第67話 ボーナスは薪

「やってしまった……」


 自分でも、ここまでタガが外れるとは思わなかった。

 食料品だけではなく、思いついた物を思い切り買い込んでしまった。いや、これから先のことを考えれば、アリといえばアリなんだろうけれど。

 その上、帰り際に管理小屋に寄って、稲荷さんに、『薪、あるだけ持ってきて』なんて言っちゃうなんて。

 いや、まぁ、自分でこれから薪を作ったところで、すぐには使えないのはわかってるんだけど。


 翌日、稲荷さんが軽トラに山ほどの薪を載せてやってきた。


「すごい剣幕だったので、驚いてしまいましたよ」


 笑いながら3つ目の小屋(薪専用にしてしまった)に、どんどんと薪を積んでいってくれる。これ、全部でいくらになるのかなぁ、なんて、背中に冷や汗をかきながら思ったら。


「いいです、いいです。これ、イグノス様からのボーナスってことで」

「ボ、ボーナス!?」

「あれ? 人の世界では、夏と冬にボーナス出ますよね?」


 まさかの現物支給。いや、契約にはボーナスについては触れていなかったはず。貰えるだけ、ありがたい。


「ありがとうございます……って、それは?」


 薪を積み終えた後、汗一つかかずに、今度は段ボールを1箱、助手席から持ち出してきた。


「ああ、これはですね、猟友会からのいつもの肉と、干し柿とか干し芋、それにキノコですね」

「え? え? こんなにですか!?」

「食べられる、食べられるって……これ、ログハウスでいい?」

「あ、いや、じゃあ、貯蔵庫にお願いします」

「貯蔵庫?」


 ドアも完成した貯蔵庫だけれど、一応、敷地から直接行けるように、ちゃんと柵で囲うようにした。だから、いつもホワイトウルフの子供たちは、湧き水側の出入り口から遊びに来るようになった。

 そして、昨日買った物の食料のほとんどは、貯蔵庫にしまったけれど、まだまだ余裕。

 さすがに直置きは、と思ったので、とりあえずグリーンシートを敷いておいたけれど、早いうちに棚も作らなきゃ。

 LEDライトを片手に、貯蔵庫のドアを開ける。外よりもひんやりとした空気を感じる。


「おお~! 随分と立派なのが出来ましたね」

「とりあえず、そこの一番奥に置いておいてください」


 稲荷さんが段ボールを抱えながら、入ってくると、荷物を置いて周囲を見渡す。


「水と土の精霊が、ここを見てくれているようですね」

「へ?」

「ここの温度調整、彼らがしてくれているみたいですよ?」


 ま・じ・か。


「まだ、望月様には見えませんか」

「え、いつか見えるようになります?」

「そのはず、なんですけどねぇ」


 どうやったら見られるようになるんだろう、と、稲荷さんに聞こうと思ったら。


「わんわんわんっ!」

「がるるるるっ!」


 いつの間に来たのか、ホワイトウルフの子供たちが、貯蔵庫の入口で、毛を逆立てて吠えまくっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る