第18話 結局、こうなる
『強引に、君をこの世界に閉じ込めたっていいんだ。それが私にはできる』
冷たい声が続く。
『しかし、私はそれを望んでいない。君には君の意思で、この世界に来てほしい』
「……だったら、なんで山を買わせたいんですか」
レンタルだっていいじゃない。そう思うのは私だけだろうか。
『レンタルでは、君はこの世界の者という扱いにはならない。あくまで稲荷の世界の者であり、永遠に稲荷の世界で輪廻する。私は君にこの世界の者になってほしいのだ。この山を買う、というのは一つの契約だと思って欲しい』
……よくわからないけれど、この異世界に縛り付けたいってことだろうか。
「でも、あちらにも行けるんですよね?」
『当然だ。君の身体はあちらの世界のモノで出来上がっているからね』
『普通、両方の世界を往復できるのは、神と同等の能力を持つものだけだ』
「え、私、神様並み?」
『……そうは言わないが。特殊といえば特殊だ。特にあのトンネルは、どちらの世界の生き物も抜けることはできない。そもそも、見えもしないからな』
お稲荷様の説明に、私ってなんなのっていう気がしてきた。
『とにかく、君が山を買って、ここに住んでくれると、すごく助かるんだ』
イグノス様の言葉とともに、お稲荷様は虚空を見上げ小さく頷くと、私にA4サイズのタブレットを渡してきた。
「あれ? これはお稲荷様のでは?」
『もし、この山を買ってくれるなら、これと同等のタブレットをやろう』
「うん?」
そう言われてタブレットの画面を見ると、使ったことや見たことのあるソフトが一つもない。2個だけアイコンがあるけれど、見たことのないアプリのようだ。こっちの世界には電波は届かないと言っていたから、ダウンロードも出来ない。家に持ち帰れば、何かしらインストールできるんだろうか。
「それは、この山を管理するために使うタブレットだ。あちらの世界ではほとんどの機能は使えない』
「え、ネットとかも?」
『使えない』
それからお稲荷様が、このタブレットの機能について教えてくれた。
1つは緑をベースカラーにした『ヒロゲルクン』。これは開拓アプリらしい。これを使えば、土地の開墾や整地など、開拓に必要な機能があるらしい。
そして、もう1つは茶色をベースカラーにした『タテルクン』。こっちは建築アプリ。様々な建築物を建てることができるという。
ただし、これを利用するには、ポイントが必要らしい。
『そのポイントは、この世界にいないと貯まらない』
「え、いるだけで貯まるの?」
『いや、この山をメンテナンスしてくれることで貯まる』
「まさか、それが前に言ってた管理費用とか言わないですよね」
嫌な予感に顔を顰める。私はてっきりお金かと思ってたのに。
『管理費は別に支払う。あちらの生活には、あちらの金が必要だろう?』
「え、こっちには。こっちにも人、いるんですよね」
『……いるにはいるが、ここまで来れるような者は皆無だ』
なんか、この山って物騒なんじゃ。
思わず周囲を見回すけれど、綺麗な木漏れ日に溢れた、いい場所にしか見えない。
「こちらにも貨幣はあるんですよね」
『あるにはあるが……それは、お前が山を買ってから考えればよかろう?』
お稲荷様の言葉に、むむむっと、口をつぐむ。
『どうする』
『どうする、どうする?』
正直、もう、あちらの世界での生活は、もういいや、っていう気持ちになっている。かといって、ずっぽり異世界の山の中の生活オンリーなんか、無理すぎる。
――でも。
どっちの世界も行き来できて、それなりにお金ももらえそうで。
ちょっと、まだ生活基盤もなんもないかもしれないけど、そのポイントとかいうやつを貯めれば、なんとかいけるんじゃないかって気がしてくるのはなぜだろう。
それよりも何よりも、ここの空間が自分に合っている、そんな気がしてならない。
「決めました」
私はお稲荷様の目を見て、きっぱり言う。
「買います」
『はい、お買い上げ~』
イグノス様の嬉しそうな声があがるとともに、目の前をお稲荷様が『よかった! よかった!』と言いながら踊っている姿に、私は苦笑いを浮かべながら見つめるのであった。
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