第11話 まさかの異世界でした!?
私は叫び声を上げなかった。ただ、あんぐりと口を開けて、見つめるだけ。本当に驚くと、声なんか出ない。
『おや、本当に覚えていないのか?』
先ほどの稲荷さんの声のまま、狐がしゃべっている。
――うん? 稲荷、ということは、この狐は……お稲荷様?
私は自分の頬を思い切りつねった。
「痛い」
『今は、夢じゃないぞ?』
「いや、でも、狐がしゃべってる……」
『私はこれでも神族の末席にいるんでな』
困ったような顔の狐……いやお稲荷様に、呆然とする。
『さて、望月、この山なんだが、どうだい?』
「え、いや、とても綺麗な場所かと思いますが」
『だろ、だろ? 空気も澄んでて、何より、魔素が充実してて、植物たちも生き生きしている!』
「……まそ?」
聞きなれない単語に反応する私。
『ああ、ここは所謂、異世界と呼ばれる場所、イグノス様が治められる世界なのだ』
胸を張って言うお稲荷様だけど。
「誰それ」
と、思うわけである。
『この世界の創造神だ。私の古くからの知り合いでな』
「うん、まぁ、それはいいや」
『いいのか!?』
「とりあえず、ですね、異世界っていうのも理解しましょう。目の前の大きな狐がしゃべってて、頬をつねっても痛いから夢じゃないんでしょう」
しかし、なのだ。
私もそれなりに、ネットの小説や漫画を読んだりはする。そんなにガッツリというわけではなく、暇な時間に流すような感じで。そんな中に所謂『異世界モノ』と言われるものがあるのは知っているし、読んだこともある。その定番でいえば。
「もしかして、私、死んじゃいました?」
異世界転生である。
現状、聞かないという選択肢はない。
ジッとお稲荷様に目を向けると、キョトンとした顔で顔を傾げて、『いいや?』と答えた。
『なぜだ? お前は一緒に車を運転してきたじゃないか』
「え? いや、異世界って言ったら、転生するのが定番かと思って」
『おや、転生を知っているか。でも、違うぞ』
「じゃ、異世界転移? もしかして、もう戻れないとかじゃ!?」
話しているうちに、思わず、ムンクの叫びのように、頬を両手で挟んで叫びそうになる。家族や元カレから逃げたいとは思ったけど、帰れないとかは困る。仕事もそうだし、せっかく貯めた貯金とか!
『何を言うか、戻れるぞ』
呆れたように言うお稲荷様に、私は一瞬無言になる。
「……戻れるの?」
『ああ。望月限定だけどな』
「私限定?」
『それに、望月にこの山を買ってもらうために、イグノス様に頑張って交渉したのだ』
「神様に交渉……」
『そのために、色々とおまけを付けてくださいとな』
「おまけ、ですか」
『それはおいおいということで……とりあえず、ここ、どうだ。1週間ほどこちらでキャンプしてみては』
「え」
『野生動物は、キャンプしている間は、この開けた場所には入らないようにしておいた。あと、トイレとお風呂、だったか? これもレンタルという形で設置しておくぞ。あとは、コンビニだが、こればかりは難しくてな、車で一度、山から降りてもらって』
「え、あの、異世界にコンビニあるんですか」
『まさか! ない、ない。トンネル抜けて、あちら側に行くしかない』
「あ、そう」
なんだ。普通に戻れるのか。
そう聞いて、ホッとした。それにトイレにお風呂もあるなんて。
『それじゃ、ちょっと待っておれ』
そう言うと、お稲荷様の手に、なぜかA4サイズのタブレットが現れた。
『トイレとお風呂っと』
そう呟いたと同時に、簡易の仮設トイレと、木造の小屋が音もなく現れた。
「え、え、え?」
『それでは、よい1週間を』
私が唖然としている間に、お稲荷様は人の姿に戻ると、SUVに乗り込んでその場から去っていった。
「え~~~っ!?」
思い切り叫び声をあげた私は、変ではないと思う。
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