第46話 にわとりがやってきた!
今日は何をしようか、とイスに座りながらタブレットをいじっていると、出入り口の方から車がやってくる音がした。
「おはようございます~」
SUVを止めると、稲荷さんがにこやかに手をあげながら車から降りてきた。
「おはようございます」
「いやぁ、ずいぶん短時間で、凄いことになってますねぇ」
「そ、そうですか?」
「さすがに、ここまでとは思いませんでしたよ(まさか、こんな立派な結界まで張られるとは……それに、この精霊たちの量……彼女に見えなくて正解です。騒々しいことこの上ない)」
久々に人に褒められて、ちょっと嬉しくなる。
「えーと、どういったご用件で?」
「そうそう、この前聞かれてた鶏の件なんですけどね」
稲荷さんが、SUVのトランクから大きな段ボールを下ろしてきた。
「ご依頼の鶏です」
「え、えー!?」
「ちょっと遅くなりましたがね、知り合いに譲っていただけたんで」
「え、あの、おいくらです? 今、ちょっと現金があんまりないんですけど」
慌てて、リュックに財布を取りに行こうとしたら。
「いえいえ、お金はけっこうですよ」
「でも」
「いやぁ、ここまで(聖女の力で)やっていただけているなんて、思ってなかったので。ぜひ、これからも頑張っていただくためにも、これは貰ってください」
「え? いや、でも」
「鶏小屋は、あれですか? 随分と立派なものを」
稲荷さんは段ボールを抱えて、すたすたと鶏小屋へと向かっていく。
箱から現れたのは茶色い鶏が3羽。てっきり白い鶏だと思っていた。
「あの、本当に頂いていいんですか?」
「いいです、いいです」
「ありがとうございます!」
思わず、鶏小屋で、コッコ、コッコと鳴いている鶏を見入ってしまう。
「一応、餌も少しだけ、持ってきました」
稲荷さんは、車のトランクから、大きな紙袋を抱えて持ってきてくれた。ドスンっという音からも、かなり重そう。
「とりあえず、これでいけるとは思いますが、普通にこの辺の草をやっても大丈夫だと思いますよ」
「はい、門が出来たら、放し飼いにしようかと思ってたんです」
「おお、なるほど……(出来たら完璧な防壁になるでしょうね)」
「ほんと、ありがとうございます。あ、よかったら、お芋、持ち帰られませんか」
お金が駄目でも、食べ物だったら、断られまい。
私は畑で採れた芋をビニール袋に詰めて渡す。
「おおお、ずいぶん立派(で十分に魔素を蓄えた)お芋ですね! ありがたく頂戴しますよ」
ニコニコ笑って受け取ってくれた。これで、少しホッとする。
「それにしても、まだ家は作られないんですか?」
稲荷さんが小屋を見てから、テントの方へと目を向ける。
「あ、えーと、『収納』のスペースは十分にあるんですが、木材がちょっと足りなそうで」
「山の方には、まだまだありますよね」
「いや、あの、前に獣がいるって」
「あ! あー、なるほど!(彼女には魔法が使えないのでしたね)忘れてました」
それから周囲を見渡す稲荷さん。一瞬、山の上の方に目を向けると、ジッと睨みつけていた。
「何か?」
「いえいえ……そうですね、それでは、これをお渡ししておきましょうか」
そう言って、急に稲荷さんの掌に大きめな鈴……いや、カウベル? ……が出てきた。
「これを腰に下げていれば、獣避け(本当は、魔物避け)になりますので」
「え、本当ですか!?」
受け取ると、ガランガランと、鈴、というには可愛げのない音が聞こえてきた。
「頑張ってログハウス建ててくださいね」
「はい!」
思わず満面の笑みで返事をした私なのであった。
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