第28話 水場を探そう(3)

「ちょっと……遠くない?」


 道なき道を行けと。

 縮尺がいまいちわからないのだけれど、ちょっとそこまで、な距離ではない気がする。だって、あのキャンプ地の何倍の長さよ。道があったとしても、歩いて行くのは無理じゃない?


「うん? ああ、そうだねぇ。でも『ヒロゲルクン』使えば」

「もうポイントないんですっ」

「お、おお……じゃあ、頑張れとしか言いようがないなぁ」


 稲荷さんも非情だ。

 そこは神様パワーでなんとかしてくれればいいのに、手伝いナシか。


「マジかぁ」


 思わず、その場に膝から崩れ落ちる。

 自力で草刈りしてポイントを稼ぐしかないのか。

 いつになったら水が飲めるようになるんだか。

 朝から気分よかったのに、がっくりである。


「あ、でも、でも、普通に水が欲しいんだったら、うちの水道の水入れてけばいいんじゃない?」

「はっ!?」


 慌てて言いだした稲荷さんの言葉に、目からうろこ。

 言われてみれば、ここのキャンプ場には水道が通ってた。


「え、でも」

「まぁ、この辺は名水とかでも有名な山が近くにあるんでね」

「異世界の水は?」

「うーん? どうなんだろう。まぁ、あの山の水なら大丈夫じゃない?」


 その根拠は何?

 ここの水道水を使うにしても、一度、煮沸したほうがいいのかもしれないけど。


「頑張って湧き水取りに行くか、ここの水道水使うか、どちらでも」


 にっこり笑う稲荷さんが、憎たらしく見えたのは言うまでもない。

 

「まぁ、早いところ、ログハウス、それもトイレ・風呂付きのを建てるのが無難じゃないかな」

「え?」

「あれには水道ついてるし」

「なんですって!?」

「あ、電気は通ってないから、家電製品は無理だよ? ……基本、魔力だしね」


 少しだけ期待した。うん、少しだけ。

 後半は聞き取れなかったけど。

「はぁ……どっちにしても山のメンテナンスをしないといけないわけだし、その湧き水まで草刈りするかなぁ」


 しかし、手で草刈りしてたら冬になりそう。電動の草刈機、買うか。そうなると、やっぱり電気が必要なわけで。本当に、電気で生活してきたんだなぁ、とつくづく思う。


「わかりました。水道って、あのキャンプ場の水場のところのですよね」

「そうそう」


 とりあえず稲荷さんの許可はもらえたし、しばらくはここに水汲みにくるしかない。大きめのポリタンク(蛇口付き)でも買ってきた方がいいかな。

 まずは、あの獣道を使える道にしたほうがよさそうだ。


 私は稲荷さんに礼を言うと、気を取り直して、管理小屋を出る。


「まずは、役所に行ってから、ホームセンターかな」


 車に乗り込むと、カーナビで役所と最寄りのホームセンターを探すことにした。


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