第43話 畑を作ってみる(2)

 あちらの野菜の種を植え終えたら、今度は『ヒロゲルクン』の野菜たちに挑戦だ。

 季節的に無理があるかもしれないから、本当に試しに、ってこと。


「えーと、まずはマップで畑の範囲を指定しなけいけないのね」


 一応、水やりがしやすいように、人工池近くの場所に、10m×10mの範囲で土起こしをした。芋・たまねぎ・にんじんの3種類を植えて、空いてるところには、黒いポットの野菜たちを植えかえる時に使うためだ。

 一応、人工池寄りの部分に、『ヒロゲルクン』の野菜たちを、1列ごとに指定した。

 ……ポンポンポンッと苗が生えた状態で現れましたよ。見事です。


「異世界すご~い」


 この展開はある程度予想はしていた。

 なるほどなぁ、と思いつつ、棒読みになってしまう。


「それじゃ、お水を撒いてあげましょうかね」


 再び、人工池の水をくんで、如雨露で水を撒く。ここでも、キラキラ光って、ついつい笑みが浮かんでしまう。


「早く大きくなってね~」 


 芋とたまねぎ、にんじんで、もうカレーしか思いつかない。


「あー、ほんとに稲荷さん、お肉わけてくれないかなぁ」


 如雨露片手に、呟いた私だった。




 次の日の朝。

 

「なんじゃこりゃ!?」


 テントから出てきたところで、目に入った光景に声を上げずにはいられなかった。

 昨日植えたばかりの『ヒロゲルクン』の苗たちが、もうすでに青々とした葉を茂らせているのだ。にんじんにいたっては、オレンジ色の頭がひょっこり見えているくらいだ。


「いやいや、これ、おかしいでしょ」


 思わず畑に駆け寄り、芋が生えているであろう茎を思いきり掴んで、引っこ抜いてみた。


「……じゃがいもだ」


 それはもう、立派なじゃがいもが生っておりましたよ。まさかと思い、玉ねぎも抜いてみると、これも丸々とした玉ねぎさん。サイズでいったらLLサイズじゃないだろうか。新玉ねぎとしてサラダにして食べてもいいかもしれない。


「あー、これも、もしかして、精霊さんたちのおかげなのかしら……ありがとうねぇ」

 

 感謝の言葉を呟きつつも、この量、どうしようか、参ったなぁ、と思うのであった。


          *   *   *   *   *

 

 少し濃い黄色い光の玉が、茂った葉の間を飛び交っている。


『ふぉふぉふぉ~、せいじょさまから、ことばをいただいたぞぉ』

『やっと、われら、つちのせいれいのちからをつかわせていただける~』

『ぼくらのみずのちからだって、まけないぞ~』

『わたしたち、ひかりのちからだって~』

『でも、あっちのちいさいのは、まだ、めしかでてないぞ』

『うむ、あのつちのりょうでは、な』

『はやく、ひっこしさせてくだされば、われらがちからをおみせできるのに!』


 色様々光の玉が、五月のまわりを飛び交っているが、やっぱり五月は気が付かない。


『あいつは、あんなにせいれいたちにまとわりつかれてるのに、じゃまじゃないのかなぁ』


 木々の隙間から覗く、2対の金色の目。子狼が、隠れながら、キャンプ地を覗いている。


『それよりも、はやく、かえろう? とうさまにしかられる』

『むぅ、もうちょっと』

『またくればいいじゃん』

『えぇ~』

『もう!』


 もう一匹に首を噛まれながら、引きずられて戻っていく子狼。

 それを狙っている大きな獣がいることを、彼らはまだ知らない。

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