冬ごもり、満喫中

第70話 道なき道を進む

 名前を付けたホワイトウルフたちは、なんと、私の従魔になってしまった。


『サツキ~』

『おはよう~』

「おはよう」


 おかげで、この子たちの言葉が、直接耳に届いてくる。なんとも不思議な現象。さすが異世界。

 洗濯物を干しているところに、駆け寄ってくるのは可愛いのだが、いかんせん、あの名づけ以来、一回り、いや、それ以上にデカくなってしまって、前とは迫力が全然違うのだ。

 前は柴犬並みだったのが、ピレネー犬くらいデカくなっている。おかげで。


「ちょ、お、重いって!」


 背中におぶさってくるのはオスのハクの方。ベロンベロンと頬を舐めてくる。


『サツキ、サツキ』

「はいはい、わかった、わかったって! 洗濯物干したら、行こうか」


 ハクたちは、私が草刈り&木材集めに行くのを、ついていきたがる。彼らにしてみれば、別に何をするわけでもないだろうに、私の後をついてきて、そのうち、山の中に入って追いかけっこを始めるのだ。この山に住む獣たちにしたら、こんなに大柄なホワイトウルフたちが騒いでたら、落ち着かないだろうに、と思うのだが。

 子供たちはいつものように遊びに来るが、親達は前と変わらず、ほとんど顔を見せに来ることもない。どこにいるのかわからないけれど、子供たちの近くにいるんだろうなぁ、と思う。


 異世界の町に向かうべく、草刈り機でどんどん下山する道を作っている。

 途中、ドーンと大きな木が立っていることもある。私はそれをさっさと『伐採』していく。

 一応、軽自動車が通れる幅を維持している。こっちの世界が、どの程度の文明なのか、ちゃんと聞いていなかったけど、最低ランク(中世くらい?)を見越しておけばいいか、と思っている。何せ、盗賊がいるとか言ってたし。

 これで、普通に銃とかあるような世界だと、車の中にいても、安全とは言い切れないか。


「ドローンとかで、周囲を見られたらよかったんだろうけど」


 カメラ付きのドローンとか買えばよかった。そこまで、頭が回ってなかった自分に呆れる。この前のあちらでの買い出しを最後にしたから、これ以上お金を使わないためにも、我慢しよう。買うなら、春になってからでもいいはずだ。


『サツキ~、この木、どう?』


 メスのユキが、お勧めの木に爪をたてる。


「いいね。ありがとう!」


 そう言うとユキは嬉しそうに、尻尾をふるから、可愛くて仕方がない。


『サツキ、サツキ! これ! これ!』


 負けじとハクも、かなり大きな木に爪をたてた。


「ちょっと待ってて! そこまで行くのに、雑草が邪魔だわ」


 彼らにしてみれば、気にせずドンドン進めるんだろうけれど、私は草刈り機で道を作らないと無理な草の高さなのだ。


「お、いいね。では『伐採』」


 ハクの頭をごしごしッと撫でてあげると、嬉しそうに尻尾を振り回す。


 ……いやぁ、幸せってこういうのを言うんだろうなぁ。


 肌寒くはなったものの、まだ秋の終わりな感じが抜けない、山の中。


「雪が降る前に、どれくらいまで進めるかなぁ」

『サツキ、よんだ?』


 ひょこっと草むらから顔をのぞかせるユキに、「呼んでないよ」と答える。

 ボーナスの薪を貰ったとしても、いつまで持つかわからない。貯められるうちに貯めておかないといけない。

 そう思いながら、私は道なき道を、草刈り機を振り回しながら進んでいく。

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