第9話 ソロキャンプに逃亡することにした
ゴールデンウイークを目前に、私は再び、嫌な電話を受けてしまった。
母親である。
『だからね、あの子が遊びに行きたいって』
「私、旅行の予定があるから」
『じゃあ、鍵だけでも』
「冗談でしょ?」
帰宅してホッとしているところにコレである。なんだって、ここ何年も音信不通だったというのに、今更連絡してくるのだろうか。
その上、また義妹が遊びに来るという。なぜ、毎回、うちに来たがるのか。そのうち、居つきそうで、怖い。
「とにかく、不在の所に来られても困るし、来ても不審者で通報されるだけだから」
一応、母親だからと、この部屋の住所を教えていたのが、失敗だった。
前回も結局、義妹は部屋の前まで来ていたらしい。残念ながらオートロックもない古いマンションだから出来てしまう。隣に住んでいるおばあさんから、うるさかったと注意されてしまった。私のせいじゃないっ!
『そんな、あんたの妹でしょ』
「……もういい? じゃあね」
『ちょ、ちょっと』
不愉快な気分のまま、電話を終えた私は、缶チューハイを片手にパソコンの画面を開く。
こうなったら、今回もキャンプに行くしかない。それも、ゴールデンウィーク中いっぱい。
「でも、もう予約でいっぱいのところばっかりだろうなぁ」
予約サイトを見ていると、なかなかコレという所が見当たらない。
何の気なしにメールをチェックする。大概は広告などのメールなのだが、ふと気になった送信者の名前があった。初めてソロキャンプをしたキャンプ場だ。そこからのメールを、つい開いて見た。
「え、半額?」
なんとゴールデンウィーク中の利用が半額になるというメールが届いていたのだ。こんなギリギリのタイミングで、と思うと同時に、あのキャンプ場がちょっと不便だったのを思い出す。もしかして、なかなか予約が埋まらないのか。
1度行っていることと、半額というのに惹かれて、さっそく予約してしまった。ゴールデンウィーク期間ぴっちり。どうせだったら、あの周辺も色々調べて、観光してもいいかもしれない。それにはレンタカーも長めに借りなきゃ。ちょっと出費が痛いけど、結婚資金にと貯めこんでたお金もあるし。
「そういえば、ちょっと変な夢を見た場所だったっけ」
妙に印象に残っている。また、あそこに行くと、あんな夢を見てしまうのだろうか?
しかし、そんなことよりも、今の私には家族から逃亡することが最優先。
私は今から冷蔵庫の中身をチェックしながら、キャンプの準備に勤しむのであった。
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