第68話 稲荷さんの方が格上だった

 牙を剝きだしながらも、尻尾を足の間に巻き込んでいるホワイトウルフの子供たち。明らかに怖がっている……わりに、キャンキャンとは鳴かない。そこは、ホワイトウルフとしての意地なのか。


「おやおや、ずいぶんと生意気な犬が入り込んでいるようですね」

「わんわんわんっ(いぬじゃないやいっ)」

「わんわんっ(おまえこそ、だれだっ)」

「望月様、これが何だかわかってますよね?」

「え、あ、えっと、ホワイトウルフ?」

「一応、魔物の一種ですけど……この敷地に入るのを認めてしまったようですが」


 ありゃ、まずかったかしら。


「あー、でも、悪いことしない、いい子たちなんで」

「わん♪(そうだぞ♪)」

「グルルルル(いとしごは、やさしいぞ)」

「……ああ、なるほど……まぁ、望月様がいいのなら、かまいませんが(この敷地の守護にもいいかもしれませんしね)」

「よ、よかった……ほら、何せ、ここ、誰も来ないですし」


 たまに稲荷さんが荷物を持ってきてくれたりしてたけど、ほとんど、自分一人。寂しくない、とは言わないけれど、この子たちが来るようになって、少しだけ、心の余裕ができた気がする。


「お前たち、ここの守護を頼むぞ」


 そう言って稲荷さんが手を伸ばそうとしたら、子供たちは鼻先だけで匂いを嗅いだとたんに、一気に飛びのいた。その飛び方の勢いが凄くて、思わずびっくり。


「ウウウウッ(おまえ、なにものだっ)」

「ウウウウッ(つよいもののにおいがするっ)」

「……おや」


 稲荷さんが、外の方に目を向ける。


「……何やら、強い魔物がいるようですね」

「えっ」


 稲荷さんの言葉に、固まる私。また、あの蛇みたいなのがいるの? と思っていたら。


「この子らの親でしょうかね」


 そう言って、さっさと貯蔵庫から出て行ってしまった。

 私は慌てて追いかける。

 湧き水側の出入り口の方へと歩く稲荷さんと、その後ろを尻尾を振りながら追いかけ、追い抜いていくホワイトウルフの子供たち。

 あっという間に、彼らはさっさと出て行ってしまった。

 私が出入り口のところまでやってきてみれば……なんと、あの大きなホワイトウルフの親たちが、頭を下げて座っているではないの。


「この子らは、お前たちの子供か」

「グルル(はい)」

「そうか……ぼそぼそぼそ」

「……グルル」

「………」

「……」

「なんですって……まぁ、それは済んだことですから」

「……わう」

「………」

「グルルルル」

「わふっ」

「なるほど」


 私の耳には、彼らがどういった会話が成り立っているのか、さっぱりわからない。

 というか、明らかに、稲荷さんのほうが上の立場にいるのがわかる。まぁ、お稲荷様だし、神様なわけだし、当たり前なのかもしれないけど。

 中年男性の姿の稲荷さんが、ホワイトウルフ相手に普通に話している姿が、なんだか変な人に見えた。

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