第81話 洞窟拡張
ふと、あちらの世界で聞いた、立ち枯れ病というのに侵された『黒い森』と言われた場所を思い出す。あちらの場合は、酸性雨の影響だったけれど、こっちのは瘴気ということか。
『しかし、五月様がいらっしゃれば、もっと回復は早いかもしれません』
「へ?」
突然、私に振られて、びっくりする。
『五月様のお持ちの魔道具で、山を生き返らせることができるはずです』
ま、魔道具と来たか。私にとっては単なるタブレットなんだけど……いや、単なるじゃないか、『魔法のタブレット』だから、やっぱり魔道具ってなるのかな。
確かに、私には『ヒロゲルクン』で、開拓する能力がある。それに、畑を作ったり、貯蔵庫を作ったように、穴も掘れる。
「そうか。リンゴの苗」
私は慌ててタブレットを取り出し、『ヒロゲルクン』を開く。
「わ~、やっぱり、メニューに追加されてるよ……」
畑の他に、果樹もメニューに入ってるし!
まずは、あの斜面の木をなんとかしてからだな。
しかし、その前に!
「洞窟、なんとかしないと! こんなんじゃ、ビャクヤとシロタエだけでも、入りきらないでしょ」
洞窟の手前にある少しだけ、本当に少しだけ開けた場所にどっちかが寝てるんじゃないかって思う。それこそ、子供たちを中に入れて、2匹は外にいるかもしれない。
『申し訳ない……我々も、中を掘ってみたものの、途中で岩にぶつかってしまって』
そう言われて中をのぞくと、本当に大きな岩がある。高さで言えば、私の身長よりも大きい。横幅はちょうどこの洞窟と変わらないだろう。まるで、その先には行かせない、とでもいうかのような大きさだ。
でも、これくらい、ビャクヤたちの風の魔法で壊せないのかしら。
「う、うん?」
風、という言葉で気が付く。
「ここ、山頂近くよね」
『ええ、そうです』
「なんで、風がないの?」
そもそも、酷い寒さも感じていなかった。だって、もうクリスマス直前なのに?
『ああ、それは、我々の風の魔法で防いでるからですよ』
……風の魔法、万歳っ!
それがなかったら、かなりの強風が吹き付けてくる場所らしい。
いや、それなら、もっとうちの近所とかに越してくればいいじゃない!?
『……ここが、一番眺めがいいのですよ』
なんだか含みのあるような言い方。何か意図があって、ここに住んでるってことなのだろうか。
それならせめて、もう少し居心地よくしてあげたくなるのが、人情でしょう。
「それにしても、この石? 岩? なんだろうね」
中に入って触れてみる。本来なら環境からいっても冷たいはずなのに、なぜか……温い。
「え、きもっ」
慌てて手を離し、タブレットを使って鑑定してみる。
「……うん? あだまんたいと?」
『なんと』
『あらまぁ』
2匹が驚いて固まっている。
私も、なんかで聞いたことがある名前ではあるが、それがどれほどのものか、ちょっとわからない。
「とりあえず、これだけどかせばいいのかな」
そうは言っても、これ取ったら、崩れるかもしれないか。
「じゃあ、『ヒロゲルクン』で『穴掘り』してみるか」
岩に穴が掘れるかわかんないけど。
『いや、それはちょっと』
『無理なんじゃ』
なんか背後で2匹がぶつぶつ言っているようだけど、やってみなきゃわからない。
「さて『穴掘り』っと」
さっくり、1㎥くらいの穴、空きました。
やったね。
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