第10話 クラスのギャルと不法侵入者

 生徒会長が隣の陳列棚の方へと曲がって行ったところで、ちょうど会計を終えた莉々香がパンの入った袋を片手に戻ってきた。



「ごめんねいっちゃん。遅れちゃって。っていうか今のってもしかして生徒会長? 何かあったの?」


「ん〜、なんかあっちは俺の事知ってたみたいでな。いきなり『青鬼って知ってる?』って聞かれたんだよ。面識なんてないんだけどな」


「生徒会長だから全校生徒の顔と名前は知ってます! ってやつかな? 後は妹さんが私達のクラスにいるからとか?」


「さすがにそれは漫画じゃあるまいし。ってちょっと待て。え? 妹が? そうなの?」


「いっちゃん……いくらなんでもさすがにそれは……。ほら、私達のクラス委員で書記やってる大人しそうな子だよ? 名前は羽衣ういちゃんで、HRの時とかにいつも黒板に書いてるじゃん。確かにまだ入学してからそんなに時間経ってないけど、もう少しクラスの子の顔ぐらいは覚えよ?」


「…………はい」



 呆れ顔をされてしまった。しかも溜息まで。だってしょうがないじゃん。俺、人の顔覚えるの苦手なんだから。未だにクラスメイトの顔と名前が一致しないくらいだしさ。



「それで生徒会長さんに聞かれてた青鬼って、最近噂のすっごくケンカ強いって言われてる人のこと?」


「え? あ、うん。多分な」


「なんでいきなりいっちゃんに聞いたんだろうね?」


「それなんだよな。さっぱりわからん」



 いや、本当にわからない。まさか気付いた? いや、そんな訳ないな。あの姿になる時は髪型も変えてるからよっぽど間近で顔を見ない限りは気付かれないはず。それに俺はあの生徒会長の事を今日初めて知ったくらいだ。正体がバレるミスはしてないと思うんだけど……。



「わからないことは考えても仕方ないよ? ほら、買い物済ませて帰ろ? お昼ご飯の準備もしなくちゃ」


「ん、そうだな」



 莉々香に言われた通り、分からないことを考えても仕方がないか。

 俺はそこで一度頭の中をリセットして、嬉々として買い物を続ける莉々香の後をついていった。




◇◇◇




「え?」



 買い物を終え、米の重さに耐えながらアパートに帰ると、鍵を持っていた莉々香が突然驚いたような声を上げた。



「どうした?」


「ねぇいっちゃん。私、ちゃんと出かける時に鍵閉めたよね?」


「あぁ閉めたな。ちゃんと見たぞ。……まさか開いてるのか?」


「うん……。お母さん達来るとか聞いてないし、もしかして泥棒かな? どうしよう?」


「待ってろ」



 俺は廊下に買ってきた物を置き、莉々香の肩を掴んで後ろに下がらせる。

 そしてなるべく音を立てないようにゆっくりとドアノブを回した。その時、



「おっかえりぃ〜ん♪ マイスゥイ〜トブラザ〜! ア〜ンド、未来のマイラブリ〜シスタ〜!」


「ごふっ!」



 部屋の内側から勢いよくドアを開けられ、叫びながら女の人が俺に向かって飛びついてきた。しかも飛びついてくるだけじゃなく、頬にグリングリンと自分の頬を擦り付けてくるその人。



「ママが『今日は大丈夫な日』って言ってパパを騙して産まれた一太のお姉ちゃん、参☆上!」



 俺の姉、真峠まとうげ つむぎだ。姉さんは右手を腰に当て、左手はピースサインを作って目の横に添えてポーズを取っている。なんなんだよそのポーズ。つーかそれよりも……



「身内のそういう事情を外で言うな!」


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