第7話 面倒な身内
初ソロキャンは、楽しい部分と面倒な部分と、半々くらいだっただろうか。何より、あの夢がいただけなかった。あれだけで疲れてしまった。
しかし不思議なもので、『また行ってみたい』という気持ちも芽生えてきたりする。前回は、勢いで出かけたところもあり、手持ちの道具や情報不足もあったりした。だから次回行くときには、もうちょっと調べてから行こうと思った。
そのせいもあってか、何度かキャンプ道具のお店を見に行ったり、動画を見たりと、勉強の日々を送っていたところに、突然、母親から連絡が来た。
母親からの連絡なんて、何年ぶりくらいだろうか。あまりに久しぶり過ぎて、オレオレ詐欺かと思ったくらいだ。
母親は、義妹が遊びに行くから泊めてやれ、との連絡をしてきたのだ。
……それも仕事中に、だ。
母親は、私が高校生の頃に再婚した。父が亡くなって1年もしないうちに。普通にいつからの付き合いなのか、と、訝しく思うのは当然だろう。
相手には連れ子の娘がいて、ちょうど10才くらい下の小学生だっただろうか。それが今の義妹。
母親は再婚相手に気を使ってなのか、連れ子をやたらと可愛がり、私のことはほぼ放置。私はすでに高校生となっていただけに、可愛げがなかったせいかもしれない。それに、義理の父親ともまともに会話もしたこともなかった。
外から見たら仲の良い親子に見えていたかもしれないが、実情はかなり冷ややかなものだった。
だから、亡くなった父方の祖父母に頼んで、その家から通える大学を選び、そこに進学した。学費については祖父母が貸してくれた。生前贈与だ、なんて言ってたけれど、毎月ちゃんと返済をしている。
そして無事卒業をし、都会の会社に入社すると、私は一人暮らしを始めた。家賃はかなり抑えめにしたから、あまり広くも新しくもない部屋だったけれど、それなりに満足している。それが今の部屋だ。
私は給湯室に隠れて、母親の話を聞いていた。
「それ、いつのこと」
泊める気はサラサラないが、一応、予定を聞いておく。
『学校の春休みがもうすぐ終わるから、その前になんて言ってるのよ』
「平日とか来られても困るんだけど」
『合鍵でも渡しておけばいいじゃない』
まともに会話もしたことのない義妹に、鍵を渡せるわけないじゃない。たぶん、顔を見たって、覚えてないし。
「どっちにしても、仕事が忙しい時期だから来られても困る」
『そんな、あなたお姉ちゃんじゃない』
「あ、悪い。この後、会議あるんで。じゃあね」
『ちょ、ちょっと』
プチッ
スマホの着信をマナーモードに設定にすると、自分の席に戻ってバッグの中へとしまいこむ。
「望月さん、大丈夫?」
隣の席の女性の先輩から声をかけられる。
「ああ、はい。大丈夫です」
――二度と電話してきませんように!
内心でそう祈ったけれど、現実はそう甘くはなかった。
その翌日、今度は義妹から電話がかかってきた。それも出勤前の自宅で。
『お姉ちゃん、明日、行くね』
「はぁ?」
『お母さんは話してあるって』
「こっちは困るって言ったんだけど」
『え、でも、行ってこいって』
「悪いけど、出勤前なの」
『あ、ごめんなさい』
プチッ
明日は土曜日。確かに平日ではないけど、無理やり行かせるとか、どうなの?
――あ、キャンプ行こう。
私は義妹から逃げるために、出勤前だというのに、スマホでキャンプ場を検索し始めた。
結局、義妹とは会うことなく、無事にキャンプに行ってきた。
今回は、電車で移動できる距離の場所。駅からは少し歩いた場所にあったけれど、コンビニや商店が通り道にあってかなり便利だった。
借りられたサイトの周りは、他のソロキャンパーが何人もいたので、すごく参考になった。やっぱり慣れている人達は、カッコいい。
女性一人でやってる人は、こじゃれたガーランドを飾ったり、お高そうな折り畳みのイスに座ってる。さすが、やっぱり違う。
相変わらず古いテントを使う私は、今回も30分近くかかってしまった。
「新しいの買おう」
汗を拭いながら、強く心に思った。
それでも、前回みたいに夜は真っ暗闇というわけでもなく、あちこちにポツンポツンと焚火などの灯りがともり、寂しさはあまり感じなかった。
何より、ここにはお風呂もついていたのは助かった。前回よりも少しは暖かくなってきていたとはいえ、ホカホカ状態で戻ってきて、そのまま寝袋に入ってしまえば、あっという間に夢の中。
今回は、あの妙な夢など見ずに済んで、スッキリした朝を迎えた私。
その間のスマホ?
……当然、電源を切ってましたが、何か?
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