第23話 ひとまずはテント生活開始

 いつまでも、ここに留まっていても仕方がない。すでに日が落ちて薄暗くなっている。


「とにかく、この荷物だけ預かっていてください。その、家については、もうちょっと考えます」

「はいはい」


 私は置いておける物だけプレハブの倉庫に置くと、すぐに車で異世界へと向かう。

 トンネルを抜けたとたん、真っ暗闇で、車のライトがまっすぐに伸びている。


「これ、いきなり獣とか飛び出してこないよね」


 身を乗り出すようにハンドルを握り、ただひたすら前を見つめていると、ようやくぽっかりと開けた場所に出た。

 久しぶりのキャンプ地だ。車を、入ってきた道の近くに乗り入れる。真っ暗な状態なので、車のライトは点けたままだ。


「やっぱり、トイレと風呂小屋は消えてるか~」


 もうここからは、自分のKPでやっていくしかない、ってことなのだろう。


「もう~、イグノス様が、優しいのか厳しいのか、わからんわ~」


 私は車から降りると、キャンプ道具一式を下ろす。このまま車の中で寝てもいいのだけれど、せっかく来たのに、テントを張らないのはもったいない。

 さっさとテントを張っていく。一人用のに慣れたせいか、だいぶ設営までの時間が短くなった。一人前、とは言わないまでも、そこそこキャンパーらしくなったんじゃないだろうか。


「あと、焚火、焚火っと」


 薪は地元のホームセンターで買ったのが一束ある。これからは、この周辺の木々を間伐していって、薪にしていくしかない。余計なお金を、かけられる余裕はない。

 焚火がついて、ようやっと一息ついた。

 周囲を見渡し、空を見上げると、都会では見られない凄い星空が広がっている。


「おおお~」


 この空の星座は、あっちと同じものなのか。異世界だけに、別モノなのか。


 くぅ~


 そんなカッコいいことを考えていた私のお腹は正直なもので。

 

「それよりも、ごはんだ!」


 ミニテーブルの上にミニストーブ、固形燃料に火を点けて、クッカーに水を入れる。これから料理する気力はないので、カップラーメンだ。

 湯が沸くまでに、とクーラーボックスから取り出したのは……缶チューハイ。


「えへへ、ごはんの前に、これ、飲んじゃおう」


 腰に手をあて、くぴくぴと飲んで、ぷはーっと息を吐く。


「フフフ、ここが私の住む場所かぁ」


 虫の音がチリチリと聞こえてきて、本当にここが異世界なのかなぁ、と思えてくる。

 お湯がぐつぐつ言いだしたので、火から下ろし、カップラーメンに注ぐ。今日は、味噌味だ。


「フーフー、あちっ」


 ずるずると音をたてながら、麺をすする。

 外で食べるからか、いつも以上に美味い。


「はぁ~」


 仕事からも、面倒な身内や元カレからも解放された。誰からも干渉されない。


 ――自由だ。


 違う意味で苦労もしそうだけれど、今の私は、幸せだと思える。


「明日、買い出しのついでにこっちの役所に転入届出して」


 異世界のはずなのに、普通に引っ越しの手続きをしている私。

 そんなことを思ったら、思わず笑ってしまった。

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