第26話 水場を探そう(1)
朝、もぞもぞとテントから外に出てみると、うっすらと靄がかかっていた。半袖短パンで出てみると、少し空気がひんやりしている。
まだ紅葉するような時期ではないけれど、確実に季節は変わっているのだろう。
「ん、ん-んっ」
思い切り伸びをしてみる。
もう何度かここで寝泊まりしているが、毎回、思うのは、身体が楽だってこと。軽い、と言えばいいだろうか。
「はーっ、空気もうまいっ」
都会のマンション暮らしの時は、朝から怠い日も多かった。あちらに比べたら、何もないし、不便ではあるけれど、気持ちのいい朝を迎えられるのは、幸せなことだと思う。
私は風呂小屋に行くと、歯磨きと顔を洗った。水がふんだんに使えるのはありがたい。
そのまま朝食の準備をする。クーラーボックスに入っている生卵とハムを取り出す。
明け方は少し冷えるようになったけれど、昼間はまだ、暑さが残る。生ものをずっとクーラーボックスにしまってはおけない。生卵は6個入りのにしといて正解だったかも。
「……先々、鶏とか飼うとかしたほうがいいのかな」
生みたての卵っていうのも、食べてみたいかも。
そんなことを思いながら、火の準備をする。固形燃料も、多めに買ってきてはいるものの、これも薪とかで料理できるようにした方がいいのかな。
キャンプ道具一式の入っているリュックからスキレットを取り出す。そこに少しだけ油をたらし、ハムに卵を落としてハムエッグを作る。
入れ替わりに、クッカーでお湯をわかす。スティックタイプのインスタントのコーヒーをステンレスのマグカップにいれた。お湯をいれると、コーヒーのいい匂いが漂ってきた。
コーヒー豆をひいた粉の方が、匂いも断然違うのだろうけれど、今は用意していない。それをやったら、きっと贅沢な時間を過ごせるのかもしれない。『違いがわかる〇〇』みたいに。あ、でもこれもインスタントのコーヒーのCMだったっけ。
次に食パンも網で炙って、軽めにトーストする。誰かの動画では、黒こげになっていたのが印象に残っていたので、ジッとパンが焼けるのを見つめる。
「ん、いい感じ」
パンの上に塩コショウを効かせたハムエッグをのせた。
「いただきまーす」
むしゃりとハムの部分を食べる。
「んまいなぁ」
そのままの勢いで黄身のところまでいくと、中央のまだ半熟の部分がとろりと流れ落ちてきた。
「あ、あ、もったいない」
指先についてしまった黄身をぺろりと舐めとり、一気にパンを食べつくした。
コーヒーをこくりと飲んで、再び周囲に目を向ける。すでに靄は消えて、青空が見える。ぼーっと見上げながら、今日も、まだ暑いんだろうか、と思った瞬間。
「……水、どうしよう」
さっきにしても、2リットルのペットボトルの水を使ったけれど、今持ってきているのは、2本だけ。できるだけ家の荷物を持っていくために、他の荷物は抑えめになってしまった。
それに、水ならすぐに手に入る、と、漠然と思っていたのだが。
「風呂場の水は、飲むのはねぇ……」
思わず、風呂小屋へと目を向ける。きっと、異世界仕様で飲料水としても使えるかもしれない。しかし。
「それはそれ、これはこれ、だよね」
食器を洗ったり、洗濯したりはできても、飲むのは躊躇してしまう。
「あ、『タテルクン』で、なんかないかなぁ」
ミニテーブルに、マグカップを置くと、テントの中に置きっぱなしにしていたタブレットを取り出したのであった。
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