第32話 草刈りと収納

 すぐに梱包してあった箱に、説明書をつかむ。裏、表、と見るけど、どう見たって、異世界仕様のわけがない。普通にあっちの商品だ。

 草刈り機の電源を入れると、普通にキューンという音をたてながら動きだした。


「ちゃんと動く……ならいいのか?」


 自分でも納得はいかないけれど、それよりさっさと草刈りが進むなら。

 そう思ったら、草刈り途中の道へと向かう。行ってみると、入口付近には切った草や枝が無い。前に来たときは、翌日に消えていた。やっぱり自動で『収納』しちゃってるみたい。少し進めば、放っておいた草が残っていた。

 獣道のそばの石の上に、タブレットを置きっぱなしにして、ごみ集めをする。


「せっかくなら『収納』して……『収納』、『収納』、『収納』……うん、いっぱいになってる」


 目算でこれくらいか、と思ってタブレットを確認すれば、すでに満杯。

 すぐにいっぱいになってしまうのは玉に瑕だけど、KPにしていけるなら、どんどん変えてしまうにこしたことはない。

 ほぼ草が無くなったようなので、やっと草刈機の登場だ。


 キュイーン


「よーし、どれくらい勢いよく切れるかなぁ?」


 起動した音とともに、草刈機を構える。

 それを左右に揺らすように動かせば、気持ちのいいくらいに草が刈られ消えていく。


「おお、早い、早い~!」


 ヤバい。気持ちいい。

 あの自力で鎌をふるっていたのは、なんだったのだ。


「それより、早いとこ、『収納』のバージョンアップしちゃいたいわ」


 そう。『収納』はダウンロードだけではなく、バージョンアップもKPでできるのだ。

 どうせ、素材が集まらなければ、ログハウスも建てられない。KPがなければ『ヒロゲルクン』の機能にある『伐採』も使えない。

 たとえ使えるようになっても、『収納』に入りきらない可能性もある。

 さすがに自力で運ぶ自信はないし、材木置き場みたいなのも用意しないと駄目だろう。


 木々の間に、草刈り機の音だけが響いていく。それからは無心で草を刈っていった。


           *   *   *   *   *


 五月が草を刈っている間。

 彼女の背後、開けた場所にいくつもの光る小さな玉のようなものが、ふよふよと浮かんでいる。


『みんな、ひかりのちから、つめおえた?』

『とうぜん~』

『おい、あっちのはしのほうが、まだだ!』

『さっき、せいじょさまが、つかっちゃったから、こっちはけっこうがらがらよ』


 彼らは光の精霊たち。

 聖女である五月の手伝いをしたくて、ソーラーパネルやガーデンライトに自分たちの力をこめたのだ。だから予定の時間よりも早く充電が終わっていたのだ。

 それと同時に、地味に彼らの力もKPに加算されている。


『せいじょさま、ほかにてつだうことない?』

『わたしたち、まだまだやれるわよ?』


 しかし、彼らの言葉は届かないし、姿も見えない。

 それでも彼らは楽し気に、五月の周りを飛び回り続けた。

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