第4話 クラスのギャルは天使の歌声

 昼休みに入った頃、莉々香からメッセージが届いた。



『いっちゃんごめんね? 今日の放課後友達とカラオケに行くことになっちゃったの。なんか男子も来るみたいだけど心配しないで安心して! 私はいっちゃん一筋だから! 大好きだよ♡』



 もちろんそんな心配はしない。莉々香が俺の事を好きなのは知ってるし。だってアパートの中でかくれんぼをした時に俺がちょっと本気で隠れたら、「ぐすっ……いっちゃ〜ん、どこなのぉ〜……」って半泣きになるくらいだし。あの後は慰めるのが大変だった。俺が室内のどこに行くにしてもずっと服の裾を掴んで離さずに傍にいたからな。



『わかった。なら俺も久しぶりに学外の友達と遊んでくるかな』


『うん! あ、晩御飯どうしよっか?』


『昨日の残りあっただろ? それでいいんじゃないか? もったいないし』


『そだね。子供が産まれた時の為にも節約節約♪』



 節約は確かに大事だけど、俺達まだ十六歳だからそれはちょっと気が早いと思う。



 そして放課後。俺はカラオケに来ている。莉々香を待ち伏せするって言っていた奴はどうやら今日は来ないらしく、暇を持て余したからとかでは無い。隣の部屋に莉々香達がいるけど、これは偶然だ。そう、偶然隣の部屋になっただけだ。俺一人来た訳じゃない。



「あの……一太さん。自分、なんで呼ばれたんすか?」



 俺の目の前で背筋をピンと伸ばして座っている男。ツンツンとした髪は金髪で耳にはピアス。整えられた顎髭に、指にはゴテゴテとした指輪を付けていていかにもチャラい男。コイツの名前は二宮にのみやしゅん。十九歳。ちょっと前に色々あってなった。



「遊ぼうと思ってさ」


「はぁ。そうですか。でもここカラオケッすよね? 歌わないんすか?」


「馬鹿野郎。歌ったら聞こえないだろうが」


「ワケわかんないっす……」



 確か莉々香達は全部で六人いたな。今五人歌ったからそろそろ莉々香の番だろう。ここの壁は防音が弱いから静かにしていれば隣の歌声が聞こえるんだよな。



『あっ! 次の曲莉々香入れたやつだ! マイク貸してマイク! ちなみに待ちくたびれたから連続で二曲入れたからね〜♪』



 お、ちょうど歌うみたいだ。そういえばこのメンバーでカラオケ行くのは初めてって言ってたよな。莉々香の歌声を聞けるのを光栄に思って欲しいもんだな。中学を卒業する時に俺と莉々香だけ他の高校に進学するからってクラスの数人でカラオケ行った時は、みんな莉々香の事を音痴だ音痴だと言っていたけど、アレはただの嫉妬だろうな。俺にとっては心地よい音色だったから。



『〜〜♪』



 イントロが流れ、莉々香が歌い始めると同時に隣の部屋から数人の「ブフゥッ!」とむせたような声が聞こえる。人が歌ってるのに失礼な奴らだ。


 そんな中、相変わらずの天使の歌声を響かせて一曲終わる。そして二曲目に入った。



『それじゃあ続けていっくよぉ〜!』


『あ、秋沢!? ちょっと待っ──あぁぁぁっ!』


『莉々香ちゃん!? せめて……せめてマイクの音量を下げてぇぇぇぇ……』


『〜〜♪ 〜〜〜〜♪』


『え、こんなに可愛いのに歌声コレなの!? 嘘でしょぉ!?』



 なるほど。音量を下げないと聞けないほどに聞き惚れちゃったんだな? わかるわかる。



『はぁ〜歌った歌った。ちょっときゅ〜けいっと』



 ん? どうやら莉々香はしばらく歌わないみたいだな。それならこっちもせっかくカラオケ来たんだし歌うか。



「よし、瞬、歌っていいぞ」


「あ、今選んでまーす。つーか今の聞きました? 超音痴っすね」



 あぁそうか。瞬は俺の向かい側にいるからな。莉々香達とは反対側の部屋から聞こえたのか。


 そして瞬が歌い、次に俺が歌う。最近の曲は結構聞いてるからレパートリーは多い方だな。そして適当に二、三曲歌う。どれも莉々香が上手い上手いと褒めてくれたやつだ。



「どうだった?」


「いや、なんつーか……一太さんって実は音痴すか?」



 …………はぁ?


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