第8話 面倒な元カレ

 義妹がどうなったのかは、留守電に残された義妹の怒りのメッセージでわかった。

 結局、ネットカフェに泊まったらしい。高校生の女の子が、と思ったけれど、他にも友達が一緒だったらしい。そもそも、その友達までうちに泊まる気でいたのか、と思ったら、腹立たしくなった。

 その後、母からも電話があったようだけれど、マナーモードにしておいたので無視。留守電が残っていたけれど、話の途中で消してしまった。


 再び平穏な日々が始まるかと思ったら、今度は元カレが接触してきた。

 仕事の話であればいい。しかし、私と彼はすでに部署も違い、絡むこともなくなったのだ。当然、彼が連絡してきたのは……今の彼女……不倫相手のことだろう。

 前に一度だけ、別れ話のついでに相談にのった、いや、単純にのろけ話を聞かされただけなのに。


 ――なぜ、私がそんな話を聞かねばならないのか。


 元カレからはLI〇Eからのメッセージだから、母親や義妹のキンキン声に比べれば、まだマシ。とりあえず、スタンプだけで返事を返す。

 何日か、なんとかそれでスルーしてきたのが……なぜか金曜日になって、元カレ本人が社内電話をかけてきた。


『あ、今、大丈夫?』

「いえ、忙しいんですけど」

『ごめん、あの、どっかで時間とってもらえない?』

「どういうご用件で」

『そんな、冷たい言い方しなくても』

「……仕事でなければ、切らせていただきます」

『五月っ』


 ……名前で呼ぶなし。


 さっさと電話を切って、席を外す。フロアにまで来るとは思わないけど、念のため。

 トイレに行って戻ってきたら、隣の席の先輩から元カレから電話がまたあったと言われた。フロアまでは来ない冷静さはあったか、と思いながらも、私は折り返しはしなかった。

 そのまま終業時間まで、元カレからは連絡はなし。ホッとしながら退勤をしたのだけれど。


「五月」

「げっ」


 会社を出たところで、元カレに声をかけられた。

 待ち受けるとか、ストーカーか。

 こっちはもうすでに、元カレへの未練も何もない。むしろ、ウザい。


「何? 悪いけど、この後、予定があるんだけど」

「あ、ごめん、でも、あの」

「じゃあね」

「五月っ」


 思い切り無視して私はさっさと駅に向かう。運よく信号の変わり目に反対側に渡れた。背後に彼の視線を感じた気がして、ゾッとする。

 嫌だ、嫌だ。


 ――あー、キャンプに行こう。


 私は電車の移動中に、キャンプ場をチェックして、そのまま予約した。家に着いたら、すぐにリュックに荷物を詰め込み始めよう。

 当然、スマホの電源はオフにした。

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