第79話 山頂からの景色
まるで、某アニメの山犬に跨るヒロインのように……いくわけがなく。
「ふぎゃぁぁぁぁぁっ!」
『……うるさいのぉ』
「なんですってぇぇぇっ!」
『もうすぐだ、もうすぐ』
呆れた声を出すビャクヤの背中にしがみついて、私は山の中を駆け抜けていく。
気合を入れて立ち上がり、諸々を片付けると、ビャクヤが伏せをし、私に乗れと促した。馬にすら乗ったこともないのに、狼に跨れと。
「いやいやいや、無理でしょ」
『しかし、我々の洞窟は山頂付近にあるのですが』
そう言われて、慌てて山の斜面を見上げる。
ここから見えるのはずっと続く木々のみ。山頂って、どの辺なのよ、と思う。
……車ではまず無理だね。
……マウンテンバイク……あっても乗れない。
……徒歩じゃ、今日中に着くかどうか。
そして再び、ビャクヤの背中を見る。
――私に乗れるだろうか。
『早く乗らないと、日が暮れますよ?』
まだ、昼前だし。
……いや、彼の背に乗っても、それくらいの距離があるということか?
『さぁさぁ』
「え、ちょ、ちょっと、シロタエさんっ!?」
『はい、よいしょっと』
「え。えぇぇぇっ」
『さぁ、掴まってくださいよ』
そう言ったと同時に、タッタカターと敷地を飛び出した。
「のぉぉぉぉっ!」
『……』
山の中を私の叫び声が響く。
目を閉じ、しっかと毛を掴む。
「ま、まだなのぉぉぉっ」
『……叫ぶ元気はあるようですね』
『もう、そろそろです。下を見てみますか』
そう言うシロタエの面白がるような声とともに、ビャクヤの言葉に、うっすらと目を開けてみる。
「うわ……」
眼下に針葉樹の緑色の山裾が広がり、その先に少し細い川が流れているのが見える。ずーっと広がるのは荒地なのだろうか。それとも、季節柄、草が枯れているだけなのだろうか。
いつの間にかゆっくりとした歩調になっていたビャクヤのおかげで、落ち着いて見られるようになる。
背の高い木々が消え、岩場が増えてきた。そして、当然見える範囲を広がるわけで。
「……全然、人家がない」
初めて、キャンプ地周辺以外の風景を見た。
あちらの世界では、山頂から見える風景とはいえ、平野があれば道沿いに家がちらほら見えるもの。しかし、ここから見える景色に……舗装された道路などはなく……あれが道か? と思えるようなものがあるだけ。 そして、そこを動く影もない。
「え、これ、町とか村ってあるの」
最初に出た言葉はこれだった。
今まで地図で見てきたのは、この山だけだった。フタコブラクダのお尻の方。自分でそう言ってきた。ふと前方を見ると、こちらの山より少しだけ高い山が見えた。
『我々は、以前はあちらの山側にいたのです』
「そうなの?」
こちらと同じような山の景色に、わざわざこちらに移ってきた理由がわからず、首を傾げる。
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