第77話 ホワイトウルフの願い事
電波が届かないからネットも電話も繋がらないスマホだが、時計やカレンダー代わりにはなる。
朝目が覚めて、久々にスマホに表示されている日付を見て、もうすぐクリスマスになるのを思い出した。
「むーっ、全っ然、クリスマスらしさないけどね」
ツリーもなければ、リースもない。電飾を飾るでもない。
「まぁ、去年も結局、仕事で2日遅れのクリスマスだったし?」
去年の元カレとのクリスマスデートを思い出す。
それも仕事帰りにちょっと食事をしに行くだけという。プレゼントも私は元カレにネクタイを贈ったのに、彼の方は時間がなくてと言い訳をしながら、食事代を出すから、と何も貰わなかった。食事代だって、そんな高級なお店というわけでもなく、会社の近くにあった比較的リーズナブルな焼肉屋だったし。
思い返してみたら、あの時点では、すでに元カレは先輩の女性と不倫してたのかもしれない。
「あ……思い出したら、腹立ってきた」
怒りのぶつけどころは、薪割か、狼毛フェルトか。
とりあえず、起きだした私は、朝食を作るべく、階下のキッチンへと向かった。
籠に入った洗濯物を抱え、外へと向かおうとした時。
ガリガリガリッ
玄関のドアを引っ搔く音がした。
最近、ハクがドアのノック代わりに、引っ搔くようになったのだ。
「ああ! わかった、わかった! ちょっと待って!」
おかげで、玄関のドアは傷だらけ……になるかと思いきや、翌日には直っている。
……あら不思議~。
この程度の異世界仕様には、もう驚かなくなった。
「はいはい、おはよう~」
洗濯籠を床に置き、ドアを開けてみると、今日は家族総出でやってきた。
「あら。ビャクヤにシロタエ、久しぶり」
『おはようございます。五月様』
頭を下げる親とは反対に、子供らはすでに元気に敷地を走り回っている。
私は籠を抱えて、外に出る。今日はいい天気になりそうだ。
『はい、今日はお願いがあって参りました』
「うん、どうしたの?」
ごめんね、と言いながら彼らの前を通り、物干し台へと歩いていく。
『実は……この冬の間、子供たちをこちらにお預けできないかと思いまして』
「へ? うちに預ける?」
『はい』
それまたどうして、と聞いてみると。
今いる洞窟が手狭になってしまったらしい。従魔になる以前のサイズであれば、家族全員で入ってもなんとか住めたらしいのだが、子供らがピレネー犬サイズになったと同様、実は何気に親たちも若干大きくなっていたらしい。
『それにですね……ここでの水を飲んでいるせいもあってか、また、少し大きくなってきたようで』
「えっ」
そう言われてみれば、ピレネー犬サイズよりも……大きくなってる?
もしかして、某アニメ映画の山犬たちくらいになってないか。
「い、いつの間にっ」
『ここのみず、おいしーのっ!』
ユキが自分たちのことを話されているのを知ってか、駆け寄ってきた。
「そ、そうなの?」
『ええ、ここの水には、水の精霊たちが豊富な魔力を注いでいるので、我々、魔物や聖獣には、たまらないごちそうなんです』
シロタエの言葉に、あんぐりとなる私。
「も、もしかして、その水使ってたから、野菜、デカくなったの?」
『それだけではないでしょう。恐らく、土の精霊も力をこめているでしょうから』
な、なんか、知らないうちに、魔力たっぷり素材が出来ちゃってる!?
「え、じゃ、じゃあ、そんな野菜を食べてる私はどうなっちゃうの」
『もしかしたらそのうち、精霊達を見ることも出来るようになるんではないでしょうか』
……。
……。
……よっしゃー!
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