第73話 薪を作る(3)
まだ中途半端に残っている丸太と木片はそのまま『収納』にいれた状態で、薪の形状になっているものだけ、薪小屋に壁に沿って並べていく。ボーナス薪は私の背丈くらいの高さまで積んであるが、今日作ったのは、まだその半分にも満たない。それも、小屋の横幅半分くらいしか出来ていない。
「これが使い物になるのは、早くても1年後くらい?」
ボーナス薪でなんとか凌げるか、不安になってくる。ここの冬がどれくらい厳しいのかがわからないのも、その不安の一つでもある。
今朝も、もう寒くて暖炉に火を入れたくらいなのだ。
『すぐに使えないのですか?』
ビャクヤが小屋の中を覗き込みながら聞いてくる。すでに雨に濡れてしまっているのに、彼らは気にしないのか、子供らに至っては、敷地の中を走り回って、泥だらけだ。
元々、野生の生き物ではあるものの、彼らの小屋……犬小屋ならぬ、狼小屋でも作ってあげないとだめかしら。すでに、この山のどこかに棲み処があるのだろうけれど。
「はい。一度、しっかり乾燥させないと、火がつかないんです」
私は小屋の中を見て、ため息をつく。乾燥が1年で済めばいいんだけれど。
『ふむ。乾燥させたいなら、風の精霊にでも頼んでみればどうですか』
「は?」
『奴らも、やる気満々のようですよ』
「へ?」
私には見えない精霊たちを、ビャクヤには見えているらしい。私は周囲を見渡すけれど、まったく見えない。
「いやいやいや、え?」
『やってみせてやれ』
その一声に、ぶわっと風が入ってきたかと思ったら、くるくるっと渦を巻いたかと思ったら、そのまま外へと出ていった。
「な、何事っ!?」
『一本、持ってみては?』
ビャクヤの言葉に、恐る恐る、手前の薪に触れてみる。
「え、何、これ。すごっ」
持ち上げてみると、先ほどまでのしっとりした感触も、重量感もなくなって、対面に置いてあるボーナス薪と同じくらいに乾燥している。
「やだ、凄いっ! 凄いよ!」
感動のあまり、年甲斐もなく、ぴょんぴょん飛び跳ねる私。
「精霊さん、ありがとね!」
見えない相手であっても、ここはお礼を言わねば。
しかし、これって、ビャクヤが言ったからやってくれたのであって、私がお願いしてもやってくれるのであろうか。
『五月様のお願いであれば、彼らも喜んでお手伝いすると思いますよ』
私の考えを読んだかのように、シロタエがビャクヤと並びながら言った。
「そ、そうかな……だったら、次の機会にでもお願いしてみるわ」
『彼らも喜ぶと思いますよ』
だったらいいな、と出来上がった薪を見ながら、そう思った。
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