第2話 故郷
次は盛岡、盛岡です。
懐かしい地名を伝える社内アナウンスが耳に入り目が覚める。2時間ほど眠っていただろうか、窓の外はすっかり暗くなっており時折道路の街灯や民家の灯りが目に入る。
東京を出発した時の景色とはまるで別世界で田んぼや道路に雪が積もっているのが暗くとも分かった。
ポケットの乗車券を確認し手荷物を簡単にまとめているうちに新幹線の速度が落ちていく。
「4年ぶりか…」
最後に地元に帰省した事を思い返しながら座席を立ちデッキへ向かった。
新幹線は神室の地元である岩手県の盛岡駅に到着しドアが開いた。その瞬間東京の寒さとは異質の冷たい空気が頬、首筋を伝いゾクゾクっと体が震えた。
「寒すぎるだろ…」一人呟きホームと自動改札を抜け母親が迎えに来てくれる事になっている市街地とは逆側にあるオフィスビルの方へ歩き始めた。途中にあった温度計が氷点下3℃を示していた。
屋内通路を抜け外に出ると路面は凍結しておりキャリーケースを引きながらも注意して歩いているとハザードランプを点灯させている白いコンパクトカーが目に入った。
中で母親が軽く手を振っているのが見え少しだけ早歩きで車に向かい助手席に乗り込んだ。
「お疲れ様。大変だったわね。」
「あぁ心配かけてゴメン。ビックリしただろ?パワハラでクビになったなんて急に聞いて。」
「そりゃそうよ。けど母さんはあんたを信じてる。あんたは昔からなんか人に好かれるタイプだからね。そんな事をするような人じゃないってのは分かってるつもりだから。」
「都会の人間関係って難しいよ…」
母親の言葉に思いがけず涙がでそうになり経緯を話し自分を肯定する言い訳をしようと思ったが言葉が出なかった。
実家は盛岡市の隣の小さな町で車で約20分程度の道のりであるが車内では他愛もない話をしながら時間を過ごした。母親が聞きたい事をあえて聞かないように話してくれているのが分かりやるせない気持ちがこみ上げた。
「とにかくすぐにでも仕事と住むとこ探して迷惑かけないようにがんばるからさ。少しの間よろしく頼むよ。」
「まぁそう焦らなくても。少しゆっくりしてからでもいいんじゃないの?」
「そうも言ってられないよ。30過ぎて無職ってのは結構堪えるしそう簡単に仕事が見つかるとも限らないから。とりあえずさっそく明日から職安行ってみるよ。」
「そう。じゃ、頑張りなさい。」
そうこうしている間に実家に到着し祖父、祖母に挨拶を軽くすませ夕食を食べた。
夕食を終え風呂から上がり自分の部屋、いや自分の部屋だった部屋に入るとベットとテレビだけが置かれたガランとした雰囲気に懐かしさと寂しさを覚えた。ベッド横の窓を開け加熱式煙草の電源を入れ一服すると東京ではありえないほど音のない世界にしんしんと雪が降っていた。改めて地元に戻ったことを実感した。明日から始まる新しい生活の想像をし一つため息をつき布団に入った。
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