第40話 小屋を作ってみる
『ヒロゲルクン』の『伐採』は素晴らしかった。『収納』もバージョンアップしたし、どんどん大きめの木もしっかり保存できた。2日がかりで30本くらいを収納した。
そのまま、『タテルクン』で小屋を作れればよかったのだけれど。
『枝払いされていないので、利用できません』
……そこは、やってよぉぉぉっ!
叫びそうになったのは言うまでもない。
仕方ないので、キャンプ地で何もない場所に、一本ずつ置くと、汗だくになりながら黙々と枝払いをした。これにも結局2日ほどかかった。
「もう、これで作れるでしょ?」
思わずタブレットに質問してしまう。返事は当然、来ない。
タブレットの画面で『タテルクン』を立ち上げ、メニューで『小屋(床が土)』を選んだ。
「おお~」
まさに一瞬だ。
腹が立つほど一瞬で、目の前に出来上がった小屋が現れた。ピカッと光るとか、目の前で組み立てられていく、とかいうファンタジーな展開もなく、ストンッと目の前に現れたのだ。簡易トイレの時と同じである。
屋根は切妻屋根、壁はコの字で正面には壁はない。当然、窓はない。床はそのまま地面になっている。車1台分くらいのスペースだろうか。そのまま駐車場にでもしてしまいたい。
「うん、悪くないんじゃない」
車だけじゃなく、他の工具類やスコップみたいな道具類を、こっちにしまっておくのもいいかもしれない。
それに、今のところ雨が降ることはないものの、テントよりも、こっちのほうが濡れないだろう。
「もう1軒、建てて、駐車場と倉庫に使い分けしてもいいかも」
素材はやっぱり木材20本のみだったようで、まだ10本残っている。
「あと10本……あはは、今日はやめとこ、さすがに、疲れた」
あとはこれをどこに置くべきか。
後々、移動させることはできるので、とりあえずテントの近く、風呂小屋と並べて置いてみた。
「床のところ、コンクリートとかで固めた方がいいかなぁ」
雨でドロドロになったら、直置きしてる荷物なんかも汚れそう。
「むしろ、棚とかをDIYしたほうがいいかもしれない」
一番面倒な小屋の部分を『タテルクン』がやってくれたのだものね。
* * * * *
山の木々の奥から、金色に光る一対の目。
『……人か、珍しい。いや、人ではなく……』
のそりと現れたのは、体長3メートルはありそうな、白い毛に覆われた狼。その瞳は、キャンプ地で車から荷物を移動させている五月を見つめている。
『とおさま』
『どうしたの?』
狼の後ろから、子狼が二匹現れた。
『……ついてきてしまったのか』
『ねぇ、ねぇ、あれはなに?』
『なんかいいにおいがする』
『……ああ、そうだな』
優しく子狼を見つめていた狼は、再び五月へと目を向ける。
『精霊の愛し子か……まさか、聖女様であるわけもなし……』
『いとしご?』
『せいじょさま?』
短い尻尾をふりふりしながら、父親を見上げる子狼たち。
『まだ、わからんよ。それより、母様が心配してるぞ』
『あ!』
『おこられちゃう!』
慌てて巣へと戻っていく子狼。
残った狼は、一瞬、キャンプ地に目を向け、そのまま無言で去っていった。
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