第22話 管理小屋に到着

 帰宅時間とは重ならなかったおかげで、途中、渋滞時間にはまらずに済んだのは助かった。キャンプ場は平日のせいか、あまり利用者は多くなさそうだ。


「こんにちは」

「おや、思いのほか早かったですね」

「ええ」


 管理小屋のカウンターにいた稲荷さんが声をかけてきた。


「あの、荷物なんですけど、一時的に預かっていただくことって出来ます?」

「あー、はいはい……とりあえず、裏に回ってください。おーい、ちょっとはずすから、よろしく」

「……は、はいっ」


 カウンターの奥にある事務所っぽいところから、若い男性の声が聞こえた。前にも普通に若者がいたので、気になったので稲荷さんに聞いてみると、ただのバイトだった。もしかして、彼も神様の使い的な何かなのか、と思ったけど、違ったようで、下手に鉈の話をしなくてよかったと思った。

 案内されたのは、プレハブの倉庫で、色んな道具や木材などが置いてあった。


「とりあえず、ここに置いてください」

「え、ここですか」


 ちょっと埃っぽい感じがする。


「他にスペースないんですよ」

「えー、あの『収納』みたいなので預かってくれたりしないんです?」

「おや、やはり『収納』機能のメッセージが来ましたか」

「ええ、なんかKP、でいいですかね、それが貯まってたみたいで」

「イグノス様がボーナスポイントとかおっしゃってましたからね」


 なるほど。イグノス様のおかげだったのね。感謝、感謝。


「で、『収納』機能があっても、ダウンロードできませんでしたよね」

「そうなんです、あれって、やっぱり、あちらでないと駄目なんですか」

「ええ。それと、こちらでは『収納』の機能は使えません。荷物を入れることも取り出すことも出来ません」

「やっぱり~!」


 結局、あっちに車で持ち込むしかない。


「じゃあ、早めにKP使って、家建てて、そこに入れるしかないわけですよね」

「まぁ、そうですけど、まずは『収納』機能をダウンロードした方がよろしいかと。あれもKP使いますから」

「え、そうなんですか!?」


 ……『収納』をダウンロードするだけで、1000KP使うとは思わなかった。


「ああ、憧れのログハウスが」

「ログハウスにしたかったんですか?」

「ギリギリKPが足りそうじゃないですか。トイレ・風呂付きのが」

「……えーと、KPだけじゃ、家、建ちませんよ」

「は?」


 稲荷さんの言葉に、固まる。


「そりゃ、素材がなければ、物は出来ませんって」

「……素材?」

「なんのための『ヒロゲルクン』ですか。それで素材を集めて、物を作るんですよ」

「え、じゃあ、なんのためのKPなんですか」

「……うーん、技術料? 加工賃?」


 なんじゃそりゃ。

 異世界、そんなに甘くなかった。

 がっくりと膝を落として、呆然とする私。


「あ、じゃ、じゃあ、電気とかって」

「当然、ないですねー」

「ですよねー」


 しかし、ここで諦めては!


「お稲荷様のお力でなんとかは」

「できませんねー」

 

 にっこり笑う稲荷さん。

 ……快適なスローライフは程遠いらしい。


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