第11話 クラスのギャルと写真のモデル

「で、いきなり来てなんか用事でもあったのか?」



 コアラの様に抱きついて俺から離れない姉さんをそのままの状態で部屋の中に入ってソファーに放り投げながらそう聞く。ちなみに外に置いておいた荷物は既に莉々香が中に運んでいた。



「え〜? 用事がないと来ちゃだめなの〜? お姉ちゃん悲しい……シクシク」



 ベタな泣き真似をしながら俺の事をチラチラ見てくる現在十九歳の現役女子大生。なんで父さんを選んだのかわからないくらいに綺麗な母さんに似ている姉さんは、入学したばかりの春のミスコンで一位を奪っていったらしい。あと、喋ると台無しコンテストとかでも選ばれたとか。まぁ、それは納得だな。



「嘘泣きやめい」


「じゃあマジ泣きする。ちょっと待ってて。今、パパに『超ちゅきちゅき彼ピッピ出来たから今日は彼ピッピの家に泊まるっピ!』って電話するから」


「やめろぉぉお! それ、マジ泣きはマジ泣きでも父さんがマジ泣きしながら俺に電話かけてくるやつだろうが! アホか? 姉さんはアホなのか? 一回頭叩いてもいいか!?」


「ちょっといっちゃん! なんでそんなに紡ちゃんに冷たいの? ダメだよお姉ちゃんには優しくしないと」



 えぇ……普通はそういうのって兄弟の上の子に対して言う言葉じゃないのかよ……。



「それで紡ちゃんはどうしたの? アパートの鍵はお母さん達しか持ってないから、わざわざ借りてまで来るってことは何か大事な用事でもあったんじゃない?」


「さっすがりりちゃん! そうっ! と〜っても大事な用事があったの!」



 姉さんはそう言うと俺に投げ飛ばされたままの体勢から起き上がり、ピシッと正座をすると真剣な目で俺と莉々香を見る。こうして真面目な顔してると写真で見た昔の母さんにそっくりなんだよな。中身は真逆だけど。



「で、なんだよ」


「あのね? 私の夢がカメラマンなのは知ってるでしょ? だから大学でも写真部に入ってるんだけど、今度人を被写体にした企画があって、それでモデルをやってもらいたいなーって」


「あぁ、そういうことか。だってよ莉々香。どうする?」


「え、えぇ!? 私!? そんなのムリムリ! 恥ずかしいし! それにモデルなら紡ちゃんが自分でやればいいじゃん! 可愛いし綺麗だし大人っぽいし!」


「りりちゃんりりちゃん。私が提出する写真なのに写ってるのが自分ってちょっと痛すぎるって。確かに私は可愛くて綺麗だけど。入学してから二ヶ月で五人に告白されるくらいモテるけども!」


「自分で言うなよ。自画自賛が過ぎるわ」


「あ〜! ちょっと一太? それはママをバカにしてるのと一緒になるって気付いてる? 私、昔のママにそっくりなんですけどお?」


「ぐっ……」


「そ・れ・に……フフフ、いつからりりちゃん一人に頼んでると勘違いしていた! 私がお願いしてるのは二人になんだよね。だってその企画の衣装っていうのがウェディングドレスの──」


「やります。やらせて下さい。ほら、いっちゃんもちゃんとお願いして。はやく」



 姉さんが全部言い切る前に食い気味で返事をする梨々花。しかもめちゃくちゃ真顔で俺にも同意を求めてくる。

 ん〜……莉々香がやりたいなら賛同はしたい。したいけど写真はちょっとなぁ……。



「いっちゃん……私のウェディングドレス姿見たくない?」


「わかった。やるよ」


「やったぁ♪ いっちゃんのタキシード姿もきっと凄く似合うと思うんだぁ♪ 私達の結婚式の予行練習みたいだねっ!」



 負けた。膝に手を置かれながらの上目遣いに負けた。そんなことされたら断るの無理だって……。



「あ、えっと……ウェディングドレスのメーカーがジャンル開拓で新しく出そうとしてる服を貸してくれるから、男女別で撮って二枚企画に出すってことだったんだけど……あれあれ? これってもしかして私が自腹でドレスのレンタル代出さなきゃいけない雰囲気? あっれぇ〜?」



 姉さんがなんか一人でブツブツと呟いていたけど、俺はそれを聞いてないことにした。

 当たり前だろ? だって莉々香がこんなに嬉しそうにしてんだからさ。ま、頑張ってくれよ? 姉さん。




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