第42話 畑を作ってみる(1)

 ログハウスから現実逃避した私は、別のことをやろうと思った。


 畑である。


 今までは、週に1回程度、少し遠い大型スーパーに買い溜めに行っていた。でも、せっかく目の前に土地があるのなら、家庭菜園的なことをやってもよかろうと思ったのだ。

 どうせ、一人で食べる量だ。売り物にするつもりがないので、少量でいいだろう。


「一応、畑用に土を掘り返しとかないといけないよね……ここは、『ヒロゲルクン』の出番ですな」


 わくわくしながら、斜め掛けしているバッグからタブレットを取り出した。

 そう、いつも手に持ったり、地面に置いたりしていて背面(狐のキャラクターのあるほう)を傷つけたり、移動して忘れたり、というのもあって、持ち運べるようにバッグを買ったのだ。

 ……ちなみにタブレットの背面の傷は、翌日には消えていました。さすが異世界クオリティ。


 土を耕すのも『ヒロゲルクン』で出来るらしい。自分で鍬を持って耕さないで済むのはありがたい。その上。


「え、もしかして、苗から植わったままの状態でスタート!?」


 ただ土を耕すだけの機能も当然ある。

 しかし、メニューにある植物の名前を選択すれば、それの苗の状態で現れるのだという。


「ここにも異世界クオリティ」


 一応、作れる作物のリストを見てみると。


 ・芋

 ・豆

 ・たまねぎ

 ・にんじん

 ・とうもろこし

 ・トマト


 芋って、どの芋? ジャガイモなのか、サツマイモなのか。豆だって、種類は色々あるんだけど。これは、この世界にある食物で、生産されている物という括りなのだろうか。

 この時期に植えたとして、ちゃんと育つのか微妙なものばかり。


「やっぱり、種買ってきておいてよかった」


 ホームセンターの入口に置かれていたラックに、色んな種類の種が並んでいた。一応、スマホで検索して、秋に蒔いてもよさそうなのを買ってきたのだ。


「いきなり直播しちゃ駄目よね」


 ついでに買ってきていた黒いポット。キャンプ地の土をそれに入れて、種を蒔く。今回買ってきたのは。


 ・大根

 ・ほうれん草

 ・キャベツ

 ・にら


 種の袋を見ていたら、鍋が食べたくなった。


「また、稲荷さん、猪肉とかくれないかな」


 考えただけで、口の中によだれが。すっかり、簡単な食べ物ばかりが続いていたから、久々にガッツリ食べたくなる。


「まずは、育たないと食べられないし……今度、スーパー行ったら買ってこようっと」


 ちゃんと、どれが何の種か、わかるように並べる。パッと見ただけじゃ、全然わからなくなるし。

 どうせ一人で食べるのだ。かといって、全部が全部、うまく育つとは限らない。


「うーん、全部、15個ずつでいいかな」


 とりあえず、小屋の前にポットを並べていく。西日がもろに当たる場所だけれど、夏ほどの強さはないだろう。

 最後に如雨露に人工池の水を入れる。

 けして水深は深くはないけれど、いつもひんやりした水が湧いている。すっかり泥も落ち着いて、水も透明だ。なんとなく風呂小屋の水ではなく、自然に湧いている水のほうがいいかなと思ったのだ。


「さて、大きくな~れ~、美味しくな~れ~」


 そう唱えながら水をやる。光の加減のせいなのか、妙にキラキラ輝いている気がする。


「フフフ、精霊さんたち、よろしくねぇ」


 見えないなりに、声だけをかけてみた。

 いつか見えるようになるかもしれないし? 鰯の頭も信心から、っていうものね。

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