第3話 クラスのギャルを影から守る
今日も朝から莉々香はクラスメイトに囲まれていた。
同棲がバレないようにいつも俺の方が先にアパートを出るから、必然的に先に教室に入るのは俺になる。
だからいつも通りに一人で教室に入り、誰からも挨拶されることなくまっすぐ自分の席に座ってスマホをいじっていると、廊下から騒がしい声が聞こえて梨々花が来たのが分かった。
おそらく、通学途中から友人達に捕まったんだろうな。
「ねぇ莉々香! 今日の放課後カラオケ行かない? 他校なんだけど、ウチの男友達でのこと紹介して欲しいって人いるんだよね。結構カッコイイよ?」
「え〜マジ? どうしよっかなぁ〜?」
「おいおいおい! 秋沢に変な奴紹介するなって。どうせお前はそいつの友達が目当てとかなんだろ? それより秋沢、俺らとどっか遊びいかね? バイト代入ったからお前は金出さなくていいからよ」
「えっ? バイトしてたの!? いいなぁ〜。梨々花もバイトしてみたいんだよね〜。やっぱり乙女はお金がかかっちゃうものだからね〜♪」
「まじ!? なら俺と同じ所でバイトしないか? 紹介するぜ?」
「あはは〜! 考えとくね〜!」
そんな会話をしながら教室に入ってくる莉々香達。常に周りに男女問わず三人以上いることから、本当に人気者だ。
そして、そんな人気者と付き合っているにも関わらず皆に内緒にしているのには理由がある。よくある人気者と目立たない奴が付き合ってることによる格差で──なんて理由じゃない。
ならどうしてか。その原因は莉々香が俺の事好き好きオーラを隠せないからだ。中三の時はそのせいで色々あったからな。それにその状態になるとうっかり同棲してる事を言ってしまいそうな危うさもあるからだ。まぁ、それが無かったとしても俺とパリピ軍団じゃ性格も話も合わないしな。
それともう一つ。俺が目立たない地味な存在だからこそ出来ること。そしてそれは莉々香も知らない事だ。
「なぁ、秋沢の奴、軽い感じだしゴリゴリ押せばヤレるんじゃね?」
俺の前の席に座る男が、俺に聞かれているとも知らずに隣の男にそう声をかけた。
「それな。つーか実はな? この前もそう思って先輩呼んでちょっと強引に行く作戦たてたんだよ」
「まじか。けど、そう言うってことは失敗したんだな?」
「まぁな。お前も最近聞いてるだろ? 【青鬼】の噂」
「おいまじかよ。それ噂だろ? 本当にいんのか?」
「わかんねぇ。わかんねぇけど、約束の場所に来るはずだった先輩がボコボコにされて街のゴミ拾いしてたんだ。先輩は『青鬼だ。俺にはこれしか言えねぇ』って言ってた」
「…………本当にいるのか。悪さをしたりしようとすると現れてそいつを叩き潰したあとに、ゴミ袋渡してゴミ拾いさせる奴が」
「わかんねぇ。けど俺は諦めねぇぞ。絶対秋沢をモノにしてやるからな。その為に兄貴に頼んだんだ。兄貴も秋沢に目を付けてるみたいだったからな。お前も手伝えよ?」
「おっけ。任しとけ。とりあえずアイツらのカラオケが終わるのをどっかで待ち伏せだな」
まったく……馬鹿な事を考える奴が多くて困る。それだけ莉々香がモテるってことなんだろうけどな。
俺はそんな事を考えながらカバンに手を入れ、その中に入れたおいた水で流せばすぐにとれるヘアスプレーの残量を確認する。
その色は────青。
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