第10話 案内されたのは、山奥の……

「えーと?」


 私は案内された場所を見回して、呆然とする。完全に山の中。よかったのは薄暗いわけでもなく、むしろ明るい木漏れ日がさしている。

 しかし、キャンプサイトでもなんでもない。車を止めた場所は、少し開けた場所ではあるけれど、草はぼうぼうに生えているし、石もゴロゴロしてる。


「ええ、こちらの山をお買い上げして頂きたく」


 ニッコリと笑う細い目が印象的な中年男性。このキャンプ場の管理人、らしかったのだが。ここに案内してくれている過程で、すでに、怪しいとは思っていた。

 なぜ、私たちがこんな山の中にいるのかというと、ことの始まりは1時間程前のことになる。


           *   *   *   *   *


 今回も夜中に家を出て、朝早くにキャンプ場に到着した私。管理小屋に入ると、見覚えのある中年男性が出迎えてくれた。


「おはようございます」

「あ、おはようございます、予約していた望月ですが」

「はいはい、ありがとうございます。期間は1週間とありますが、大丈夫ですか」

「ええ。時々、観光に出かけたりしたいんですけど、その場合は」

「貴重品などは必ずお持ちになってください。盗難がないとは言い切れませんので」

「あ、はい」

「あ、でも……もしよろしければ、これからご案内する場所でしたら、盗難にめったにあいませんが」

「? そんな場所があるんですか?」

「ええ。……それに現場を見てみたいでしょうしね」

「はい?」

「いえいえ、とりあえず、こちらにご署名を」

「あ、はい」


 そんな会話の後、レンタカーに乗り込んで、彼の運転するSUVの後をついていく。気が付けば、前にキャンプした場所を通り過ぎ、随分と奥までやってきた。元々、木々が生い茂っていて、場所によっては薄暗い感じではあったけれど、どんどん山深くなっていく。


「こんなとこにキャンプできる場所、あるの?」


 不安な気持ちを、余計に煽るかのように、目の前にトンネルが見えてきた。


「ちょっと、ちょっと、まさか、この先?」


 まるで、某アニメ映画にでも出てきそうな、いつ頃作られたのかもわからない古びたトンネル。中に電灯があるようには見えない。そのトンネルの中にSUVが入っていく。


「マジか……」


 トンネルへ向かう道は細い一本道。対向車が来たら最悪な場所。当然、Uターンなんて出来そうにもない。私は諦めて後をついていく。

 中に入ると、目の前のSUVの後部の赤いライトだけが目につく。内心、まだかな、と思った頃、トンネルの先の明かりが見えた。


「うわ~っ」


 思わず声が漏れたのは仕方がないと思う。

 先ほどまでの山深い感じの薄暗さとは正反対に、明るい木漏れ日が降り注ぐ山道を走っているのだ。もうすぐ昼くらいになるからかもしれないけれど、それにしても明るい感じがするのはなぜだろう。

 しばらく軽い傾斜を登っていくと、開けた場所に出た。それが冒頭の場所である。そして、山を買う話をされたわけだが。


「えーと、なんでいきなり、そんな話に?」

「おやおや、覚えていませんか? ちゃんとお話をしたではありませんか」

「うん???」


 困惑している私をよそに、中年男性は名刺を差し出した。


「どうも。ここの管理を任されております、稲荷、と申します」


 私が名刺を受け取って名前を確認して、視線を戻すと……目の前には大きな狐が座っていた。

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