第33話 水場に到達

 草刈機を導入したとたん、草刈りが一気に進んだ。さすが電動。パワーとスピード、万々歳だ。なんとか湧き水のある場所の近くまで道を通すことが出来た。それでも4日ほどかかってしまった。

 幅はなんとか軽自動車が通れる程だろうか。


「……手持ちで10リットルのポリタンクは無理でしょ」


 歩くと20分くらいかかりそうな距離。ここからじゃ、キャンプ地が草の陰になって見えない。

 元々、車で往復できればと思っていたものの、Uターンができないなら、バックするしかないんだけれど、自分の運転スキルは、あまり上手いとは言えない。慣れないと駄目かな。

 汗を拭きながら周囲を見渡す。

 この道、右手が上に登っていくような傾斜になっていて、斜面のあちこちに岩がむき出しになっている。この上に湧き水があるようだ。一方の左手は、木々が多く生えているが、緩やかに下っているように見える。


「はぁ……車のことは後で考えよ」


 刈った草の量がおおかったお陰なのか、KPが思った以上に貯まっていた。

 そこで私が選択したのは、『収納』のスペースをワンランク広げるアップデート。どうせログハウスを作る素材が用意できていないのだ。容量は3㎥。微妙な広さではあるが、これでそこそこの大きさの物も収納できるはずだ。


 まだ少しKPが残っていたので、『ヒロゲルクン』の機能を使うことにした。

 最初は斜面にある大きな石、むしろ岩と言ってもいいかもしれないが、それを使って石段が作れないかと思った。だけど、万が一、それを『収納』してしまったら、斜面が崩れる可能性もありそうと思ったのだ。

 

「異世界凄い」


 タブレットを手に、奥行広めの小石混じりの土の階段が出来上がっていく様子に、目を瞠る。

 草刈りで出来上がった道、この表面部分を『収納』して、その土を利用してみたのだ。


 水場に至るまで、草刈りを終えてから3日。約1週間でここまでできたのは、異世界仕様のおかげだろう。


「岩の割れ目から染み出ているとはね」


 染み出た水滴が、岩の先端からポツリポツリと垂れている。

 受け皿のようになっている石は、長い年月をかけて水滴が落ちることによって擦り減ったんだろう。

 そこから溢れた水はまた地面の中に吸い込まれていっているようで、そのまま山の中に浸み込んで、地下水になっているのかもしれない。山の麓にいけば、もしかしたら地上に現れて川にでもなっているのかも。

 そんな風景を想像しながら、私はポリタンクを取りにキャンプ地に戻るのだった。


           *   *   *   *   *


 湧き水の周囲には、青みを帯びた光の玉がいくつも飛び回っていた。


『なぁなぁ、あれがせいじょさまか?』

『そうよ!』


 白っぽい光の玉が元気よく返事をする。


『いいなぁ、いいなぁ、あの甘い匂い』

『いいでしょ、あっちにいけばずっといっしょにいられるのよ』

『でも、あっちにはみずばはないだろう?』

『そうねぇ……だったら、あっちにもみずがでるようにしてあげたら?』

『なるほど! じいさん、ぼくら、あっちにいってみてもいい?』

『わしは、ここを守るから行けんが……迷惑にならんようにな』


 一際大きく青い光の玉が、老人のしわがれた声で答える。


『だいじょうぶさぁ』

『うれしい~』


 きゃぁきゃぁと楽し気な精霊たちの喜びの声が、山の中に響いていく。


『……何事だ?』


 山の奥深くに眠っていた何かに届いてしまったのは、当然のことだった。

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