第80話 引っ越しの理由

 ビャクヤとシロタエが軽く頷く。


『五月様がこちらにいらしたので……精霊たちも増えてきたこちらに、引っ越してまいりました』


 なんと、引っ越した理由が私ですって!?

 ていうか、私がいると精霊も増えるってこと? あ、そういえば、イグノス様が最初に言っていたっけ。


『とにかく、君が山を買って、ここに住んでくれると、すごく助かるんだ』


 もしかして、これのことなのだろうか。

 それにしても。


「……そんなに精霊がいるいないで、違うの?」


 私にはまだ見えない精霊たち。

 それがホワイトウルフたちに、どんな影響があるのか、気になるところ。


『違いますね……我々の食料となる生き物たちは、当然、山々にある木の実や植物を得て生きているわけですが、その植物には当然魔力が含まれています。その魔力は、精霊たちがいればいるほど、多く含まれ、精霊の少ない場所やいない場所では、魔力の少ないモノしか育たなくなります(実際、人の食べる物の魔力量は少しずつ減っていっているし)』

「うん? それって、魔力を補充しないと、魔法が使えないってこと?」

『魔力のない食物を食べ続ければ……いつかはそうなるでしょう』


 自力では生み出せないの!?

 単純に、ファンタジーなイメージで、自分の身体の中を巡る魔力~、みたいなのを想像してた。


「い、今は、まだ大丈夫ってことよね?」

『……しかし、徐々に精霊が減ってきています。その理由については、わかっておりませんが』


 むむむ。

 本来、魔法が使えるわけでもない私にしてみれば、あんまり困る話ではない。むしろ困るのは、この子たちだ。


『でも、五月様がいらしてから、この山の精霊たちが増えてきているので、本当に助かってるのです』

「そ、そっか~」


 私の方は無自覚だから、なんとも答えにくい。


『さぁ、ここです』


 そう言って下ろされた場所は、周囲に低木しかない、雨ざらしともいえる小さな洞窟。山頂から少し下った所にあり……。


「あれ?」


 私のいる敷地の反対側を見下ろせる場所のようなのだが。


「こっち側、立ち枯れしてる木が多いんじゃない?」


 青々としている木々と対比して、かなり深刻に見える。


『ええ。恐らく、ブラックヴァイパーの影響が色濃く残っているのだと思います』

「ブラックヴァイパーって、あの、デカい黒蛇?」


 ハクとユキを襲ったアイツが放っていた瘴気の影響だろうという。じゃあ、なんでうちの近所に影響がなかったかといえば、やっぱり、私がいて精霊たちがいたおかげらしい。


 ――私、生きた防腐剤?


 思わず顔が引きつりそうになる。


『これが元に戻るには、通常なら何十年、最悪の場合、何百年とかかるでしょう』


 ビャクヤの悲し気な瞳が、荒れてしまった山の斜面をジッと見つめた。

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