第4話 赤く染まるカマキリ ④
再び巨木のある場所までやってきたそこから数キロ離れた適当な場所を調査地と定め、2人は早速準備を始めた。昆虫採集装備一式を身に着けて草原でカマキリを探す。今回の標的は赤いカマキリ以外のカマキリだ。乾燥した土地ということもあってそこに生育する植物も種類は少なく、それと同じ様に動物類の数も少ないようだ。
たった地点から真上に枯れ枝や小石を投げ、落ちた方向に50歩進む。そこからさらに枯れ枝や小石を投げて落ちた方向に50歩を探索範囲とした。客観的なデータを得るために行われるランダムサンプリングの簡易版である。レイシュアは草をかき分けて地面を主に探し、セアルチェラはひたすらに草むらに向かってタモ網を振った。各自それを10回ずつ行い、周辺のカマキリの種類を把握しようと試みた。
――――――
「どれくらいいましたか?」
「う〜ん。15匹程度かな。そっちは?」
「ほぼ素振りでしたね。10匹くらいです」
「似たようなものか・・。とりあえず2種以上は捕まえられたと思うが微妙な成果ではあるなぁ。このまま満足する結果が得られるまで続けるよりも、ひとまずあちらの森林方面を探したほうが良さそうな気もするな。」
「わかりました。ではそのように」
「でもまずは一服だな」
――――――
しばしの休憩を終えて、2人は森の方へとやってきた。木々が目立ち草原地帯とは雰囲気からしてガラリと様相が変わる。
「ここならそれなりにいそうですね」
「そんな気配はあるなぁ。とはいえカマキリは食物連鎖の上の方に位置するからそうやためったら多くもないだろうが・・・」
そう言いながらレイシュアはふと疑問に思う。
(そう考えると巨木の周りの密度は異様に高いように思える・・・。わざわざ集まって来て食べられてるのか・・・)
「毒蛇とか攻撃的な獣がいる可能性もある。ここは一緒に行動するとしよう」
そうして2人は陽の傾くまで森を歩き回った。
――――――
カマキリ採集を終え拠点に戻って夕食を取りながら話し始める。
「今回見つかったのは結局、草むらで2種類、森で3種類か・・・?」
2人は捕獲したカマキリの形態的特徴を観察しながら帰途についたためおおよその結果は共有済みだった。レイシュアが食事を作る間セアルチェラは前回捕まえた赤いカマキリとの形態比較も含めて情報精査を行っていた。セアルチェラに炊事の当番が回ってくることは滅多に無い。料理が下手というわけではないのだが辺境の出身ということで食材の選択がレイシュアの口に合わないようだった。献立は鶏肉とナス科の野菜を炒めたものと、セリ科とネギ科の根菜茎菜をベーコンと煮込んだスープ。後は趣味で焼いているパンだ。口の中にあった鶏肉をゴクリと飲み込んで、セアルチェラは応える
「ですね。共通で1種類あると思われるので全部で4種ですかね」
「赤いのはやはり多かったやつと同じ可能性がたかそう・・・?」
「おそらくは」
そう言ってセアルチェラはスープに口をつける。
「ふむ・・。とはいえ、得られた個体数が少ないのでなんともなぁ・・・。あと数回は同様の採集が必要かな。それと並行して手法を追加して種識別の精度をあげよう」
「・・となると、染色体観察・・ですかね?」
そう答えながらちぎったパンを口に放り込む。
「よくご存知で。それでおそらくは確度の高い情報が得られるだろう。しばらくは地道な作業になりそうだ」
「わかりました。では準備を進めておきます」
そう言うとセアルチェラはスープのおかわりに手を伸ばす。
(しかしこの人ほんと鶏肉すきだなぁ・・・)
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