第44話 にわとりを飼いたい(1)
黒いポットに入れておいた野菜たちは、普通に順調に育っているはずだ。芽は出てないけど。芽が出て大きくなったら畑に植えかえるつもりだ。
その一方で、畑に植えた野菜たちは……一度、全部、掘り返した。おかげで、今はまっさらな状態。だって、一人で食べきれる量じゃないんだもの。一応、全部常温保存できるので、以前買ってきておいた大きめな麻袋に詰め込んで、小屋に保存してある。
そして、前から思っていたこと、鶏を飼うことを実行に移すべく、まずは鶏小屋を建てることにした。
場所は、畑のある場所の山際。あんまりテントの近くだと、うるさそうだったし。
当然、『タテルクン』の活躍で、小屋より一回り小さいものが出来上がった。それでも、10羽くらいは飼えそうだ。
「そういえば、こっち側にはガーデンライト、つけてなかったっけ」
テントから見える範囲にしか、ライトをつけてなかったことを思い出す。ソーラーのものだから、ぼんやりした明かりかな、と思っていたのだが、意外にしっかり明るいので、夜もそれほど不安を感じない。
トイレの明かりもそうだけど、その奥の暗さは、やっぱり何かがいきなり出てきたら怖いかもしれない。
「ライトもだけど柵でも建てておくべきかな……鶏、山にでも逃げ出されたら、一発で見失いそうだもんね」
周囲を柵で囲むって、どれだけ木材が必要なんだろう、と思ってげんなりする。テントの背後の山の木々に目を向け、ため息が出た。
翌日、稲荷さんのいる管理小屋に向かう。
「こんにちは~」
「あ、こんにちは。オーナーですね」
今日は鉈の話をした青年が、カウンターにいた。すっかり、顔を覚えられている模様。
「おや、望月様」
「どうも」
あっちの話をするのだろうと見越してか、青年に任せて、打合せ用のテーブルの方へと案内してくれた。
今日も、稲荷さん特製煎餅らしい。お茶の入った湯呑とともに、持ってきてくれた。
「どうかしましたか」
「あの、稲荷さんの伝手で、鶏、譲っていただけるとこ、ありません?」
「鶏ですか?」
「あ、はい。お金が必要なら、支払います」
私の言葉に、うーん、と考え込む稲荷さん。
「すぐにはちょっと思いつかないんで、お時間いただけます?」
「あ、はい、それは全然」
手っ取り早く稲荷さんに話を持って行っただけだし、無理でもネットで探せば、ありそうな気もしている。
「そういえば、畑も始めたんですけどね」
ばりぼり
「んむ、なんか、凄い勢いで育ってるんですけど、あれ、精霊さんパワーですかね」
「ぶっ」
稲荷さん、お茶、吹かないでください。
「凄いって、ど、どの程度です?」
「ん~、一日で収穫できちゃう、みたいな?」
「……おそらく、精霊でしょう(何やってるんだ、あいつらは!)。あちらも、作物の成長は、基本的にこちらと変わらないはずです」
「やっぱり?」
異世界はどこでもそうだったら、それはそれで凄いな、と思ってたのだが。
「まぁ、個別に黒いポットに入れているのは、まだ芽も出てないんでいいんですけど、植え替えたら」
「ええ、たぶん、翌日には収穫できるかもですね……望月様、よっぽど、気に入られてますね」
呆れたように言われても、私が特別何をしたというわけでもないんだけど。
管理小屋で水の補給だけすると、買い出しのために、そのままホームセンターと大型スーパーへと向かったのだった。
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