるのは、初めてだ。

 リンゴは苗からだったし、まずは種からちゃんと芽を出してくれるかわからないし。


「まずは、1つずつ、黒ポットにいれて……あ、さすがに、この寒いのに外は無理か」


 ログハウスの中を見回すが、黒ポットを置くような場所もない。


「さすがにキッチンカウンターに置くのは……うん、窓際の高さくらいに細いテーブル……作るか」


 すっかり物作りモードに入るのが、早くなってきた気がする。

 そこからは1日がかりで、黙々とテーブル作成。ハクとユキが興味津々の様子で、こっちを見ているけど、電動ノコギリの音が嫌なのか近寄ってはこなかった。


「若干、窓より低いか」


 まぁ、それも愛嬌ってことで。

 黒ポットに畑の土をいれて、種を埋めた。受け皿は、意外に使えなかった100均で買った小さいタッパーたち。ないよりはマシということで。


「さて、芽が出るのはいつかなぁ」


 人工池から汲んだ水を注ぎながら、「早く大きくなってねぇ」なんて言ってたのに。


「マジか」


 翌日の朝には、しっかり黒ポットサイズの苗までに育っていた。青々とした葉も茂っている。いや、根っこ、キツくない!?


「ちょ、ちょっと、土の精霊さんたち、頑張りすぎじゃない?!」


 さすがにこの大きさのものを部屋の中に置いておくのは厳しい。

 仕方なしに、これらを外に出すことにした。


「やばっ、寒っ」

 

 この状況で外に出したら、枯れるか? とも思ったけれど、そもそも、野菜なんかとは違って山で育っている木々なわけで、この程度は関係ないかもしれない。

 一応、果樹なわけだし、交配とかしたりしないのか、と不安になったので、それぞれを離れた場所に植えることにした。

 最初に植えたリンゴが湧き水側の山側の隅に植えたので、柿の苗を湧き水側の出入り口のそばに、梅を薪小屋の裏手に、桜をトンネル側の出入り口のそばに植えてみた。


「大きくなって春には花見とか出来たらいいなぁ」


 そしてここでも人工池の水をかけてあげる。

 ビャクヤたちから聞いた魔力たっぷりの水。これをあげて、どこまで育つか。


「まぁ、すでに、ここまで育っている一因ではあるんだろうけどね」


 水滴が日の光に反射して、キラキラしている。

 とりあえず、この冬をうまく越してくれればいいなぁ。


         + + + + + + + +

 

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 お話としては、まだまだ続く予定ではありますが、元々、〈メディアワークス文庫×3つのお題〉コンテスト用に書きだした作品のため、次回の更新(4話一気にいきます)で一旦、完結とさせていただきます。

 ご了承ください^^

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