第2話 クラスのギャルと一緒に寝る
さて、俺と莉々香の出会いなんだけど、なんてことは無い。お互いの両親が仲が良いから小さい頃一緒に過ごしたことがあって、よくある「大きくなったらお嫁さんになる〜」が本当になっただけの事。
とは言っても今日までずっと一緒にいたわけじゃない。
「いっちゃん、お風呂上がったなら髪の毛ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ〜?」
「髪の毛そんなに長くないしすぐ乾くよ」
「ダ〜メ。はい、洗面所にUターン」
「はいはい」
物心ついた時から小学三年生くらいまでは一緒だったが、四年生になる頃、莉々香は親の仕事の都合で結構遠い所へと転校して行ったからだ。
それまでは俺の目の前にいる様な大人しい美少女。中学三年に進級するタイミングで戻って来た時にはギャルになっていてびっくりした。
転校先で何があったのかは聞いてないから分からないけど、莉々香が言うにはギャルという鎧らしい。まぁ、詳しくはそのうち話してくれるだろう。
「もうテーブルにご飯並べてあるからね」
「え? ごめん。ドライヤーの音で聞こえなかった」
「ごーはーんー! でーきーてーるーよー!」
「いや、そこまで大きな声出さなくても聞こえるって……」
莉々香は転校してもずっと俺の事を想い続けていたらしく、それを聞いた俺の母さんが莉々香の母親と一緒になって現在の同棲を勧めてきた。
今の高校に通うためには地元を離れて部屋を借りないといけなかったから、母さん曰く「どうせなら一緒に住んだらどう?」との事。なぜか父さんは気まずそうだったけど、母さん達の勢いに負けた感じだったな。
かと言って、もちろんそれに流されてこうなった訳ではなく、俺も莉々香の事がずっと好きだったし、莉々香も俺の事を好いてくれている。だから再会した時には俺から告白して、それを梨々花も受け入れて恋人同士になって今に至るというわけだ。今は五月だから同棲を始めてちょうど二ヶ月になるな。
「いっちゃん? なにぼ〜っとしてるの? ご飯冷めちゃうよ?」
「ん、いや、なんでもない」
「疲れてる? あ〜んしてあげよっか?」
「大丈夫だよ。自分で食べれるから」
「むぅ」
それにしても……改めて見ても学校と家でのこの違いには驚かされるな。見た目だけじゃなくて態度も。
教室の中では大きな声で笑ったりしてるのに、俺の前でだけは、はにかんで優しく笑ったり照れたり拗ねたりする。可愛いからいいんだけどさ。
ちなみに嫁とは言ってもまだ籍を入れられる歳ではないから正式な夫婦にはなれてない。莉々香はすっかり奥さん気取りだけどな。そして俺と梨々花の関係の進展具合は未だにキス止まり。それ以上はまだだ。風呂も別々で入る。その理由は莉々香が極度の恥ずかしがり屋だから。精一杯頑張って、同じ布団で寝るのがギリだそうだ。
それならあのスカートの短いギャルの格好は? って聞いたことあるけど、アレは別らしい。何が別なのか俺にはよくわからないけど。
「じゃあ私お風呂入ってくるね」
「ん、じゃあ俺は洗い物しておく」
「うん。お願いね」
夕飯も終わって少しゆっくりした後、莉々香は風呂に。俺は台所へとそれぞれ移動する。
あー、そうそう。莉々香は恥ずかしがり屋のくせにちょいちょいミスをするんだ。
「いっちゃ〜〜〜ん……」
俺が洗い物を終わらせてテレビを見ていると、脱衣場のほうから聞こえる情けない声。
「なんだ?」
「ひじょ〜に申し訳ないんですけど、パジャマを忘れてしまいまして……」
「そのまま出てくれば?」
「む、むりむりむりむりぃ〜!」
「わかってるって。今持ってくるから待ってろ」
「はぁ〜い。あ、持ってきたら声かけてね? 絶対ぜ〜ったい開けないでね!」
「はいはい」
こんなミスが日常茶飯事。ちょっと抜けてるんだ。
そしてパジャマに着替えた莉々香が俺の隣に座り、一緒にテレビを見ているうちに寄りかかってきてあくびをする。
「そろそろ寝るか?」
「っ! は、はい……」
莉々香は一瞬ビクッとなり、小さく頷く。俺はそれを確認すると先にベッドに入って壁の方を向いた。なんでも、俺に見られていると寝れないらしい。
「し、失礼します……」
少し緊張した声と共に俺のベッドに入ってくると、梨々花は背中にピタリとくっついてくる。
「こっち……見ないでね?」
「寝顔を見れないのは残念だな」
「だ、だって……。近くでいっちゃんの顔見てるとカッコよすぎて寝れないんだもん」
「嬉しいやら悲しいやら」
「ごめんね?」
「まぁいいよ。おやすみ」
「うん。おやすみ」
向かい合って寝れるのはいつになることやら……。
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